音の匠×Gathersが実現した本物の“音”

開発者インタビュー 古賀勇貴

Honda車を知り尽くしているから完成した“音”です。

Gathers『音の匠』対応カーナビとハイグレードスピーカーの組み合わせで可能となる『音の匠』モード。

車種ごとに綿密にチューニングされた“音”は、いわゆるポン付けとは別次元の音だった。
ここでは開発に携わった古賀勇貴氏に、いかにしてこの『音の匠』対応カーナビが誕生したのか伺ってみよう。

ホンダアクセス開発部 古賀勇貴 Yuki KOGA

近年、カーオーディオ専用のヘッドユニットは衰退の一途をたどっている。AVカーナビ、つまりオーディオ機能を組み込んだカーナビが主流になっているためだ。しかし、世間ではハイレゾオーディオが徐々に普及してきていたり、高級ヘッドフォンがブームになっていたりと音にこだわる人は増えてきている。

 「車内で良い“音”を聴きたい、という要求は今後ますます高まっていくと思われるのに、現状とても手薄になっています。いまのうちにカーナビもスピーカーも、“音”をしっかり強化したい、と考えたのが開発のきっかけでした」と語るのはホンダアクセスでGathers(ギャザズ=Honda車純正のオプション向けカーオーディオ・カーナビゲーションのブランド)の開発に携わる古賀勇貴氏だ。
「いま私たちに何が出来るかと考えた時、私たちの強みである『Honda車を知り尽くしている』ということを活かした、車種別の音響セッティングを搭載した商品の開発でした」。

 ホンダアクセスはHonda車専用の純正アクセサリーメーカーとして、カーナビやオーディオは、専業メーカーと共同でHonda車専用として開発している。そんななかで、2016年モデルの一部をパナソニックと共同で開発することになった。じつはパナソニックは何年も前から、ミキサーズ・ラボという音響技術の専門会社と組んで『音の匠』という高音質カーナビを展開している。このミキサーズ・ラボの協力を仰ぎ、Honda車専用のチューニングを開発しようということになったのだ。

 しかし、ミキサーズ・ラボはプロ集団だ。ずばり言ってしまえば“音”のわからないメーカーとは組まない。だが今回、クルマのなかでPCやポータブルオーディオでは味わえない“音”をユーザーに届けたいと考えた古賀氏ら開発チームたちは「バランスが良く、情報量が豊かで臨場感たっぷりに、インストルメントパネルの上でしっかりと(音像が)定位する“音”」を良い音のコンセプトに定めた。このことがミキサーズ・ラボの考える良い“音”と一致し、ホンダアクセスとのコラボレーションが実現したのだ。

 具体的な作業は、まずカーナビとスピーカーを古賀氏ら開発チームで作り、その後ミキサーズ・ラボを中心にチューニングをする。カーナビは前述のとおりパナソニックと共同開発だが、今回は音質重視ということで「従来モデルより、SNの改善、電源・GND回路を中心に基板周りを新設計しました。さらに低歪み、低ノイズのパワーアンプ、カスタムストラーダコンデンサを採用しています。またフィルターの設定値も実車でチューニングしています」。さらにハイグレード・スピーカーにはアルパイン製DD Linearスピーカーを採用。「複数のメーカーのモデルをすべて実車で音を確認して決めました」。このアルパイン製スピーカーもHonda専用としてフレームは軽量・高剛性のアルミダイキャストでバッフルは高剛性なのはもちろん、適度な内部損失のある樹脂製に変更。さらに同軸はマグネットとボイスコイル、ハイパスフィルターも専用のものに変更した。

アルパイン製のハイグレードスピーカー。フロントはミッドウーハーとツィーター、リアはコアキシャル2ウェイの構成。アルパイン独自のDDリニア磁気回路を採用。さらにバッフルボードは内部損失が大きく、振動をドアに伝えない樹脂製のものを専用に開発。定価は3万240~4万9680円(税込)
『音の匠』ボタンは、ハイグレードスピーカーを取り付け、車種別設定ソフトをインストールした場合のみ選択できるようになる。これまで面倒だった車種別チューニングが、ホンダアクセスとミキサーズ・ラボのノウハウを用い、純正オプションとして20数万円で可能となったのだ。

 こうしてハードウェアをある程度完成させてから、いよいよミキサーズ・ラボが車種毎にチューニングを施していく。「今回、チューニングしてもらったのは、イコライザー、Q値、各スピーカーの出力です。また必要な車種だけタイムアライメントを設定しました」。

 じつはタイムアライメントを取り入れることについては、古賀氏たちも、ミキサーズ・ラボも消極的だったという。「タイムアライメントを入れると決まったポジションでは良いのですが、ちょっとでもずれると音の輪郭がぼやけてしまい目指した音から遠くなります」。

 車種別チューニングでは、前席のふたり、つまり運転席と助手席で「コンサートホールの最前列で聴いたような」臨場感を求めたという。

 チューニングは1発でOKということはほぼなく、2回、3回と煮詰めて、ようやく求めた“音”にたどり着く。「1台1台じっくりチューニングを行いました。だから1日2台までが限界でした。“音”のチューニングはセンシティブですので……」。

 チューニングだけで約1ヶ月を費やし、その後実車にインストールしてのテストを経て、ようやく発売にこぎつけた。しかし、その効果は絶大だ。評価については下記のレポートをお読みいただきたいが、対応車種にお乗りで“音”にこだわりのある方は、絶対にこのカーナビを選ぶべきだ。チューニングショップで専用セッティングをしてもらったら100万円単位でかかるところを、普通のカーナビと同等の出費でこの効果が得られるのだから。

音のプロが語る「音の匠」

大人の“音造り”を味わう

Honda車の純正オプションとして用意されているGathers(ギャザズ)のカーナビの上位3モデルと純正アクセサリーのハイグレードスピーカーを組み合わせると『音の匠』という車種別チューニングが完成する。

『音の匠』が車内というリスニング空間としては非常に難しい場所を特等席に変える!

音楽・オーディオライター 田中伊佐資 Isashi TANAKA 「ステレオ時代」スペシャルアドバイザー 牧野茂雄 Shigeo MAKINO ホンダアクセス開発部 古賀勇貴 Yuki KOGA
  • A STEP WGN 9インチ プレミアム インターナビ VXM-165VFNi
  • B N-ONE 7インチ スタンダード インターナビ VXM-165VFi
  • C GRACE 7インチ スタンダード インターナビ VXM-165VFi

牧野今、Gathersの『音の匠』対応カーナビが付いたステップ ワゴンとグレイス、N-ONEの音を聴かせていただいたのですが、申し上げたいことはひとこと。「買いなさい」以上(笑)。今日聴かせていただいたのは、古賀さんたちが目標とする音を決めて、それに向かって音を作り上げていった、ということですよね。

古賀はい。『バランスが良く、定位・音像がはっきりしていて、情報量豊かで、臨場感、開放感が感じられる音』を目標に作りました。

田中『音の匠』はカーオーディオとピュアオーディオの垣根を越えて、ピュアオーディオ的なアプローチで音のレベルが全体的にグーっと上がっていると感じました。音楽の“芯”が一個一個出て、奥行き感、音場感がアップしている。もうピュアオーディオの領域に入ってきている。

牧野ハイグレードスピーカーも、選択の余地がないくらい激変してます。

田中今回、ノーマル、ハイグレードスピーカー、『音の匠』と3段階のステップを聴かせていただきましたが、1段1段、いわばより色濃くピュアオーディオの領域に踏み込んでいく感触でした。しかも聴き疲れもしない。

牧野そうですね。たとえばツィーターの音をフロントガラスに当てて広げる、というのは良くやるセッティングですが、うまくやらないと、帯域によってはガラスの嫌な音が出でしまう。ところがそれがまったくない。

田中すごく自然に広がってます。

牧野まるで『音の匠』を入れた途端にフロントガラスが消えて、素通しになったような見晴らしになっている。

田中それが低域にも言えて、これみよがしに「ドッカーン」と来ない感じが、大人の音造りですね。一口目は美味しいけど最後の方は「もういいや」ってなるラーメンではなく、気が付いたらスープまで飲み干してて、もう一杯食べたくなるような(笑)。

牧野自分の好きな音楽を持ってディーラーに行って、聴いていただけばすぐ分かると思うのですが。

田中音のひとつひとつが立つんですよ。どのジャンルでも、最初に録音したエンジニアの意図が分かりやすく聴き手に伝わってきてます。

牧野ちゃんと録音の良いライブ盤なんか、すごくよく分かるんじゃないでしょうか。最初に聴いたジャズのビッグバンドもこの辺にミュートトランペットがいて、ここにクラリネットがいて……っていうのがちゃんと分かるじゃないですか。そういう聴き方をするとまたぐっと楽しみが上がりますよ。これは大人のオーディオファンは絶対買うべきだ(笑)。

田中そうですよね。ある程度歳を重ねてて、私たち世代以上のオーディオを知ってる世代の方は、すんなり価値を分かると思います。

ステレオ時代 Vol.5 2015年12月発行
 写真・澤田和久
 文・澤村信
 取材協力・ホンダアクセス

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