耕うん機編 Vol.02“クワ替り”が変えた農の風景誰もが扱える耕うん機を目指したHondaの挑戦
農業人口が減少し、担い手の作業負担が増える仕事量に対応するため、
誰もが簡単に使用可能な機械を開発するというものでした。
そこで、更なる農作業の負担軽減を目指して
Hondaは農業機械の軽量化・コンパクト化を推進しました。
1959年に販売を開始した耕うん機F150は、それまでは人の力で行なっていた農作業を機械化し、女性やお年寄りにも可能な仕事に変化させていきました。「誰もが使用可能な軽量・コンパクトな農業機械」というHondaのコンセプトが、F150の拡大につながったのです。
そしてF150の排気量を拡大したパワーアップモデルとなるF190が軌道に乗ると、Hondaは本格的に耕うん機の小型化と軽量化の開発速度を上げていきました。
F150をパワーアップした後継機「F190」
そして1961年にはF190よりも軽量化したF60の販売を開始しました。F60は部品点数を削減し、販売価格の引き下げと重量の軽減を実現。さらにエンジンの部品に、アルミ製よりも耐久性が高いとされていた鋳鉄製のものを採用し、より丈夫で扱いやすい耕うん機としたのです。
F190よりも小型化・軽量化した「F60」
その後もHondaは、1964年には前年に発売した汎用エンジンG30型を搭載した、車体重量80kgで4馬力のF30を販売開始。そして1965年には車体重量93kgという軽量ながら5馬力を発揮するF50の販売を開始するなど、重量80~90kgの商品を続けざまに販売しました。
このようにF150から始まったHondaの耕うん機は、更なる軽量化とコンパクト化を目指して進化を続けました。
中でも1966年に販売を開始したF25は、当時の耕うん機シリーズ最軽量の37kgという軽さで、折りたためば乗用車のトランクに入り、エンジンを取り外して除草機やポンプ、噴霧器の動力としても使用可能な耕うん機でした。
折り畳み式ハンドル、脱着可能なエンジンなどの特徴をそなえた「F25」
また、Hondaは農業の作業低減を目指して欧米への輸出も開始。最初は、1963年に農業大国であるフランスで開催されたパリ国際農機具サロンにF190とF60を出展。日本とは田畑の規模が異なるフランスでも、小型の農業機械として注目を浴び、自宅用菜園や園芸用の畑でも使用可能な小型耕うん機として評価されました。
Hondaが目指したものは「クワ替り」。つまり、それまで手作業で行なっていた田畑の作業を機械化することで、大幅な労力削減を実現し、農作業を新たな環境へと変えることができたのです。
そして、1970年代になると、新たに機械化に積極的ではなかった農家からの要望が強くなってきました。声を上げたのは、狭い農地や足場の悪い農地、加えて傾斜地にある農地や階段状に作られた段々畑や棚田などで農作業を行っていた農家です。
そこでHondaは、作業をする場所までの運搬に適し、狭い水田や畑での作業が可能な耕うん機の開発に着手しました。
そして1975年には「こまわりティラーF20」の販売を開始しました。こまわりは「女性専用耕うん機」というキャッチフレーズをつけたほどの小型耕うん機で、重量は26kg。2サイクル50ccエンジンを使用し、二重構造のエアクリーナーや、防音材を内蔵した大型マフラーを採用。小さくて軽い、静かな耕うん機として、軽く、機体に振り回されることなく傾斜地や、狭い田畑で使用可能なように、という商品でした。
当時、農業の主要な担い手となりつつあった女性の専用機として開発された「こまわりティラーF20」
そして1980年には、より作業者にとって排ガスや音などが気にならない4ストロークエンジンを搭載したこまめ(F200)の販売を開始しました。
こまめは、エンジン下にミッションとシャフトを設置したバーチカル構造で、可動部をコンパクトにレイアウトすることで、重量25.5kgを実現。従来の耕うん機と比較して「超小型」と位置づけられるサイズで、農業従事者だけでなく一般の方の使用も視野に、機能を「土を掘り起こすこと」に限定し、家庭菜園や園芸・土地の手入れなど多用途での使用を可能としました。
また、こまめ(F200)では、エンジンカバーには鉄板のかわりに樹脂を採用し、Honda農業機械シリーズの特徴である白色と赤色のカラーを施したデザインを採用。これまでの農業機械にはない、かわいいイメージに仕上げました。
こまめF200
こまめは大ヒット商品となり、年間販売目標4,500台のところ、発売初年度には3万8,600台の販売台数を記録。これは、フランスをはじめとした海外への輸出を含めた台数ですが、ピーク時には国内だけで5万台を販売。まさにF150の再来となったのでした。
こまめは農業機械の移動が難しい場所や田畑の作業でも軽トラックなどで運搬して使用が可能な手軽さが受け入れられました。また、当時から徐々に広がり始めた家庭菜園の用途とも合致。販売2年目にはテレビコマーシャルも放映し、パンフレットには、女性が作業している写真を掲載し「クワ替り、を実現した扱いやすい軽さ25.5kg。手作業の手間ひまを大きく軽減します。」というコピーを謳いました。
「こまめF200」は小型耕うん機の代名詞になり、その後登場した他メーカーのミニ耕うん機が「○○のこまめ」と呼ばれるほどの大ヒット作となりました。
これまで手作業で農作業をしていたような層に「クワ替り」の機械を提供することで、Hondaは人々の暮らしの役にたっていったのです。