今季快進撃を続け、悲願のWタイトル獲得へ向けて激しい戦いを繰り広げているHonda F1。現場の最前線で奮闘する山本雅史マネージングディレクターに語ってもらいました。
今季ここまで15戦で8勝を挙げるなど、快進撃を続けるHonda F1。マックス・フェルスタッペン選手がドライバーズチャンピオンシップを争い、Red Bull Racing Hondaはコンストラクターズランキング2位と、悲願のWタイトル獲得へ向けて激しい戦いを繰り広げています。そんな現場の最前線で奮闘する山本雅史マネージングディレクターに語ってもらいました。
今年は、Honda F1のラストイヤーとなりましたが、Red Bull Racing Hondaがチャンピオンシップを争うなど、非常にいい戦いができています。だからこそ、鈴鹿サーキットでのグランプリを戦い、これだけ強くなってきている、という姿を日本のファンの皆さんに見てもらいたかったというのが本音で、日本GPが中止となったことは本当に残念でした。
鈴鹿サーキットを運営するモビリティランドの田中薫社長や、Formula 1のステファノ・ドメニカリCEOはじめ、関係者の皆さんは開催に向けてものすごい努力をしてくれました。その姿は今でも目に浮かぶほどです。日本政府も、特にスポーツ庁の方々が前向きに動いてくださって、関係省庁に掛け合うなどしてくれましたが、F1関係者はメディアも含めると総勢1,500人ほど。これだけの人数が入国するとなると、やはり課題は多かったというところです。
今回はHondaがタイトルスポンサーになっていたこともあって、いろいろな準備を進めていました。2018年のような、Hondaのロゴで埋め尽くされた鈴鹿でのレースをお見せしたかったですし、Scuderia AlphaTauriのフランツ(トスト代表)や、Red Bullのクリスチャン(ホーナー代表)とも、コロナ禍の中でもファンの皆さんを楽しませるようなイベントをしたいと話していましたし、トロフィーもHondaの社内公募で選んだデザインを準備していました。すごく特別なトロフィーになるはずで、皆さんに見てほしかったなあ。マクラーレンとの時代から、厳しい時も含めて応援し続けてくれたファンの皆さんへ感謝を示したいと思って、すべてがHondaの最終年にふさわしいものになる準備ができていたので、中止というのは涙がでるほど残念でした。
今年はライバルのメルセデスと五分の戦いができていて、チャンピオンシップ争いは真っ向勝負となっています。ウインターテストのときから手ごたえはありましたが、バーレーンでの開幕戦でマックスがハミルトン選手に追いついて抜き去った場面、その後にトラックリミットの関係で順位を返しましたけど、あれで今季しっかり戦えるぞという確信を持ちましたね。
そして2戦目のイタリア・イモラ、このスタートの場面が強烈な印象でした。ハミルトン選手に対して、マックス、セルジオ(ペレス選手)が挟み撃ちする形で襲い掛かる姿を見て、今年は本当に行けるぞ!と、うれしかったですね。
今年、Red Bullにセルジオが加入したことは大きいですよ。1チームには2名のドライバーがいますが、2対2で戦えるというのが強さになっていて、メルセデスへプレッシャーがかけられます。アゼルバイジャンでは、独走状態だったマックスのタイヤがいきなりバーストしてリタイアしましたが、そこではセルジオが優勝して見事にカバーしてくれました。まだクルマを手足のように扱うためにいろいろ試行錯誤していますが、彼は1秒も無駄にすることなく努力して適応しようとトライしています。
今年、マックスが表彰台に上がれなかったレースは、タイヤバーストや、接触、クラッシュがあったときだけ。しっかりとレースできれば、必ず表彰台に絡む姿が見られます。今季はチャンピオンシップを争えるぞ、強くなったぞ、というのが実感ですね。
今季は最後の一年ということもあって、皆さんの記憶に残る、「あのときHondaはF1でカッコよかったよね」と言っていただけるような戦いを目指してきました。HondaのF1で言えば、16戦15勝を果たした1988年がありますが、今年は30年ぶりのモナコGPでの優勝、そこからの5連勝など、当時の記録に近づいた場面もありました。
たとえば、フランスGP。戦略はいろいろありましたが、トップに立っているときにピットに入り、追い上げて逆転して勝つというのはすごかったですね。途中、マックスがトラフィックに引っかかってラップタイムが落ちた場面もあって少し心配しましたが、最後2周で追いつくという見事な仕事っぷりでした。
そして、オーストリアGPでの田辺さん(豊治テクニカルディレクター)の表彰台、チームが「パワーユニットのおかげだからHondaのエンジニアに上がってもらおう」と言ってくれて実現しました。本当に感謝してくれた証なので、すごくうれしかったですね。
チャンピオンシップ争いのライバル・メルセデスはここまで7連覇しているという背景で総合力に自信を持っています。レースというのは「俺が一番だ」と思っている自信が重要になる場面がすごく多いんです。でも、そういう意味では、過去に4連覇をしているRed Bullも負けていないです。
チームの中で自身を失ったり、ここが弱いと思ったりしている人がいれば、チャンピオンシップ争いはできません。だから、Red Bullはメルセデスに対して、自信をぶつけて真っ向勝負しています。こういう現場にいられることはHondaで言うと三現主義の体感です。もちろん、大変なこともたくさんあるけど、それ以上に充実感のほうが勝っていて、こうした経験をさせてもらって感謝しています。
これからのレースでは、メキシコやブラジルなど、過去にRed BullもAlphaTauriも速さを見せてきた、相性がいいサーキットが待っています。2019年のブラジルでは、Hondaパワーユニット勢の1-2フィニッシュもありました。そして、去年の最終戦アブダビではマックスがいいレースをしてポール・トゥ・ウインを果たしていますし、楽しみですね。
日本人唯一のF1ドライバー、角田裕毅選手も頑張っています。開幕戦では、予選でQ3まであとわずかというパフォーマンスを発揮して、レースでもチャンピオン経験者を次々にオーバーテイクしてポイントを獲得してくれました。そこから、クラッシュを経験したレースなどもあって、学ぶべきところは多いのですが、まだルーキーです。
現代のF1マシンは、限界を知るというのがなかなか難しいんです。マシンに速さがあるからこそ、コントロールが難しいので、わずかなミスでコントロールを失ってしまいます。その点、経験のアドバンテージは大きいですよね。どこまで攻めればコントロール可能なのかということを、ベテランたちはよく理解しています。チームメートのガスリー選手もフル参戦4年目で今季非常に調子がいいですが、本人には、1年生と4年生を比べて変に焦っちゃダメだよ、というような話をしています。
マックス、セルジオと同じPUを使っていて、今季は予選で5~6位の常連になっているピエール(ガスリー選手)と同じマシン。こうした面々と比較される立場は本当に大変だと思います。でも、期待のできるドライバー。マルコさん(ヘルムート・マルコ氏、Red Bullのモータースポーツアドバイザー)とも、日本人で初めて表彰台の中央に立てるように、と話しながらF3時代からやってきました。
タイヤの持たせ方などもいいし、レースはすごく上手いんです。だから、金曜・土曜のフリー走行で習熟を進めて、上手く流れが作れれば、日曜の決勝では力を発揮できると思います。切り替えが早いし、チームのためにしっかりやろうという姿勢で取り組んでいます。マシンが自分の好みにまとまっていない場面もありますが、今季は最高6位という結果を残していますし、周りと比較して悪い評価ではないです。これまでの学びを後半戦に活かせれば、楽しみですよね。来年の参戦も決まりましたし、そこにHondaはいないけれども、日本人ドライバーとして頑張ってほしいと思っています。
最後に、今回はWeb上でのイベントとなりますが、ご覧くださっていただき、本当にありがとうございます。僕自身、ファンの皆さんのメッセージを目にすることでパワーをもらえています。Hondaの最終年、皆さんに一つでも多くの喜びを共有したいという気持ちで戦っていますし、本当に感謝しています。引き続き、最後まで応援お願いします!