OCEAN MASTER STORY

世界のプロが選んだHonda

世界で活躍するHonda船外機の
知られざるストーリー

2016.09.07
名匠一族の新たなる挑戦 7

立ち上がったフレームに、
舳(みよし=ステム)とキールを取り付け。

船好きが、一度は見ておきたいと思う
木造船建造工程と、その凄技。

建造工程
舳(みよし=ステム)とキールの取り付け

2016年5月

27日、船の骨格ともいえるフレームが立ち上がった。その数は15。
仮止め用の台座に固定されたフレームを眺めると、ライン図からイメージはつかんではいたが、あらためて31フィート・ランナバウトのボリューム感に圧倒される。BF250が2基掛けされるのだから当然だが、トランサム周りも巨大だし、バウ付近のフレアも大きく、水天髣髴の彼方へ怒涛の如く走り抜けそうな、ただならぬ走行性能を想像してしまうのである。
5月27日、31フィート艇である「RIGBY」の骨格となるフレームが立てられた。その数は15。写真の手前側が船首方向。また写真上部が船底となる。つまり船体はひっくり返した状態で造られていくわけだ。いずれ外板を張り終えたところで、180度ぐるりとひっくり返される。この写真から、チャインの位置がよくわかるし、バウ付近のフレア感も伝わってくる。また、一番手前のフレームの上先が凹状になっているが、ここに舳(みよし)が組み込まれる。
フレームを仮止め用の台座に固定する佐野龍太郎社長(右)と龍也氏(左)。
フレームは、隣り合うフレーム同志も仮の部材で繋ぎ合わされる。
フレームが立った日、舳(みよし=ステム)が載せられた。
猪牙船や網船など、江戸期の和船のぐっとそびえるように突き出た舳(みよし)は、頑丈な船体を造り上げるための主要構造物であると同時に、外観上の特徴のひとつになっている。木造船建造のパイオニアである佐野造船所が造り出す船には、力強い舳(みよし)が必ず見られる。しかしボートやヨットなどの洋船の場合、船体の完成時には美しい外板と一体化し、外見から舳(みよし)を想像することは難しい。その意味で、今回、舳(みよし)の製作から、フレームへの取り付けに立ち会えたことは千載一遇の機会に恵まれたようなものだし、この船人紀行でご紹介することができてホッとしている。
5月27日、いよいよ舳(みよし)がフレームに載せられた。重量があるため、龍太郎社長(右)と龍也氏(左)と、ふたりがかりの作業となった。船好きなら一度は見ておきたい建造工程だが、見たくてもなかなか見られないのがこのシーンだ。
凹状のフレームに挟まるように収まった舳(みよし)。肋骨のようなフレームに、舳が加えられると、一気に船らしくなったと思うのはわたしだけか。その舳には、外板を受ける溝が彫られているのがわかる。また縦通材のような細長い部材が幾つかフレーム上に載っているが、これはすべて仮止めのもので、作業が進むと外されていく。
5月31日、チーク材を切り出した26尺長のキールがフレームに載せられた。
4寸幅の左右両側には、両舷を覆う外板を受ける溝も掘られ、長さ170mmのボルトでフレームに固定された。写真にあるように、ボルトの端にはマキハダが巻かれた。桧の樹皮の内皮を叩いて繊維状にしたものがマキハダだが、止水効果が高く、古くから和船建造に使われてきた。腐ることがないという話も聴いた。木造船建造の先達の知恵である。 キールが固定されるのは、フレームばかりではない。舳(みよし)とも、シーカフレックスというシーリング接着材を使って固着させたうえに、くさびが打ち込まれ、最終的にはボルトで締められた。

次回は、シアーライン、チャインの取り付けをご紹介する。
前回、切り出すところをご紹介したキールが船底に載せられた。もちろんふたりがかりの作業だ。龍太郎社長(左)と龍也氏。
外板を受けるための溝がキールに彫られる。ノミをふるった後に、丁寧にカンナがかけられる。
外板とキールが合わさる角度は微妙な数値なはずだが、それをさっと弾き出し、差し金で確認しつつ黙々と作業する姿に、匠の凄さがある。手前、差し金を持つ龍太郎社長。奥に龍也氏。
龍太郎社長(左)と龍也氏がノミをふるうキールは、長さ26尺、幅4寸、厚み3寸。
加工が終わったキールをフレームに載せ、ボルトで固定していく。
キールとフレームの固定には長さ170mmのボルトが使われた。
防水性を高めるため、ボルトにはマキハダが巻かれる。
これがマキハダ。桧の樹皮の内側の薄皮を打って軟らかくしたもの。水を含むと膨張し、止水の役目を果たす。古くから木造船建造に使われてきた。現在では需要の問題から製造元が激減しているそうだ。
キールと舳(みよし)は、シーリング接着剤(シーカフレックス)で圧着され、くさびが打ち込まれる。
くさびを打ち込む龍也氏。
くさびが打ち込まれ、シーカフレックスが硬化するのを待つ。ちなみにキールはチークで、舳(みよし)はマホガニーだ。もの凄く贅沢な仕様だが、いずれ外板に隠れてしまう。
龍也氏の愛艇にLED水中ライトが付けられた。取り付けは簡単。トランサムに配線穴を空け、ライトをタッピングビスで止めるだけ(要シーリング)。
幻想的なナイトクルージングが楽しめるとあって人気上昇中。
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