8月末に公開したペーパークラフト「CBR1000RR-R トリコロール」と「CBR1000RR-R ホワイト」、もうご覧になったでしょうか? すでに完成させた方にもまだの方にもぜひ知ってほしい。このペーパークラフトに込められた開発者の熱い想いから裏話まで、まるごとお届けします!
ーー今回は、ペーパークラフト版「CBR1000RR-R」を制作した、Hondaの二輪開発者である富元久雄さん、西田翔吾さんにお話を聞くことができました。早速ですがペーパークラフト開発のきっかけを教えてください!
富元「新型コロナウイルスの影響で世界的に『STAY HOME』が広がる中で、二輪車の開発者として何かできることはないかとずっと考えていました。そんな中、CBR1000RR-Rのペーパークラフトを作ってみないかという話を受け、これはチャレンジするしかないなと考えました。」
西田「以前にスーパーカブのペーパークラフトを作る機会がありそのときもSNSを通じて話題になりました。それが今年になってコロナの影響が広がり、思いがけずまた注目を浴びることに。そういった経緯があっての『第2弾』ということだと思います。前回はとても有意義な経験だったので、僕ももちろん引き受けました」
ーーペーパークラフトの題材となったのは「CBR1000RR-R」。20年にフルモデルチェンジされた、Hondaが誇るスーパースポーツバイクです。その魅力はどこにあるのでしょうか。
富元「これまでのCBR1000RRには以前乗っていたのですが、今回のフルモデルチェンジによって、本領を発揮する舞台を変えて思い切ったパワフルなマシンに刷新されたという印象ですね。まだ乗れていないので、実際にどれくらい進化したのかを体感するのが楽しみです」
西田「かなり攻めてますよね。これまでのCBR1000RRのコンセプトである『Total Control』は、ワインディングでの扱いやすさがポイントだったのですが、今回のCBR1000RR-Rのテーマは『“Total Control” for the Track』。もちろん公道でも走れますが、よりレース向きになったのが最大の特徴ですね。サーキットで世界一速い市販車を狙っている、とても意欲的なマシンだと思います」
実車(左)とペーパークラフト(右)のCBR1000RR-R
富元「やはり開発コンセプトの通り、サーキットで走っているところがカッコいいんですよね」
西田「そうなんです! 特にスーパーバイク世界選手権のワークスマシンは市販車とそっくりなトリコロールなので、この色が気に入った人にはぜひ観てもらいたいです! 同じくCBR1000RR-Rが参戦予定だった鈴鹿8耐は、前日に観客参加型のバイクパレードがあったり、レース終了後にはライダーとハイタッチできたり…。お祭りのようでとても楽しいイベントなのですが、今年は残念ながら新型コロナウイルスの影響で中止に…」
富元「それはもう、僕も残念だけどしょうがないです! そんな状況下でも、少しでも楽しいことを提供したいということが、今回の僕らの目的です!」
ーー公道はもちろん、サーキットでの活躍も期待されるCBR1000RR-R。
ペーパークラフト化するときはどのようなことを意識したのでしょうか。
富元「性能はもちろん見た目的にもカッコいいマシンですから、紙だとしても本物に負けないカッコよさを目指そうと、西田と話をしていました」
西田「最もこだわったのは車体前側のウイングレット部分を含むカウル形状です。ここは個人的にCBR1000RR-Rの外見上最大の特徴だと捉えているので、できるだけ本物に近くなるように…、かといって組み立てが難しくなりすぎないように…と。そのバランスに納得いくまで何度もスケッチとモデリングを繰り返しました」
西田「カラーリングもかなり悩みました…。僕は普段の業務で設計やモデリングを担当しているので、データの色付け作業に関しては独学で…、かなり時間がかかってしまいました。自主的な取り組みとして、専門外のことも自分でやらなくてはいけません。けれど最初に“試作車”が出来上がったときは、予想以上にCBR1000RR-Rの特徴であるトリコロールがカッコよくできていたので強い達成感がありました。こちらもぜひ作ってもらいたいですが、もうひとつホワイトバージョンも用意しているので、こっちを組み立てて好きな色に塗ってもらうという風にも楽しんでほしいです!」
富元「あと、今回のペーパークラフトでは『レース仕様』と『公道仕様』の2種類が楽しめるということも知って頂きたいこだわりのポイントです。実車に近いのは公道仕様ですが、細かい部品を外すとレース仕様に変身。レース仕様の方が難易度は低いので、こちらからチャレンジするのもアリだと思います。実は本物のCBR1000RR-Rも、保安部品を外せば簡単にサーキットへ持ち込めるようになっているんです。どうせなら本物と同じようにしよう! と思った部分ですね」
西田「他にも色々とこだわったことや大変なことはありましたが、実車の開発現場がすぐ近くにある環境のおかげでだいぶ助かりました。実物の車両があるし、精確なデータもある。なにより開発者本人がそこにいるんですから。これがHonda製品のペーパークラフトをHondaスタッフが作るということの最大の意義で、メリットだったと思います。色々な話を直に聞くことができて、ペーパークラフト制作はもちろん、これからの自分の業務にも活きる貴重な経験になりました!」
ーー作り手のこだわりが随所に施されたペーパークラフト版CBR1000RR-Rですが、実際に組み立てるときのコツを教えてください!
富元「コツはですね…、ずばり『丁寧さ』と『根気』です」
西田「あまりコツとは言えない気が…(笑)」
富元「いやいや本当に(笑)。原材料は紙とのりだけですから、作り手のクセが面白いくらい出来上がりに反映されます。雑に作れば出来上がった完成品も雑に仕上がります。丁寧に根気よく、愛情を注いで作ってもらえれば、絶対にその人だけの素晴らしい作品になってくれます。以前、小学校高学年向けに作ったスーパーカブのペーパークラフトよりも難易度は若干低いと思います。だから、小さいお子さんでもあきらめずに取り組めばきっとカッコイイCBR1000RR-Rが完成させられますよ!」
西田「一人で作るのに行き詰まったら、ぜひ家族や友達と一緒にワイワイしながら作ってみてください。ペーパークラフトの完成品も大事にしてもらえたらもちろん嬉しいですけれど、そこで生まれるコミュニケーションにはきっとそれ以上の価値があるはずですから」
ーーお話にもあがっている通り、お二人は2年前にもスーパーカブのペーパークラフト、通称「ペーパーカブ」の制作プロジェクトを推進していました。このペーパーカブはSNSなどで話題になり、今なお多くの人に制作されている“ロングセラー”です。
富元「ペーパーカブの始まりは、NHサークル※活動の一環として企画した、子供向けのインターンシップからでした。子供たちに二輪車の魅力を伝えることが目的のインターンシップですが、実際にどのような体験ができれば子供たちにとって有意義なんだろう…。そんな風に当時5人のメンバーで考えているときに、西田がペーパークラフトというアイデアを出してくれました」
※1973年に発足した社内サークルの通称。
普段の定常的な仕事から離れ、チームを組んでHonda社員が自主的に集まり、身近な問題の改善や新しい取り組みを試みるのが主な目的。「N」は現在(Now)、将来(Next)、新しさ(New)、「H」にはHondaといった意味が込められている。
西田「実は、僕はそれまでペーパークラフトに特にこだわりがあったわけではありません。もちろん設計するのなんて初めてでした。普段はバイクの設計をしているので、その経験から浮かんだアイデアかもしれません。気軽に始められて、お金もあまりかからない。完成すれば形になって残ってくれる。何より今はデータ配信が可能なので、データさえ届けば、世界中の人たちに作ってもらうことができますから。ペーパークラフトっていうのはいいアイデアだったと思っています」
ーーこうして子供たち向けのペーパークラフト制作が始まりました。
題材に選んだのはスーパーカブ。
富元「やっぱり多くの方に親しんで頂いている二輪車ですから。スーパーカブでいこうというのはすんなり決まりました」
西田「ただスーパーカブとなると、みんなそれぞれに強い思い入れがあって…(笑)。僕は実車のシート設計を担当したので、特にその部分には拘っています。ちなみにスーパーカブは17年のモデルチェンジでヘッドライトの形が角形から丸形に変わっています。ペーパークラフトの場合、設計でも制作でも作りやすいのは角形なのですが、やはり本物の形や雰囲気を再現するために丸形にしたいと…。片手サイズのペーパークラフトですが、みんなのこだわりが詰まっています」
スーパーカブ C110(左)とペーパーカブ(右)
富元「メインターゲットは小学校5年生に決めました。というのも、この年頃に印象に残った経験が、一番その人の将来の職業選択に影響を与えるという話を本で読んだからです。せっかくならこの機会に二輪車のことを好きになってもらいたい。そして、将来に関わるくらいの一生モノの思い出になってほしい。そう思って取り組んできました。そのために一番悩んだのは難易度の設定ですね。これも西田が上手く作ってくれたと思います」
西田「目指したのは『小学校高学年の子供がギリギリ作れる難易度』です。難しすぎて投げ出したくなるのはもちろんダメですが、簡単すぎてアッサリ完成してしまってもつまらないし、きっと記憶にも残りません。そのために20回以上のアップデートを経て、ようやくちょうどいい難易度のペーパーカブを完成させることができました。二輪車の構造を知ってもらうことも目的の一つだったので、CBR1000RR-Rもそうですが、部品構成が実車と近づくように細分化させています」
富元「インターンシップ実施の前に、まず参加してくれる子供たちを集めなければなりません。どんなにいい教材があっても、そこに来てもらえなければ意味がないですから。そこで社内のデザイナーにまで手伝わせて作ったこだわりのポスターを駅や小学校などにお願いして貼らせて頂いたり、『インターンシップいかがでしょうか?』と挨拶に回ったり…。まったくやったことのない営業職のようなことをしていましたね(笑)」
西田「でも、そのおかげで当日は多くのお子さんに来てもらえました。その子たちが興味を持てるように、インターンシップの途中でスーパーカブに関するクイズを出題したりもしました。どんなクイズなら子供たちが二輪車に興味を持ってくれるのか分からなかったので、小学校の先生をしている知り合いに相談したりして…。これも大変でしたが、みんなが楽しそうにクイズに答えてくれていたので本当によかったです」
富元「完成させて喜んでいる顔を間近で見られたことも嬉しいけど、上手くいかずに悔しそうにしている顔も印象に残っています。どちらも、きっと絶妙の難易度じゃないと出てこない顔ですから。子供たちにとっていい思い出になってくれればいいと思ってやってきましたが、自分たちにとっても一生忘れられない出来事になったと思います」
西田「終了後に書いてもらったアンケートの中に『二輪車のエンジニアになってみたい』という感想もありましたね」
富元「あったあった! もう、すごい嬉しかった。もっとそんな風に思ってくれる子たちが出てきてくれるように、インターンシップもいいけれど、もっと子供たちが憧れるような仕事を見せていけたらなと思っています」
ーー最後に、コロナ禍を過ごす世界中の人たちへメッセージをお願いします。
西田「このCBR1000RR-Rのペーパークラフトを製作したのは、まさに世の中がコロナ禍で大変なことになっているときでした。でもこんなときだからこそ、家にいる時間を楽しんでもらいたい。そういう気持ちを込めたペーパークラフトです。本物の二輪車を作るときと同じように、実際に触れてくれる人が満足してくれるように作りました。ぜひ、家族や友達と一緒に楽しく作ってみてください」
富元「2年前のペーパーカブのときも、今回のCBR1000RR-Rも、『二輪車の開発者として、通常の業務以外にも自分たちに役に立てることはないか』と考え続けた結果だと思います。幸いなことにHondaはそういうチャレンジを後押ししてくれる会社だと思います。これからも自分にできることはどんどんトライして、色々な形でお客様の豊かな生活や子供たちの未来のために貢献できればと思っています」
Hondaの若手エンジニアたちが熱い想いを込めて作った、ペーパークラフトのCBR1000RR-Rとスーパーカブ。新型コロナウイルスの影響が続いていますが、これらのペーパークラフトが皆さんのおうち時間を少しでも豊かにすることができれば幸いです。
そしてもし完成させたら、ぜひハッシュタグ 「#Hondaクリエイター」や「#MyHonda」を付けてSNSに投稿してみてくださいね!