日本の二輪ロードレースの最高峰、MFJ全日本ロードレース選手権。その舞台へのステップアップを目指すライダーたちが、各地の地方選手権で経験と実績を積んでいます。その舞台のひとつが、鈴鹿サンデーロードレースです。現在、世界選手権Moto2™クラスで活躍する古里太陽選手や、MotoGP™ライダーの小椋藍選手も、鈴鹿サンデーに出場した経験があります。

世界を目指す第一歩

二輪車ロードレースの世界最高峰といえばFIM世界選手権MotoGP、日本の最高峰はMFJ全日本ロードレース選手権です。ポケットバイクやミニバイクのレースを経験したライダーが、次のステップとして挑戦する舞台のひとつが、日本各地で開催されている地方選手権(エリア選手権)です。

この地方選手権を主戦場として若手の育成を担っているのがTTR=Takeishi Technical Racingです。代表を務めるのは、かつてHondaのワークスライダーとしてMFJ全日本ロードレース選手権シリーズやFIM世界耐久選手権・鈴鹿8時間耐久ロードレース(鈴鹿8耐)で活躍した武石伸也さん。

かつてのトップライダーが始めた若手ライダーの育成

北海道でロードレースを始めた武石さんは、1992年にHondaのレース部門であるHRCと契約し、MFJ全日本ロードレースに参戦。その年には鈴鹿8耐で日本人として初めてポールポジションを獲得し、決勝でも3位表彰台を獲得しました。トップライダーと呼ばれるにふさわしい成績を残し、2016年を最後に全日本ロードレースへの参戦を終えます。

その後、地元の北海道でライディングスクールなどを行ないながら、2019年にTTRとしての活動をスタートさせました。

武石さんが北海道でTTRを設立したのは、二輪車に乗ることができる期間の短い北海道のシーズンオフに、レースの聖地ともいえる鈴鹿サーキットで走行するためでした。北海道のライダーがTTRというチームを介して全国区で活動する橋渡しをしたかったのです。

「最初にTTRを設立した目的はレース活動だけでなく、僕らが若いころに先輩や二輪車販売店の社長から教わったような、レースの取り組み方や礼儀、心構えを若い世代に伝えていきたいというものでした」(武石さん)

その後、武石さんは2022年にTTRの活動拠点を北海道から鈴鹿へ移し、北海道TTRの活動は縮小しました。鈴鹿では、趣味としてレースを楽しむライダーのサポートや、ライディングスクールの講師など、活動の幅を広げました。

このような活動の中で2024年に出会ったのが、当時16歳のターナー健人選手でした。健人選手は日本とヨーロッパの様々なレースに参戦していましたが、ちょうどレースに対する熱意を失いかけていた時期でした。

「鈴鹿の走行ライセンスを取得するためにサーキットを走行していた時に、アドバイザーだった武石監督から、さまざまな的確なアドバイスを受けました」(健人選手)
「武石監督と話をした時に、彼の豊富な経験や、若手指導に対する考え方に共感して健人を託しました」(健人選手の父・サイモンさん)

そして2025年、TTRのチーム員となった健人選手に、武石監督は鈴鹿サンデーロードレースに、健人選手が経験のないCBR600RR(600cc)での参戦を提案し、4戦2勝で見事にシリーズチャンピオン獲得に導きます。

「健人選手のやる気が薄れている時期だと聞いていたので、練習よりもレースでライバルと競って、勝つ喜びを感じた方が効果的と考えて鈴鹿サンデーロードレースへの参戦を提案しました。身長も180cm近かったので体格に合わせて600ccクラスへの参戦を提案して、参戦の初年度でチャンピオンも獲ってくれました」(武石監督)

「TTRに入るまで武石監督の経歴などは詳しく知りませんでしたが、ライディングのアドバイスは的確で、走行で迷った時などはマシンのセッティングも監督が決めてくれます。監督の言うことを聞いていたら速くなれる、と思いました」(健人選手)

ターナー健人選手

健人選手の目標は、鈴鹿サンデーの次に全日本ロードレースにステップアップすること。そして、テレビや動画で見たことのある鈴鹿8時間耐久レースへも出場してみたいといいます。実際に、2026年には鈴鹿8耐参戦へのオファーがありましたが、出場できる年齢まで2か月足りずに実現しませんでした。

「健人選手はこれまでの海外経験で、世界の壁の高さを知っています。だから彼の目標は現実的だし、僕は日本でプロライダーになったらいいとアドバイスしています。日本で走っていれば、活躍次第でサポートを得られるし、成績を出して、自分のシートを確保してレースを続けていったらいいと思います」(武石監督)

CBR600RRで走行するターナー健人選手

ホンダ育成プログラムとのコラボレーション

若手育成を担うTTRは、元MotoGPライダーである岡田忠之さんが校長を務め、若手ライダーの育成をする「ホンダ・レーシング・スクール・鈴鹿(以下、HRS)」とも連携しています。武石さんは、もともとHondaのファクトリーライダーとして親交のあった岡田校長から、オーストラリア人ライダー、ジャクソン・マクドナルド選手を預かってほしいという依頼を受けたのです。

ジャクソン選手(左)と武石監督(右)、岡田HRS(Motoクラス)校長(右から2人目)

当時13歳のジャクソン選手は、オーストラリアやスペインでジュニアレースに参戦。HRSへの入校時期は過ぎていましたが、走りを見た岡田校長は特例で受け入れ、トレーニングだけでなく実戦経験を積ませるため、鈴鹿サンデーロードレースへの参戦を武石監督に依頼しました。

ジャクソン選手はHRS初参加の日、模擬レースでスクール生を抜き去って優勝。岡田校長は、競り合いの強さや、慣れないコースを攻略する能力を高く評価しました。

「ジャクソン選手はスペインのジュニアスクールに参加していましたが、そこでHRSのことを知ったようで、連絡をもらいました。ジャクソン選手の走りを見て実戦にも参加した方が良いと考え、鈴鹿サンデーロードレースへの参戦を勧めました。その受け入れ先には武石監督のTTRが良いと私が判断しました。武石監督なら、ジャクソン選手のレベルをうまく選手権レベルまで上げてくれると考えたからです」(岡田校長)

ジャクソン選手を引き受けた武石監督は、ライダーとしてのジャクソン選手を豊富な経験をもとに評価します。

「ジャクソン選手は、幼いころからモトクロスやロードレースの指導を受けているので、ライダーとして幅広い技術を身につけています。速いだけじゃなくて、前のライダーをいつ抜けば勝てるか、どういうペース配分をすれば勝てるかを冷静に考える『レース脳』があります」(武石監督)

ジャクソン選手にアドバイスをする武石監督

「武石監督は、メカニックとしてマシンを仕上げてくれます。走り方はHRSで岡田校長にアドバイスをしてもらい、実戦では武石監督と一緒にレースに参戦します。武石監督は情熱があって、すごく知識を持っている。TTRに入ってそんなに時間は経っていないけど、100%信頼しています」(ジャクソン選手)

武石監督を100%信頼しているというジャクソン選手

ジャクソン選手は今後「Idemitsu Moto4 Asia Cup」2027年シーズンの選考会に参加する予定で、武石監督はジャクソン選手の次のステップでの成功を願っています。

TTRの活動を支えるHondaパワープロダクツ

TTRは健人選手やジャクソン選手などの若手育成に加えて、趣味としてレースを楽しむライダーもサポート。レースサポートと若手ライダーの育成という2本柱のチームとして活動の幅を広げています。

現在TTRでは、Hondaの発電機EU24iとEU9iに加えて、蓄電機 LiB-AID E500 for Workが活躍しています。EU24iは主にピット内でのタイヤウォーマーやエンジンを冷却するファンに使用し、EU9iはスターティンググリッドでのタイヤウォーマーへの給電に使用されています。また、LiB-AID E500 for Workはパソコン周辺で活躍しています。

ピット内でエンジンの冷却ファンに電源を供給するHonda発電機EU24i

武石監督のノートPCをHonda蓄電機LiB-AID E500 for Workがサポート

今後、全日本ロードレース選手権シリーズへと活動の場を広げ、常設ピットを使用できずにテントをピットとして使う場合には、Hondaの発電機や蓄電機が全面的に電源の確保を支えます。

ロードレースのトップライダーとして活躍した武石監督が率いるTTRは北海道から聖地の鈴鹿へと居を移し、趣味としてレースを楽しむライダーをサポートしながら、次のステップを目指す若手ライダーの育成という役割を担うチームへと進化しました。

いつか、武石さんのようなトップライダーがTTRから生まれる。

その未来を、Hondaのパワープロダクツがレースの現場から支えています。