発電機編
Vol.01きっかけは、当時のソニー社長
携帯発電機の開発がスタート
Hondaのパワープロダクツ事業は、1959年に耕うん機を発売し、1960年代になると携帯発電機の開発に着手しました。
きっかけは、ソニーの創業者のひとりで、当時ソニー株式会社の代表取締役社長だった井深大(いぶか・まさる)氏。ソニーは1959年、世界で初めての、場所を選ぶことなく持ち運び可能なポータブルテレビ(マイクロテレビ)という画期的な製品を開発しました。しかし、屋外などで電源やコンセントがないところでは使用できないことが大きな課題でした。
そこで、Honda創業者の本田宗一郎と親交のあった井深社長は、既に汎用エンジンで実績のある本田宗一郎に小型発電機の開発を依頼してきたのです。
「世界で初めての5インチテレビでしたが、当時は電池などもまだいいものがありませんでしたから、コンセントのないところでは使えなかったのです。ですから『ポータブル』と銘打ってはいるものの、そのままではどこへでも持っていくというわけにはいかなかった。そのころ、本田(宗一郎)さんのところで、小さなエンジンで回す小型発電機を手がけていましたから、テレビと一緒に持ち運べる小さな発電機があれば、とりあえず電源の問題は解決できます。だから、小型発電機の供給をお願いしました」(井深大著「わが友本田宗一郎」より)
1960年代といえば、日本が高度成長期に差し掛かった時代で、家庭用の電化製品が普及し始めた頃。冷蔵庫、洗濯機、掃除機が「三種の神器」、のちにカラーテレビ、クーラー、自動車が「3C=新・三種の神器」と呼ばれていた頃です。
そこでHondaは、電化製品の普及とレジャー時代の到来という時代背景を見越して、独自で小型発電機の開発を進めていたのです。
そして井深社長の要請もあって、Hondaはソニー向け小型発電機の開発に着手します。しかし最終的にソニーがマイクロテレビをAC電源/乾電池/充電式バッテリー式としたため、ソニー向けの発電機の供給を中止することになりました。
Hondaがソニーとの協業を見越して開発していたのは、出力40Wの超小型携帯発電機E40。排気量は14.8ccで、このエンジンのために、超小型キャブレターや点火装置も開発しました。E40の開発は完了し、小型・軽量でありながら防音型パッケージを採用するなど様々な挑戦をしHonda初の携帯型発電機として北米で販売しましたが、広く普及するには至りませんでした。
Honda携帯発電機誕生のきっかけとなったE40
そして1965年に、Hondaとして初めて市販を目指して開発した小型発電機E300が完成して販売を開始しました。E300は出力が300Wで、軽量・コンパクトで静穏性に優れた使いやすい発電機をコンセプトに開発が始まりました。コンパクトなエンジンを実現するために、サイドバルブ型で排気量50ccのエンジンを採用。持ち運びを考慮し、全体のデザインはフルカバー型のキュービックデザインとし、アタッシェケースをイメージした形状としました。
携帯発電機 E300
また、優しさと使いやすさをイメージさせるため、スイッチ類はすべて丸いデザインとしました。これは、ラジオのボリュームダイヤルをイメージさせることで、機械的なイメージを払拭しながら、馴染みのある安心感を持ってもらうためでした。
ラジオのボリュームダイヤルのようにデザインされたスイッチ類
E300開発の現場には本田宗一郎も頻繁に顔を出し、開発陣に多くの注文をつけました。曰く「(発電機の)底のデザインもきちんとしろ。見えない部分にも気配りを忘れるな」「誰が見ても安心感の持てる、機械を感じさせないフィーリングを出すんだ」「音は小さく、振動は抑えろ」--世の中にないものを作って提供したい、という本田のこだわりと思いが開発陣にも伝わった商品となったのです。※1
E300は開発中に排気量を55ccに拡大させ、直流/交流切り替え式で300Wまで使用可能で、重量17kgの携帯発電機として販売を開始。屋外で照明や電気ポット、テレビやラジオにも使用可能とし、予想以上の規模で売上が伸びました。特に、お祭りや縁日の屋台では、照明用電源として重宝され、需要が一気に全国に広まりました。
E300は国内だけではなく、欧米や東南アジア、アフリカにも輸出され、1980年に累計販売台数50万台を突破。軽量・コンパクトで、誰でも扱いやすいという、汎用エンジンや耕うん機にも通じる基本コンセプトは、現在のHonda発電機EUシリーズにも受け継がれています。
1966年には、E300の重量の半分以下、8kgまで軽量化したE80を発売。こちらは排気量21cc、交流専用で80Wまで使用可能で持ち運べるレジャー用電源として支持を得ました。
E80
さらに1965年にE1000を、1966年にはE3000を発売。E1000とE3000は携帯型ではなく、E1000が1kW、E3000は3kWの出力を実現し、建設用機械などの業務用電源や、病院や自家用の非常電源として使用可能な商品でした。
E1000
E3000
電源のないところでも電化製品を使用可能とする発電機は、Hondaが目指す「技術で人々の暮らしを楽にしたい」という想いを具現化したものだったのです。
※1:「語り継ぎたいこと。チャレンジの50年」(創立50周年記念社史)より