アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト支援

機械系学科のない強豪校。機械系学科のない強豪校。

香川高等専門学校(以下 香川高専) 詫間キャンパスは、高専ロボコン最多の
優勝回数を誇る強豪校。2006年には高専ロボコン史上初となる優勝&ロボコン
大賞のダブル受賞も達成しています。2015年全国大会では悔しい結果となりまし
たが、マシンの独創性や性能が高く評価され、「Honda賞」に輝きました。
全国大会常連ともいえるこの学校には、実は機械工学科がありません。
専門分野の科目がない、工作設備も十分でない、そんな不利な環境の中、
独自の製作体制を確立し、ロボットづくりに取り組んでいます。
また、学校がある三豊市は子どもの理科離れ対策に力を入れており、
モノづくりに親しむ機会が多い地域としても知られています。

豊かな自然に囲まれた香川高専 詫間キャンパス。

校舎の窓からは詫間湾を臨むことができる。

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涙をのんだ全国大会で、まさかのHonda賞。涙をのんだ全国大会で、まさかのHonda賞。

「FORCE(フォース)」と名付けたロボットとともに両国国技館の全国大会の
フィールドに立ったのは、メイン操縦者 横井一広君、サブ操縦者 間部僚太君、
指示担当 前田大輝君の3人。本領を発揮できないまま終わり肩を落としていた時、
Honda賞受賞を告げられました。「悔しい気持ちでいっぱいだったので、
最初は何のことだかよくわからなかったです。ASIMOの開発責任者から賞がもらえる
とわかって、みんなで驚きました」(横井君)。

受賞の決め手となったのは、「発射台にそろばんの機構を使う」という
ユニークな発想。2本の発射台にはそろばんの玉がびっしり並んでいます。
「よく滑るし、軽い。接触面が小さいので抵抗が少ない。
いいことづくめでした」と話すのはチームリーダーを務めた間部君。しかし、
彼を含め多くのメンバーが、そろばんに触るのも初めてだったとか。そのため、
このアイデアにたどりつくまで、さまざまな“滑る素材”を試したといいます。
「紙ガムテープや敷居スベリなど、使えそうなモノはとりあえず何でもやってみまし
た。ベビーパウダーも投入したり・・・でも思うような成果が出なくて」。
試作の数は増えるものの、勝敗のカギとなる発射台の機構はなかなか決まらず、
長く苦しい時間が続きました。そんな中、そろばん玉で滑らせるという案が浮上。
すぐに調達に走りました。「プラスチック製なら200~300円くらいで買える
のでコスト的にも助かりました。大量に買い過ぎて在庫が無くなってしまったお店もありました(笑)」。当時の様子を話してくれた前田君は、数少ないそろばん経験者。
「どうかうまくいってくれ!と祈るような気持ちで試したら、手応えがあった。
やっと前に進めると思いました」(横井君)。

国技館のフィールドに立った
横井君(左)、間部君(中央)、前田君(右)は全員5年生。

そろばんの機構を発射台に取り入れた驚きのアイデア。

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「まずはやってみる」独創のロボットづくり。「まずはやってみる」独創のロボットづくり。

香川高専 詫間キャンパスでロボコンに挑戦する学生たちは、
TEAM ARK(チームアーク)という部活動に所属しています。
顧問の三附K典先生によると、彼らのロボットづくりはかなりユニークなんだそう。
「ロボコン参加校のほとんどには機械系学科があって、研究室や工作室などの
設備も充実しています。図面を引き、設計図をもとに製作を進めるので、
重さや性能などの見込みもたてやすい。効率的ですよね。でも、
うちはそれができない。工作機械も最低限のものしかないし、そもそも図面が
描けないんです」。普通のやり方ができないなら、オリジナルでやるしかない。
TEAM ARKのロボットづくりは、お互いのアイデアを口頭やイラストで伝え合い、
共有するところから始まります。そして、とりあえずはつくってみる。
そのアイデアが本当に実現できるのか、形にしながら確認していくといいます。
多少の不便さはあると言いながらも、「もうずっとこのやり方なので、
意思疎通はスムーズですよ」と笑顔で話すメンバーたち。
「ただし、ミーティングは毎日やりました。一日の最後に、それぞれの作業内容や
進捗、問題点などをホワイトボードに書き出し、次の日にやることを全員で
確認してから帰るよう決めていました」(間部君)。

コミュニケーションの拠点となった部室のホワイトボード。

					毎日のミーティングを記録したノート。試作マシンのテスト結果や戦略など、プロジェクトのすべてが記録されている。

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コラム 成長を信じて見守った、家族のロボコン チームリーダー間部君のお母様 間部 貴士子さんコラム 成長を信じて見守った、家族のロボコン チームリーダー間部君のお母様 間部 貴士子さん

「家族全員、ロボコンファンなんです。毎年テレビで見ていた大会に、まさか自分の息子が出場するとは・・・
今でも信じられない気持ちです。ロボコンは、観るのは楽しいですが、関わると大変ですね。
実際に子どもを支える側になってみて、そう痛感しました。帰りが遅かったり、追いつめられている様子だったり、
心配は尽きませんでしたが、“夢中になってがんばっているのだから、親は余計な口を出すまい”と決め、
黙って見守ることを心がけました。ただ、食事面だけは気をつかいましたね。
遅くなりがちな夕食は炭水化物を摂りすぎないよう、なるべく野菜中心のメニューを用意していました。
息子はもともと、表に立ってみんなを引っ張るタイプではなく、どちらかというと陰で支えるタイプ。
リーダーに任命されてかなり悩んでいるようだったので、その時だけは『ムリに自分を変える必要はないんじゃない?』
と声をかけました。仲間や後輩、先生に助けていただいて、彼なりに貴重な体験をしたと思います」

ロボコン通のお母様は、昔見たTV放送で三武謳カを
知っていたそう。その後、香川県への転居、息子の入学、
顧問がその三武謳カだったと偶然が重なり、
2015年大会では国技館で応援する立場に。間部君が小学生の頃に弟とつくったASIMOのプラモデル。
Honda賞受賞を聞いて、不思議なご縁を感じたという。

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アイデアと汗の結晶、「FORCE」ができるまで。
アイデアと汗の結晶、「FORCE」ができるまで。

マシンの基礎となる台車の製作を担当した5年生の美濃君。太いまま残したフレーム(右;10×15mm)と、軽量化により細くしたフレーム(左:10×10mm)。

ロボットの台車製作を担当した美濃賢太君は、
「強度と軽さのバランスを取るのに苦労しました」と語ります。
「最初はメカナムホイールという素材でしたが、
途中でより軽いアルミホイールに変更しました。
さらに軽量化が必要になったので、今度はフレームの太さを見直すことに。
強度を維持するため太くしていた角材を、可能な限り細いものに
変えていきました」。少しでも軽く、ただし強度は落とさずに・・・。
何度も調整を繰り返し、強さと軽さを両立するギリギリのバランスで仕上げました。

Honda賞の決め手にもなった発射台の機構。
そろばんを使うと決まった後、実際の製作を担当したのが森由有也君と
河上岳君です。「そろばん玉の小さな穴に合うネジが見つかるか不安でしたが、
試していったら何個目かでスッと通った。これはいける!と2人で興奮しました」。
さらに、タイヤの回転を利用して輪を飛ばす仕組みを森君が思いつきます。
こうしてプロジェクトは大きく進みました。
ちなみに森君は「FORCE」の名付け親。
「輪っかの素材のビニール“ホース”と、“強さ(force)”をかけた」
というネーミングは、満場一致で採用が決まったそうです。

回路担当の間部君が目指したのは、誰でも操縦がしやすい「やさしい回路」。
「難しくつくりすぎると、使う人は理解するのに時間がかかるし、
作り手も一から説明するのは大変です。シンプルで簡単な構造にしておけば、
その手間がいらないからお互いにわかりやすいですよね。
ハイテクだからいいというワケではないのかな、と思います」。
強いこだわりで仕上げた回路は、横井君の鮮やかな操作と相まって、
四国地区大会優勝に大きく貢献しました。

発射機構の製作を担当した森君(左)と河上君(右)の3年生コンビ。
学年差を気にせず気軽に意見が言える雰囲気だったと振り返る。

そろばんの機構を使った発射台。
横向きタイヤ@は初速をつけるため、
縦向きタイヤAは飛距離を伸ばすため。
Bはバッテリーケース。

シリンダーのツメに引っかかった輪が横向きタイヤ@に入る。
そろばん機構によって加速しながら上に送られ、
縦向きタイヤAから勢いよく発射。

回路担当の間部君。誤作動などのトラブルが続いた時は
「ストレスでずっとお腹が痛かった」。操縦者の横井君仕様につくられた「FORCE」のリモコン。
ここにも“回路屋”の使いやすさへのこだわりが。

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チーム一丸となって乗り越えた、最大の試練。チーム一丸となって乗り越えた、最大の試練。

試行錯誤を繰り返しながら、ようやく納得できるレベルまで仕上がった「FORCE」。
しかしここで、最大のピンチが訪れます。重量が規定内におさまらず、
なんと3kgもオーバーしていることが判明。四国地区大会まであと3週間という時
でした。何人ものメンバーが「もう終わったと思いました」というほど、
TEAM ARKは苦境に立たされます。時間と重さとの戦い。
全員でマシンの見直しに取りかかり、あらゆるパーツや機構を検証、
軽量化を図りましたが、3kgという数値は想像以上に大きな壁でした。
本当にもう削れるところはないか、どこか見落としている箇所があるんじゃない
か・・・フレーム1本、ネジ1個にまで目を光らせ、グラム単位で削ぎ落としながら、
粘り強く改良を続けました。そして、これ以上は無理というところまで
徹底的にやりきり、最後の重量測定。規定の25kgギリギリで、
ついに「FORCE」は完成しました。

練習は、他の部活動終了後の体育館で。
実物大のセットを組み立て、
実践形式でのシミュレーションを
何度も繰り返した。
「緊張しても、疲れていても、
常に同じパフォーマンスが
発揮できるくらいまで、
とにかく繰り返すことが大事」
(三武謳カ)。

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コラム モノづくりの主役は学生たち 香川高等専門学校 詫間キャンパス 「TEAM ARK」顧問 三附K典 先生コラム モノづくりの主役は学生たち 香川高等専門学校 詫間キャンパス 「TEAM ARK」顧問 三附K典 先生

「ロボコンをやりたくて入学してくる子、参加するうちにどんどんのめり込む子、
いろいろなタイプの学生がいますが、共通しているのはモノづくりが好きだということ。
だからロボット製作は学生が主体です。もちろん行き詰まった時は意見やアドバイスをしますが、
それをどこまで取り入れるか、最終的には彼ら自身で決めています。
一方、ロボコンへの挑戦同様、学生たちを成長させているのが地域活動です。
TEAM ARKでは、市内の小中学校への出前ロボット授業や、三豊市主催の『みとよロボコン』開催への協力など、
地域貢献を大切にしています。実際にロボットを製作している自分たちが取り組むことで、
理科やモノづくりに関心を持つ子どもが増えてくれる。
その嬉しさがロボットづくりのモチベーションにも繋がっているようです。
彼らの影響を受けて入学して来る後輩が増えれば、もっと嬉しいですね」

「やるからには勝ちにこだわりたい」と話す三武謳カ。
厳しくも的確なアドバイスで、学生からの信頼も厚い。

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ロボコンとは、そして、モノづくりとは。ロボコンとは、そして、モノづくりとは。

「ロボコンへのチャレンジを通して得たものは?」との問いかけに、
「精神的な強さ。失敗してもまた挑戦しようと思えるようになった」と話す横井君。
前田君は「忍耐力。限られた時間や条件で結果を出すという経験は、
社会に出てからも役に立ちそう」と言います。「Honda賞をもらって、
ものごとは結果だけでなく、取り組む姿勢やプロセスも大事なんだと感じた」
という森君と、「何度も失敗したけど、それがいい経験になりました」
という河上君は、次回も全国大会を目指すと話します。

最後に、ロボットづくり、モノづくりについての想いを聞いてみました。
間部君は、「ロボットをつくったというよりも、
“ひとつの命をつくった”という感覚に近い」と言います。
河上君は「子どもが立派に育っていくのを見ているようだった」とも。
いかに情熱をかけてきたのかがわかる印象的な言葉でした。
また、多くのメンバーが口にしたのが、支えてくれた人たちへの感謝。
ピットクルーや製作補助など裏方として活躍した部員、先生、家族など、
まわりのサポート無しにはここまで来られなかったと言います。
そして、取材現場でもっとも強く感じたのは、メンバー同士の絆の深さ。
長い時間苦楽をともにしてきたからこそ築けるさわやかな連帯感が、
そこにはありました。仲間について森君はこう語ります。
「一人だけでは知識も視点も偏りがちになるけど、
大勢の知恵や意見があればアイデアも増えるし、できることも多くなる。
みんなの力でどこまでも発展させていけるのが、モノづくりの面白いところです」。
香川高専 詫間キャンパス TEAM ARKは、
一人ひとりが夢に向かってチャレンジし続ける、
独創性に富んだモノづくり集団でした。

TEAM ARKメンバーと三武謳カ。Honda賞に輝いた「FORCE」とともに。