HONDA The Power of Dreams
HONDA The Power of Dreams
第7戦 モナコGP レビュー
5月29日(火) レポート:柴田久仁夫
今年のモナコGPは、TVで観ていた人には比較的単調な展開だったかもしれません。しかし現場では、かなり充実感を感じたレースでした。
まず4位に入ったジャック・ビルヌーブの走り。前日の予選で9番手というのは、外野としては若干物足りなかったんですが、ジャック自身は上機嫌でした。昨年が17番手という最悪のグリッドでしたから、「それよりはだいぶ良かったからかな」程度にしか思わなかったんですが、実は本人はあの時点ですでに相当の手応えを感じていたようです。
結果は確かに表彰台に届きませんでしたが、タイムや安定感はまったくトップに引けを取らないものでした。モナコのような特殊なコースでなかったら、間違いなくアーバインを抜いて3位だったでしょう。
この結果がドライバーの腕によるのはもちろんですが、クルマの方も大きな進化があったようです。前週バレンシアのテストでかなり大幅にセッティングの方向性を変更することに決め、それが今回のジャックの快走につながったと言えそうです。しかもそれはモナコ限りのものではないと、担当エンジニアは断言しています。彼が正しいかどうかはカナダを見てみないとわかりませんが、新しい動きは感じました。
今回は結果を出せませんでしたが、オリビエ・パニスは相変わらずマシン開発で多大な貢献を果たしています。ジャックとオリビエの信頼関係は非常に厚く、それがようやくいい方向に回り始めた感じです。
一方のジョーダンは、ちょっと足踏みしている感じです。今回、初日で禁止になった「Tウィング」に限らず、多くの変更をマシンに施しました。その成果があるにはあったのですが、ブレイクスルーには至らない。トゥルーリがビルヌーブを通せんぼする形になるなど、レース本番での失速も相変わらずです。次のカナダ、フランスはジョーダンマシンに相性が良さそうなので、期待していいかもしれませんが。
チャンピオン争いに目を転じると、今回はマクラーレンにとっては散々なレースでした。ミカ・ハッキネンは、もしトラブルに見舞われてなかったら、完璧な展開で勝利を飾っていたでしょう。しかし今年の彼は、完全にツキに見放されてしまったようです。
そしてチームメイトのデビッド・クルサード。最後尾スタートで5位入賞は立派という見方もあるかもしれませんが、僕はかなり失望しました。たとえモナコとはいえ、4秒以上も速いクルマで、なぜ抜けないか。周回遅れになるときが大きなチャンスなのに、それを利用するそぶりすら見せない。2回ともそうでした。あれがシューマッハやハッキネンなら、相当早い時点で前のクルマを抜いているはずです。確かにクルサードは今季、ポイントはたくさん取っていますが、チャンピオンになるには決定的に足りない部分があるような気がします。
となるとフェラーリの、そしてシューマッハの独走ということになるのでしょうか。前回の僕の推測は大外れで、ルーベンス・バリッチェロは早々と契約更新してしまいました。ほころびが見えるやいなや、すぐに処理してしまうジャン・トッドの手腕はさすがです。体制も安定して、レースに専念する状況が整いました。確かにマクラーレンが、このまま手をこまねくことはないでしょう。しかしハッキネンとクルサードの差は、思っていた以上に大きい。ハッキネンが脱落した今、クルサードにタイトル奪回の荷はちょっと重すぎるようです。