» もしかしたら、リグビーはフィッシングボートになっていた!
» 6,200回転で高速快適クルーズ!
» BF250Dをフルチルトアップすると指一本。どういうこと?
» 建造開始が一年遅くなっていたら、インパネデザインは変わっていた!
» インパネを飾る極上のアルミ削り出しのスイッチプレートと、なぜかリールのハンドルノブ
ほか。
もしかしたら、リグビーはフィッシングボートになっていた!
リグビーはフィッシングボートになっていた可能性があった。
そう打ち明けたのは建造者の佐野造船所10代目の佐野龍也氏だ。
突然、釣りポイントにホンジュラス・マホガニー製の超豪華なボートが現れようものなら、わたしは帰りに魚屋さんに寄ることにして、自分の釣りをやめて美しい船を眺めていたと思う。
ついでに言うと龍也氏は釣りがうまく、爆釣フィッシャーマンである。
そんな彼がフィッシングボートではなくランナバウト建造に決めたのは、以前書いたが父上である9代目佐野造船所社長の佐野龍太郎氏の影響だ。
龍太郎社長も釣りが好きで、オニカサゴやユメカサゴ、さらには千葉沖で幻級の2キロ越えのアカムツなどの高級魚を淡々と釣り上げてしまうフィッシャーマン。
だから龍太郎社長の顧客に、ベテラン・フィッシャーマンの方が多いというのも合点がいく。現在建造を進める29フィートの新造船もフライブリッジ仕様のバリバリのオフショア・フィッシングクルーザーである(次回、建造風景をご紹介する予定)。
龍也氏がひとりで乗るつもりだったら、迷わずフィッシングボートにしていたと、わたしは確信している。
だが建造には「家族のために」というキーワードがあった。それはかつて龍太郎社長が22フィートのマホガニー製ランナバウトを建造した時の動機と同じだ。
「父が建造したランナバウトは美しいボートで、子ども心に感動した」
そう語った佐野造船所の10代目の龍也氏が、設計図にランナバウトを描いたのは不思議なことではなかった。
最近、龍也氏がまだ幼い11代目を完成したばかりのリグビーに乗せ、深川の桜に包まれた水路でクルージングをしている様子を目撃した。
デッキの上を大きなライフジャケットにくるまれた小さな身体が「ト、ト、ト」と走り回っている姿は、それは、それは可愛らしかった。まだマホガニーの美しさに感動するにはちょっと早いかもと思いながら、花越しに眺めていた。
6,200回転で高速快適クルーズ!
4月1日から行われたバーチャルボートショーのHondaブースで、佐野造船所関連の動画を3本同時公開した。
そのうちの一本がリグビー動画で、その撮影中に龍也氏がはじめて語ったことがある。
それはHonda船外機のことだ。
マホガニーフレームに1層目としてチーク材を貼り、2層目=外板にマホガニー材を使用した31フィートの重量のある船に、250HPのBF250Dを二基掛けしてどのような走りをしてくれるのか、納得できる走りになるのか、不安だったそうだ。
結論からいえば「さすがHonda。ぶっといトルク!」と龍也氏は納得。
巡航の4,000回転でも、トップスピードが得られる6,200回転付近でも快適性、低振動は変わらず、おまけにコックピットに響くVTECサウンドが心地良い。40ノットでステアリングを握る龍也氏は「Jet機のエンジン音のように聞こえる」と語った。
実は龍也氏は根っからのHondaファンで、愛車もVTECエンジン。
BF250Dをフルチルトアップすると指一本。どういうこと?
本当に指一本分しかない。
どういうことかというと、二基搭載したBF250Dのフルチルトアップした時の間隔、というよりも隙間が「指一本分しかない」のだ。写真でみていただくとわかりやすいが、できるだけ詰めてセッティングしたかったそうで、そのために緻密な計算をして搭載位置を割り出していたはずだ。
フルチルトアップして指一本。こだわりが凄すぎる。
美し過ぎるテーブルに缶ジュースが置けない!
マホガニーの鏡面仕上げの芸術的な仕上げのデッキテーブルに、「ものが置けない」と誰かが言った。傷が付けばペーパーをかけて削って幾らでも修正が可能な、実はもっとも実用的なのが木製の家具。だがリグビーのデッキテーブルは美し過ぎた。だれも傷をつけた最初の人になりたくはなかった。
結局、テーブルの上に置かれるドリンクホルダーがマホガニーで作製され、今年の夏には活躍するはずだ。
もし一年建造開始が遅くなっていたら、インパネデザインは変わっていた!
本当は回転メーターなど、クラシックな銀縁メーター類でインパネを飾りたいと思っていた龍也氏だったが、高機能なマルチファンクションメーターにすることを決断した。
その瞬間、頭に描いていたデザインが消え、悩み始めた。
インパネの仮組などを繰り返した末、2019年春にイタリアへ渡り、新旧のイタリアデザイン艇を見て回った。結果、海外でトレンドとなっているシンプルデザインに行きつき、マホガニーという貴重な素材の木目を前面に押し出すことに決めた。それがリグビーのインパネだ。
もし建造開始が一年遅くなっていたら、コロナの影響でイタリアへは行けなくなっていた。そうなるとインパネのデザインはどうなっていたのか、それはそれで興味が湧く。
ところでマホガニーにシルバーがよく合うことはわかっている。
そこで走り出すとスルスルとダッシュボードにせり上がってくるGPSプロッタをステンレスフレームで囲ってみた。綺麗にモニターを飾ったフレームだったが問題が発生。
GPSプロッタ本体の上部に隠れたセンサーを邪魔してデータを拾わなかったのだ。対策としてステンレスフレームの上部の一部を切り取って解決。もしリグビーを見る機会があったら確認してみると面白い。センサー取り付け位置がよくわかる。
インパネを飾る極上のアルミ削り出しスイッチプレートと、なぜかリールのハンドルノブ
「恰好良い!」
文字が刻まれたアルミの削り出しスイッチプレートがインパネに付くのを見た時、思わずそう言ってしまった。斜め三連と二連の二列のスイッチが建造者・龍也氏のこだわりだ。
面白いのはGPSプロッタの昇降スイッチ。Honda純正のマルチファンクションディスプレイの横下についているのだが、どこかでみたことのあるような形状だった。話しを訊いてみると「それ、リールのハンドルノブ」という答え。
建造者の遊び心だ。
文・写真:大野晴一郎