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ハローウッズの10年 豊かな茂木の里山とともに
文:大野晴一郎
【Vol.2】愛犬とともに然別湖の湖面を行く楓隆一郎。
愛犬とともに然別湖の湖面を行く楓隆一郎。
愛犬とともに然別湖の湖面を行く楓隆一郎。

ツインリンクもてぎがオープンした頃、Hondaはサーキットを取り巻く自然を利用して、次世代を担う子どもたちと触れ合う方法と可能性を探っていた。子どもと親が一緒になって寛ぎ、遊び、癒されるユートピアを思い描いていたのである。しかしそれを具現化するためには、里山の魅力を引き出すことができる森のプロデューサーが必要だった。
「だったら、あいつしかいない」と、楓隆一郎という男の名前を挙げたのは、Honda広報部(当時)の高梨正見だった。

楓隆一郎。1957年、鹿児島県生まれ。
1981年に酷寒の大地に惚れて然別湖畔に移り住み、1986年には自然のあり方や観察方法をツーリストに説くために、然別湖ネイチャーセンターを設立、主宰した。感性を研ぎ澄まして自然を見つめる方法を知れば、そこには誰もが享受することのできる感動がある。それを北海道の大自然の中で伝えようとしていた。

わたしが楓とはじめて会ったのは然別湖だった。
然別湖ネイチャーセンターの、親分時代の楓である。
もともと「環境に優しく海に遊ぶ」という取材テーマを抱えていたわたしは、世界でも類を見ない環境性能に優れた船外機として、Hondaの4ストローク船外機に注目していた。環境優位性から考えて4ストロークエンジンしかあり得ないと言い切ったのは、Hondaの創業者である本田宗一郎である。その言葉通り、同社が世の中に送り出してきた船外機は、船外機生産を開始した1964年以降、すべて4ストロークエンジンだった。そして現行モデルの基軸となる「BFシリーズ」が登場。ユーザー追跡取材の対象のひとりが楓だった。

BF船外機の15馬力(旧型)を装着した小型ボートを操船する楓。
BF船外機の15馬力(旧型)を装着した小型ボートを操船する楓。
オショロコマの食性調査のため、キャスティングを行う。
オショロコマの食性調査のため、キャスティングを行う。

然別湖のオショロコマは、イワナの陸封型で、秋にヤンベツ川を遡上し、産卵する。日本国内では、然別湖でしか見られない魚種「ミヤベイワナ」である。
然別湖のオショロコマは、イワナの陸封型で、秋にヤンベツ川を遡上し、産卵する。日本国内では、然別湖でしか見られない魚種「ミヤベイワナ」である。
然別湖は標高797mに位置する火山堰止湖で、周囲はトドマツやシラカバなどの原始林に囲まれている貧栄養湖だが、圧倒的な透明度を誇る。
然別湖は標高797mに位置する火山堰止湖で、周囲はトドマツやシラカバなどの原始林に囲まれている貧栄養湖だが、圧倒的な透明度を誇る。

その日、然別湖に都会からやって来たという子どもたちは、湖畔でカヤックの扱い方の基本をネイチャーセンターのスタッフに習うと、勇んで湖面に漕ぎ出していった。しかし力任せの下手なパドリングでは推力が生まれるはずもなく、結局のところ風に押し流されて、吹き溜まってしまう。そこへ登場するのが楓だ。愛犬のエスキモー犬を同乗させ、ミズスマシのようにカヤックを滑らせて、子どもたちの前に踊り出る。パドリングするおじさんは怖そうな顔をしているが、犬は可愛い。子どもたちは犬のそばに行こうとするのだが、まともにカヤックを扱うことはできず、穏やかな湖面で悪戦苦闘する。

思うようにパドリングできない子どもたちの中央に、犬連れの楓が登場。
思うようにパドリングできない子どもたちの中央に、犬連れの楓が登場。

興味深いのはここからだ。
子どもたちは「恰好いい!」と呟きながら楓を凝視し、自分たちの動作の無駄に気づく。効率的なパドルの扱い方を知るわけだ。いきなり腕の動きが大きくなり、湖面を優しくゆっくり掻くようになる。しかも腕の振りに合わせて、上体を左右に傾斜させたりしている。体を使ったパドリングを真似ているのだ。いきなりパドリングの名手に変貌したとまでは言わないが、純粋な気持ちで上手くなりたいと思う子どもたちは、見せて教えるという術を心得た楓の一挙一道を目で追い続け、そのコツを凄まじい集中力で吸収していくのである。  (Vol.3へ続く)

エンジンを止め、子どもたちにパドリングを教える楓。ついつい大声を張り上げ、熱血指導教官になってしまう。
エンジンを止め、子どもたちにパドリングを教える楓。ついつい大声を張り上げ、熱血指導教官になってしまう。

文:大野晴一郎
写真協力:楓隆一郎・然別湖ネイチャーセンター