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2011年09月27日ニュースリリース

「2011年本田賞」表面科学の先駆的研究から触媒の高効率化等に貢献した米国カリフォルニア大学バークレー校のガボール・ソモルジャイ博士に本田財団が授与

 公益財団法人 本田財団(設立者:本田宗一郎・弁二郎兄弟、理事長:石田寛人)は2011年の本田賞※1を、触媒化学に基礎科学の研究手法を取り入れ、経験値だけに頼らない表面科学の地位を確立した米国カリフォルニア大学バークレー校 化学科教授のガボール・ソモルジャイ博士(Gabor A. Somorjai)に授与することを決定しました。同博士は32回目の本田賞受賞者となります。

ガボール・ソモルジャイ博士

ガボール・ソモルジャイ博士

 触媒化学には、古くはアンモニア合成触媒や高分子合成触媒、新しくは野依良治博士のノーベル賞受賞対象となった不斉合成触媒などがあり、これらは有用な物質を温和な条件で効率よく合成するための機能材料の研究を通じ、広く人類の福祉に寄与してきました。また近年では、自動車排出ガスの浄化触媒などにも利用され、将来は燃料電池触媒、さらには究極のクリーンプロセスである水から水素を発生させる光触媒等のエコテクノロジー※2の発展にも大きく寄与することが期待されています。

 ソモルジャイ博士は半世紀近くにわたり、固体表面とその重要な機能の一つである触媒化学における分子論的描像を明確化するための方法論を確立し、測定装置を自己開発して研究を推進。極めて重要な分野でありながら経験値に頼っていた触媒化学に、基礎科学の手法を取り入れて表面科学として研究分野の地位を確立し、「近代的表面科学の父(開拓者)」とも呼ばれています。

 博士は、反応が生み出す分子はナノ粒子触媒の大きさと形状によって制御されることを発見。これが、化学廃棄物を伴わずに狙い通りの生成物分子のみを生産する「グリーンケミストリー(環境に優しい化学)」の発展につながっています。また、博士の研究成果は、燃料や化学薬品等の製造に必須な触媒粒子表面の化学反応や、電池や燃料電池の生産時における電気メッキ等の電極表面化学反応にも応用されています。さらに、氷の滑走面の化学組成と特性改良させた高速スケートリンクの製造をはじめ、金属、ガラス、半導体等の超薄表面に用いられる塗膜など、工業製品にとどまらず医療、生化学、光科学、マイクロエレクトロニクス、データ保存等へ広く応用され、社会に寄与しています。

 反応時の表面の研究を通じて、表面科学における分子構造を明確にした博士の主な学術的業績は次の通りです。

  • 1)表面科学と触媒化学研究のためのモデルとしての単結晶の利用。粒径1〜10nmの単成分金属ナノ粒子・二成分金属ナノ粒子の合成。触媒技術の利用粒径範囲内でナノ粒子を外形制御した拡張表面モデルの開発、ならびにこのモデルに基づく触媒反応分析
  • 2)低速電子線回折(LEED)による表面構造および分子吸着層結晶学の確立
  • 3)表面解析と触媒反応研究を結びつけるための高圧(大気圧)と低圧(10-7〜10-3 パスカル)反応セルの開発と応用
  • 4)和周波数発生(SFG)表面振動分光法の開発、および高圧かつ触媒反応下での表面構造と吸着分子の結合に関する化学分析と応用
  • 5)高圧下で使用可能な走査型トンネル顕微鏡(STM)の化学反応への応用
  • 6)高圧下で触媒反応時使用可能なエックス線光電子分光装置(XPS)の応用

 ソモルジャイ博士が、壮大かつ独創的手法を用いて基礎から応用までを研究され、世界の産業界が抱える環境問題にも貢献されたことは、エコテクノロジーの具現化の一例であり、本田賞にふさわしいものと考えます。

 第32回本田賞授与式は、2011年11月17日に東京の帝国ホテルで開催され、副賞として1,000万円がソモルジャイ博士に贈呈されます。

  • ※1本田賞(Honda Prize):1980年に創設された科学技術分野における日本初の国際賞。米国の国際著名褒賞会議(International Congress of Distinguished Awards)により世界最重要賞の一つに選ばれている。
  • ※2エコテクノロジー(Ecotechnology):文明全体をも含む自然界をイメージしたEcology(生態学)とTechnology(科学技術)を組み合わせた造語。人と技術の共存を意味し、人類社会に求められる新たな技術概念として1979年に本田財団が提唱。

問い合わせ先:

公益財団法人 本田財団
〒104-0028 東京都中央区八重洲2-6-20 ホンダ八重洲ビル
TEL:03-3274-5125 FAX:03-3274-5103
http://www.hondafoundation.jp

ガボール・ソモルジャイ博士
Dr. Gabor A. Somorjai

米国カリフォルニア大学バークレー校化学科教授
ローレンスバークレー国立研究所
材料科学部門  表面科学・触媒化学プログラム
上席科学者兼ディレクター
(カリフォルニア州バークレー)

出身

1935年5月4日  ハンガリー・ブダペスト生まれ(76歳・米国市民)

学歴

1956年 ハンガリー・ブダペスト工科大学化学工学科卒業
1960年  米国カリフォルニア大学バークレー校化学科博士課程修了

職歴

1960〜64年  IBM研究員(ニューヨーク州ヨークタウンハイツ)
1964〜現在 カリフォルニア大学バークレー校化学科教授(1964年助教授、1967年准教授、1972年教授)
1964〜現在 ローレンスバークレー国立研究所上級科学者兼ディレクター

経歴

 1956年、ブダペスト工科大学卒業直前にハンガリー革命が勃発し米国へ移住。カリフォルニア大学バークレー校で博士号を取得後、IBM研究所に勤務。1962年、米国市民権を取得。表面科学、不均一系触媒、固体化学の分野で1,000以上の科学論文を発表し、「表面科学の父(開拓者)」とも呼ばれる。博士の下では130名が博士号を取得し、200名以上の博士研究員(ポスドク)が学んだ。その内、現在約100名が大学で教鞭をとる他、産業界でも多くの卒業生が活躍中。
 世界中の研究者が読む博士が著した教科書には、「表面化学の原則」Prentice Hall社(1972年)、「表面化学と触媒入門」Wiley-Interscience社(1994年)、「表面化学と触媒入門・第2版」Wiley社(2010年)等がある。

主な受賞歴

独アレクサンダー・フォン・フンボルト財団上席科学者賞(Senior Distinguished Scientist Award・1989年)、イスラエルウルフ財団ウルフ賞化学部門(Wolf Prize・1998年)、米国国家科学賞(National Medal of Science・2002年)、米国化学学会プリーストリー賞(Priestley Medal・2008年)、日本学術振興会賞(2009年)、スペインBBVA財団知識フロンティア賞基礎科学部門(Frontiers of Knowledge Award in Basic Sciences・2011年)等。