パワープロダクツ Behind The Scenes

意外なところで活躍している
Hondaパワープロダクツの世界をご紹介します。

洗車が早いとバイクも速い~泥とほこりとの戦い
モトクロスチャンピオンをサポートするHondaパワープロダクツ

モトクロスとは、オフロードと呼ばれるダート(=未舗装路)を使うレース。オートバイのレースのうち、最もフィジカルが要求される、「泥上の格闘技」とも言われるモータースポーツだ。タイヤを滑らせてコーナーをクリアし、連続する凹凸を乗り越え、数10mの飛距離に及ぶジャンプを飛ぶ。初めてモトクロスを観る人は、きっとその迫力に驚きを隠せないことになる。

モトクロスレジェンドと4歳の女の子

全日本モトクロス選手権レディスクラス・チャンピオン 川井 麻央(まなか)選手

モトクロスの魅力に、4歳にして取りつかれた少女がいる。川井 麻央(まなか)選手――2020年/2021年/2023年と全日本モトクロス選手権レディスクラスでチャンピオンを獲得、現在「女王」と呼ばれるほど、圧倒的に強い22歳だ。

まだ4歳だった川井選手が、父のクルマに乗っていて、小さなオートバイが走るシーンを目撃したことがあった。 埼玉県川越市。長辺が50m、短辺が15mほどの土の広場がある。凸凹が設定されていて、周囲にはスポンジバリアが置かれてある――そこが「T.E.スポーツ」が実施している、3歳から小中学生までの未経験者向けのキッズライディングスクールのコース。この前を、川井選手は父のクルマで何度も通っていたのだ。

T.E.スポーツとは、トウフクジ・エンタープライズ・スポーツの略。日本モトクロス界のレジェンドである、東福寺 保雄さんの主宰するチームだ。 東福寺さんは、モトクロス全日本選手権に参戦し、1976年から1992年までに日本最高峰の「国際A級」クラスで9つの日本タイトルを獲得。今なお、日本モトクロス史上最強の男と呼ばれている。

T.E.スポーツ 東福寺 保雄氏
キッズライディングスクールのコースは決して広くはないが、このサイズがライダーの技量を育てるのに有効だそうだ。

1992年に現役を引退した東福寺さんは、翌96年から後進の指導にあたり、数々の名選手を育てあげながら、キッズ世代からのモトクロスやモータースポーツ普及に努めている。2023年にはその功績が認められて、文部科学省が制定する「スポーツ功労者」顕彰を授与されたばかりだ。

「現役を引退した時、Hondaから『若手のスクールをやって欲しい』という要請を受けたんです。それで、全国のスクールイベントに出かけながら、これから大事なのは子どもたちだな、って思うようになって、常設コースの必要性を感じて、今の場所に子どもたちの体験コースを作ったんです」(東福寺さん)

小学校の文集に記した「モトクロスチャンピオン」

「よくコースの方で子どもの泣き声がしていて、あれー、誰かなんかやっちゃったかな、ケガしたのかな、って行ってみると、帰りたくない、まだまだ乗るんだ、って麻央が駄々こねてる(笑)。麻央ちゃんの乗る時間はもう終わったんだよ、また次に来たとき乗ろうね、ってみんなでなだめたのを覚えてます」(東福寺さん)

それから川井選手は、みるみるモトクロスライダーとして上達。小学校6年生で、全日本モトクロス選手権に参戦。小学校の卒業文集に「夢はモトクロスのチャンピオン」と書き記すほどになり、14歳で初優勝。中学2年生での全日本選手権優勝は、今なお日本レディスモトクロスの最年少記録だ。

チャンピオンナンバー1を付けて走る川井選手

2020年には18歳で全戦全勝の初チャンピオンを獲得。2021年と2023年には再びチャンピオンを獲得している。

2024年シーズンは、開幕戦で優勝するも、レース後の車検で車両規定違反が発覚して失格。最下位からのシーズンスタートだったが、以降5戦で4勝を挙げ、最終戦前で2位と同ポイント。最終戦では序盤こそ大きく離されたものの、終盤でトップに躍り出て、そのまま優勝し、自身4回目の全日本タイトルを獲得。これで2020年の全勝チャンピオンから5年で4回目のタイトル奪取。文句なし、日本レディスモトクロス史に残るライダーだろう。

レースでも練習日でも、チームのそばにパワープロダクツ

晴れのレースはもちろん、雨のレースも少なくないモトクロスでは、泥やほこりにまみれながら、走行後に選手はまず洗車場に行き、自らのウェアについた泥やほこりを落とし、ブーツにこびりついた泥は、高圧洗浄機で入念に洗い飛ばす。だから、ライダーたちのウェアは、いつもきれいで、観戦に来ている子どもたちの憧れになる。

走行後、ブーツの泥を高圧洗浄機で落とす川井選手

「チームはいま、Hondaの高圧洗浄機『WS1513』を使っています。これ、パドックでいちばんの高性能なんですよ!コースによっては落ちにくい、粘土みたいな泥がこびりつくこともあるんですが、アッという間にきれいになります。そうすると、すぐにピットに戻れて、次の走行の準備にかかれるんです」川井選手は言う。

各チームが持ち込んだ洗浄機が雑然と並ぶ中に、T.E.スポーツが使用する高圧洗浄機『WS1513』も置かれていた。

モトクロスコースの洗車場には、各チームが持ち込んだ高圧洗浄機が数10基、無秩序に並んでしる。ライダーがウエアの泥やほこりを落とした後は、メカニックがマシンを洗車する番だ。

「モトクロスはね、走ること、整備すること、それに洗車が大事なんです。いつも万全の状態で走るためには、まず洗車と整備。洗車して綺麗な状態じゃないと、整備も始められない。僕がモトクロスはじめた頃は、バケツに水くんで、ヘラとブラシで泥を落として、時間がかかってしょうがなかった。それが今は高圧洗浄機でアッという間。洗車だって楽しいよ(笑)。いち早く洗車を終えて、次のセッションのための整備時間を作れるから、洗車機は必要不可欠な整備ツールなんです」とは東福寺さん。

晴れの日でも、一度コースを走ればこの程度の泥はついてしまう。

川井選手がブーツの泥を落としたあとは、メカニックがマシンの洗浄を行う。

「麻央はね、本当に負けず嫌い。それは幼稚園、小学生の頃から何も変わりませんね。レースに勝てるようになってからは、ピンポイントで『ああいう時はこうしたら?』って、心構えとか、乗り方じゃないところをアドバイスするだけ。みるみる吸収していきますよ」と東福寺さんは言う。

「監督は、こまかいことはなにも教えてくれないで、私たちが乗るバイクを、いつもきれいに整備してくれる。今では、私がうーん、と迷い始めたころに、少しだけ、ひと言だけなにか言ってくれる。それが深いんです、効きますね」と川井選手は言う。

川井選手に「いちばん効いたアドバイスは?」と尋ねてみた。
「乗ることを楽しめ、ってことです。チャンピオンになる数年間、どうしても勝てなくて、モトクロスがいやになりかけた時があったんですけど、その時も『麻央、楽しんで走ってるか?それができなかったら上手く乗れないぞ』って。それは、ずっと心に染みています」という。
それを東福寺さんにも聞いてみる。

「うーん、そんなこと言ったのかな(笑)。でも楽しんで走る、は僕が現役の頃もずっと心がけていたこと。麻央はね、走りがカッコいいんですよ。コーナリングもうまいし、ジャンプもきれい。だからそれをみんなに見せつけてやりなさい、ってことを言ったかもしれませんね。彼女は天性のカンなのか、周回ごとにライン(=走る場所)を変えながら走ることができるんです。他の選手が1か所をベストラインだと定めて固執するところを、サッと変えてクリアしていく。だから速い、あれは麻央の才能でしょうね」(東福寺さん)

レースの時、トレーニングの時には、チームはピット用にテントを張り、そこにマシンのメンテナンススペース、奥には選手やスタッフの休憩所も用意する。電源のないモトクロスコースのテントでT.E.スポーツが使用しているのが、Hondaパワープロダクツの発電機EU28isだ。洗車したマシンの水滴を飛ばしたり、マシン整備の時のエアツールの電源として活躍している。

トラックに積まれたEU28is(奥)とEU18i

電源のないモトクロスサーキットでは、発電機もまた重要なツールだ

「現在T.E.スポーツには、ライダーが8人在籍しています。それにメカニックやサポートスタッフを加えると、30人くらいになる。食事もテントの中で作るし、暑い時には冷風扇も回す。携帯電話の充電だってします。Hondaの発電機は、一日じゅう回していても、音も気にならないのがいい」とは、マネージャーでチームの広報を担う、根岸純子さん。

T.E.スポーツのテントやピットのそばには、Hondaパワープロダクツの高圧洗浄機、発電機がある。
日本レディスモトクロス、チャンピオン獲得には、Hondaパワープロダクツが役に立っています。

川井選手は2024年シーズンを2年連続、自身4回目のチャンピオン獲得で締めくくった。