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ハローウッズの10年 豊かな茂木の里山とともに
文:大野晴一郎
【Vol.3】文明と自然の共存へのスタート
カブトムシの丘に建つ高さ18メートルの樹冠タワーからの眺めは圧巻だ。低山が連なるツインリンクもてぎは言うまでもなく、周辺も一望できる。
カブトムシの丘に建つ高さ18メートルの樹冠タワーからの眺めは圧巻だ。低山が連なるツインリンクもてぎは言うまでもなく、周辺も一望できる。

楓は摂理に従って、自然をいじることができる人だ。どんなに手を加えても差し支えのない箇所と手を付けてはまずい一帯を、明確に見分けることができる。ということは微気候的に森を観察することができ、小気候的、中気候的にも、森の活性化のための気候因子の壺を捉えているということだ。だから無用な植被に対しては迷わず鉈を振るうことができ、瞬時に間伐プランを頭に描けるわけだ。これは凄いことである。

遊び心も大いにある。
たとえば氷は、楓にとっておもちゃである。
氷結した湖面に氷塊でイグルーを組み上げ、その横に「氷上の湯船」を造って湯を張り、「くり抜き氷塊ジョッキ」に注いだビールでゲストをもてなす。
氷塊のテーブルが組まれたアイスバーや、氷壁に囲われたアイスホテルなどは、今でこそ北欧名物のように言われているが、30数年前、楓が世界に先駆けて考案した。
1997年の3月には、世界初の「氷上のアイスミュージアム」が、楓の陣頭指揮で建設された。氷壁に沿って人の動線が確保され、そこに彼の友人で動物写真家の故・星野道夫が命を賭して撮影した作品が並んだ。一部は敢えて屋外展示とした。酷寒の大地の風を感じながら作品を味わってほしいという、強烈なメッセージがそこにはあった。

ッチョウトンボの棚田周辺では、ハッチョウトンボは言うまもなく、あぜ道、あるいはデッキから水生昆虫などの観察ができる。写真左に見えているのはモノラックのレール。
ハッチョウトンボの棚田周辺では、ハッチョウトンボは言うまもなく、あぜ道、あるいはデッキから水生昆虫などの観察ができる。写真左に見えているのはモノラックのレール。
間伐材を利用したキャストの手作りのオブジェが、森の中の道標としてゲストを迎える。
間伐材を利用したキャストの手作りのオブジェ、「木人」のファミリーが、森の中の道標としてゲストを迎える。



かつては鬱蒼と樹木が茂り、地面に光りの入らない森だったが、今では計画的に伐採が行われ、歩きやすい小径も造られている。
かつては鬱蒼と樹木が茂り、地面に光りの入らない森だったが、今では計画的に伐採が行われ、歩きやすい小径も造られている。

1998年10月、高梨に誘われるままに楓が茂木を訪れ、サーキットを取り囲む森に足を踏み入れた。相手は194万坪にも及ぶ里山だ。未踏の山に入るときと同じ勇躍感に包まれながら獣道に沿って少しずつ標高を重ね、楓得意の観察眼で周囲を見回しているときのことだった。突然、サーキットでの走行音が辺りに響き渡った。そればかりではない。頭の真上では単発飛行機がアクロバチックな飛行を繰り広げ、空から唸るようなエンジン音が降ってくる。
幽寂を楽しむべき山々とはまるで違う環境に愕然とした。そして「こんなところにいられるか!」という怒りが爆発する。

楓のこの怒りは関係者の間では有名である。そして然別湖へ早々に帰ることを決めるのだが、「でもせっかくだから、帰る前に栃木の美味い酒を飲んでから」と、酒好きの楓は杯を傾けることにした。そしてある結論に達する。それは「よくよく考えてみれば環境保護の重要性を主張する一方で、文明のご利益にあずかりながら生きているのが人間だ。クルマの無い生活は不便だし、情報源としてパソコンを使い、テレビとラジオに耳目を向けつつ日々の生活を送っている。自然と文明という矛盾の中で生きる人間のことを、おれは一度たりとも否定したことはない」というものだ。
「それならば……」とサーキット周辺の山を徹底的に歩いてみることにした。それも半端な山中走破ではなく、寝袋持参で留まることを前提にしての再入山だ。そして山の斜面を埋めるどんぐりに足を滑らせながら、その圧倒的な量に「すげー!」と唸りを挙げることになる。  (Vol.4へ続く)


文:大野晴一郎