本田技研工業(株)は、クルマを操る楽しさと、安全性の両立を高次元で達成させるため、新世代のシャシーテクノロジーを確立し、基本性能である 「走る・曲がる・止まる」 を飛躍的に向上させる新しい3つの技術を開発した。
これは、操縦安定性と乗り心地を高次元に両立する 「5リンク・ダブルウィッシュボーン・リアサスペンション」、操縦性やリニアリティを高める 「新EPS(電動パワーステアリング)+VGR(可変ステアリングギアレシオ)」、従来のABS/TCSに横すべり抑制を加えアクティブセーフティを高める 「VSA(車両挙動安定化制御システム)」 で、FF車の高水準な 走行安定性をベースにそのポテンシャルを大きく進化させた。この新技術は近く発売する新型車への投入を予定している。
シャシー開発にあたりそれぞれの技術を具現化するうえで、クルマの持つ運動性能を解析するホンダ独自の 制御理論。これは1992年に発表したもので通常走行領域から限界走行領域までの車両運動性能を同一次元で 評価解析できるため、サスペンション・ジオメトリーや[VSA]の制御領域などの最適な設定値を効率よく見 出すことが可能。
5本のストレートアームを適切に配置することで路面からの入力に対して的確に作用し、操縦安定性と乗り心地を高次元で両立。
コンパクトなインホイールタイプにすることで、居住スペースやトランクスペースの拡大も可能にした。
5リンク化することで路面から受ける前後方向と横方向の力をアームの軸方向にのみ入力させることが可能となり、アームのストレート化とともに軽量・シンプル化を実現。
前後入力に対してはトレーリングアームとリーディングアームが、横入力に対してはアッパーアーム、ロアアーム、コントロールアームが剛性を発揮し、上下ストロークのみをダンパーでコントロールさせることで、操縦安定性と乗り心地をより高次元で両立している。
路面からの入力に対してリアタイヤが斜め後方に直線的にストロークするよう、トレーリングアームとリーディングアームをワッツリンク配置とすることで、路面から受ける前後入力を大幅に低減し、ハーシュネス特性を向上している。
トレーリングアームとロアアームの取付点軸線と、リーディングアームとアッパーアームの取付点軸線を平行にすることによって、タイヤストローク時のトー変化を少なく、かつ直線化。
これにより、直進時の外乱に対して車両の進路変化を抑制している。またロール時の応答性が高く、アンダーステアの低減にも貢献している。
すべてのアームをインホイール配置にしてコンパクト化を実現。同時にワッツリンク配置によってタイヤを斜め後方にストロークさせることで、キャビンへのタイヤハウスの侵入量を低減。居住スペースとトランクスペースの拡大を可能とした。
ドライバーのステアリング操作に合わせて電動モーターによる最適なアシストが得られ、快適な操舵フィールを実現。省エネ化も達成した。新EPS+VGRは世界初である。
ドライバーのステアリング操作に対して、車速や走行状態に応じたアシスト量をコンピューターが素早く高精度に制御し、ラック軸と同軸に設置した電動モーターが最適な駆動力を発生。リニアな操舵力が得られ、しかも滑らかで応答性の高い操舵フィールを実現した。
ラックギアにVGR機構を採用することで、より新EPSの特性を発揮する。
新EPSは操舵力特性を自由に設定することが可能なため、重めの設定や軽めの設定をあらかじめプログラムし、モード切り換え機能を加えることでドライバーの好みや走行状況に応じた操舵力特性を発揮することができる。
ラックギアのセンター部に通常のレシオを設けてステアリングの切り始めをスムーズにし、大舵角時はクイックなレシオ設定としてロック・トゥ・ロックを減少。高速走行での車線変更などでは滑らかな操舵フィールを、低速時はきびきびとした旋回性や車庫入れ時などの容易な取り回し性を実現。新EPSに組み合わせることで、より高い特性を発揮する。
VSAとは、従来のABS(4輪アンチロックブレーキシステム)+TCS(トラクションコントロールシステム)に、さらに車両の横すべり抑制を加えた「車両安定化制御システム」で、国産FF車初である。
路面の急変やドライバーのステアリングあるいはブレーキなどの不適切な操作によって起きる急激な車両の挙動変化を抑制し、ドライバーが冷静にコントロールするための余裕を確保する。また、雨天時や雪道などでは、路面からの外乱を安定方向に制御することでドライバーの過度な緊張を低減し、運転にゆとりを与える。
なおこのシステムは、操る楽しさをスポイルしないためにも、ドライバーが車両コントロールを失った時のみ作動するよう、あくまでもドライバーの操縦を重視した制御システムとしている。
車両の横すべりとは…旋回中の車両がタイヤの旋回性能を超え、
●後輪が横すべりを起こし、車両が旋回内側に巻き込む(スピン)現象=オーバーステア。
●前輪が横すべりを起こし、車両が外側にはらんでしまう現象=アンダーステア。
後輪スリップによる車両の巻き込みに対して、フロント外輪へのブレーキ制御によって外向きのモーメントを発生させ、同時にフロントのコーナリングフォースを低減。スピンモーメントを減少することで車両を安定化させる。
駆動輪(前輪)スリップによる軌跡のはらみに対して、エンジントルクの低減とフロント内側へのブレーキ制御によって前輪のサイドフォースを確保。内向きモーメントを発生させることで、トレース性を高める。
左右輪で路面状況が異なる場合の発進時などは、低μ路側の車輪にブレーキをかけ、高μ路側の車輪にエンジントルクを回し込むことでより力強い発進・加速力を獲得する。
高横G旋回を横Gセンサーが検出するとABSを4チャンネル制御に切り換え(直進および低横G旋回時は3チャンネル)、後輪外側にも大きな制動力を持たせることで、旋回制動時の性能を向上させている。