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OCEAN MASTER STORY

世界のプロが選んだHonda

世界で活躍するHonda船外機の
知られざるストーリー

2020.03.31
名匠一族の新たなる挑戦 25

極上の美艇、サノ24ランナバウトと
リグビー・サノ31ランナバウト、
新型Honda船外機を搭載して、進水。

今年2月、進水した2艇のマホガニー艇が佐野造船所の桟橋に並んだ。
左:サノ24ランナバウト。右:リグビー・サノ31ランナバウト(以下リグビーと表記)。どちらも新型のHonda船外機BF250Dが搭載された。この2艇は、ジャパンインターナショナルボートショー2020のHondaブースに並んで展示される予定だった。

佐野造船所の10代目である佐野龍也氏は、父親である龍太郎社長や、叔父の稔氏が手掛ける様々な船の建造を長年サポートしてきた。そして建造の技術レベルが会社側から認められたことにより、1号艇のプランニングが許された。それが2014年のことで、その年の10月28日に佐野造船所を訪ねた際、龍也氏からリグビーと名付けられた30フィート・ランナバウト艇の設計図を見せられた。
それから6年経った今年、1フィート全長が伸ばされて31フィートとなったランナバウトは、DBW(電子制御リモコン)を採用したHondaの最新鋭船外機、BF250Dを二基搭載して進水した。
販売目的ではなく、会社の所有船となるリグビーの建造は、絶え間なく入る顧客からの建造注文を優先するために常に後回しとなり、完成まで6年の歳月を要した。しかしその時間は、悩みながら建造を続けた龍也氏にとって、思考するために使えた都合の良い時間でもあった。

リグビーの設計図が完成したのは2014年のことだが、龍也氏が船を造りたいと思った原点は幼少の頃にある。
目の前で完成したモーターボートが恰好良く見え、そのモーターボートを造った父親に憧れた。自分もいつか同じようなモーターボートを作ってみたいと、子ども心に思ったのだそうだ。
そのモーターボートというのは、龍太郎社長が建造された22フィートのインボードエンジン・アウトドライブのランナバウトのことで、現在も佐野造船所のラインアップの中にある。
釣り好きな龍也氏は1号艇のプランニングにあたり、コンソールタイプのフィッシングボートを考えたこともあったそうだ。だが結局行きついたところは、心に焼きついた父親の恰好の良いモーターボートと同じ、ランナバウトであった。それがリグビーという極上の美艇の誕生の背景である。
佐野造船所には、「お客さんの船を造る前に、まず自分の船を造り、乗り込まなければだめだ」という伝統がある。それは、おふたりで9代目を担う龍太郎社長と稔氏も同じで、若かりし頃に自分にとっての1号艇を、それぞれ建造されてきた。そして今回、龍也氏が自身の船のプランニングを許された。つまりそれは、この先ひとりの建造者として、顧客からの注文を受けることができるということを意味している。

東京湾での試走を前にしたサノ24ランナバウト(右)と並ぶリグビー。個人的に思うことは、日本でもっとも美しく、価値のあるランナバウトは、佐野造船所で建造されているということだ。

DBWと呼ばれる電子制御リモートコントロールシステムを搭載した最新型のBF250D(3.6リッターV型6気筒)を二基掛けしたリグビー。試走ということもあり、回転数は5500回転のはるか手前までとしながらも40ノットを超えた。

DBWというのはドライブ・バイ・ワイヤの略で、ワイヤは電気的な配線を意味するシステム。NSXやアコードなどの車で培われてきた技術でもある。ユーザーからはフリクションを感じることなく、緻密なスロットルコントロールが可能になったとして高い評価を得ている。世界に誇るHondaの技術が新型船外機に結集したという印象が強い。

2014年に設計図が起こされ、この1/10サイズのハーフモデルを製作することからリグビーの建造がはじまった。
手にしているのは2014年作製のモデルで、手前が一部設計変更したデータをもとに2015年に製作された2号モデル。

龍也氏が手にしているのは、船体の骨格となるフレーム。このファーストフレームが完成したのは2016年の4月だ。

フレームに縦通材を組み合わせ、船体の骨格が完成したのは2016年10月のことで、同月22日に起工式が行われた。左から佐野龍太郎社長。佐野龍也氏。佐野稔氏。

リグビーのプロペラは当初4枚翼が試されたが、走りに敏感な龍也氏は、ある回転数付近で起こる「ほんの僅かなキャビテーションが気になる」ということで、3枚翼(Diameter:15 1/2 Pitch17)を選択した。

昨年一年間、佐野造船所には日本でもっとも美しい2艇のマホガニー艇、サノ24ランナバウトとサノ31ランナバウトが並んでいた。そこに時折上架される佐野造船所建造のオールチークのヨットが並んだりすると、本当にひれ伏したくなった。これは大袈裟な話ではなく、チーク艇やマホガニー艇に代表される木造艇の価値を知る船好きの方には、理解していただけると思う。
龍太郎社長が設計・建造されたサノ24ランナバウトは、2代目のオーナーさんの手に渡ることになった。そのためのフルレストアが1年かけて行われてきたのだが、その作業中に艇体に使われている10年目のホンジュラス・マホガニー材を見せていただいた。それは伐り出したころより赤味が増し、何とも言えない艶やかな風合いを醸し出していた。新艇時には味わえない熟成が進む木の魅力だ。
このサノ24ランナバウトには、進水当時からBF225が搭載されてきた。2009年の6月に発売となった船外機で、新型BF250Dに換装される昨年まで、現役バリバリで充分なポテンシャルを発揮していた。しかし新エンジンが搭載されると、225と250の馬力差はあるにせよ、パフォーマンスの向上は明らかで、Honda船外機の技術進化を実感させられた。それにしても初代BF225は、ノートラブルで10年だ。もちろんメンテナンスはされてきただろうが、その耐久性には驚かされる。

試走中のリグビー。この写真では37ノット前後だが、このあと40ノットまで伸びていく。

ランナバウトらしく艤装品が並ぶリグビーのバウデッキ。興味深いのはマリンホーンだ。二本ハンドレールに挟まれたクラシカルなケースの中に納まっている。このケースは、佐野造船所に出入りする金属加工の専門家に依頼した特注品で、発想の元はスタジオジブリ製作の、ある映画に登場する小型飛行物体らしい。ステイ上部には航海灯が付くようになっている。

インパネ周りを見る。必要最小限のスイッチとパネルにとどめた龍也氏のセンスはさすがだ。てんこ盛りのスイッチ類が並んでしまうと、マホガニーの美しさが損なわれてしまう。このシンプルな仕様を決めたのは、昨年イタリアで様々な船に触れてからのことで、シンプルな方向に向かいつつある世界のボートデザインのトレンドを見ているようだ。

マホガニー製ステアリングの右に設置されているのが、Honda純正のマルチディスプレイ(NMEA2000対応)。ダッシュパネル上にはフルノ製の9型ワイドカラー液晶GPSプロッタ魚探( GP-1971F)が設置された。

佐野造船所が建造してきたマホガニー艇の価値は計り知れない。買いたくても市場に出回っているオールマホガニー製の国産ボートなど無いからだ。それにボート建造に使えるようなマホガニー材は、日を追うごとに入手が難しくなっている。昨年のボートショーでHondaブースに展示されたサノ25ランナバウトも、今回進水したサノ24ランナバウトとリグビー・サノ31ランナバウトも、本当に希少性の高い船だと思う。

もしサノブランドのマホガニー艇が欲しくなったらどうしたらよいのか。製造ラインが空く数年先に、マホガニー艇の建造を予約できないか相談してみるしかないだろう。あるいは24や25のオーナーさんが手放されるのを期待して待つという方法もあるが、それは何年先になるか分からない。いや、絶対に手放されないと思う。

そんなことを考えると、今年のボートショーで、みなさんに最新鋭のHonda船外機を積んだ極上の美艇を見ていただきたかったと思う。

マルチディスプレイは、シフト位置の表示やエンジン回転数、トリム角度表示、さらにECOモードやトローリングコントロールモードなどのモード移行表示といったさまざまな情報を表示。このメーターひとつで、最大4基までのエンジンを管理するというから驚かされる。
視認性も抜群で、ダッシュパネルにバイザーの類は全く必要がない。リグビーの場合は、操船者の視線角度を考慮し、取り付け台座(もちろんホンジュラス・マホガニー製)に角度を付けて、画面を僅かにドライバー方向に向けている。写真はあえて正面からの撮影は避け、操船者目線で撮影。ディスプレイ表示がはっきりと読み取れる。
マルチディスプレイの右下に見えるのは、GPSプロッタの昇降スイッチ。

インパネ上部に設置されたフルノ製のGPSプロッタ魚探は、電動アクチュエータテクノロジーで世界的に知られるLINAK の昇降装置により、スイッチひとつでせり上がってくる。昇降ストロークやスピードなど、龍也氏が出した条件をもとに特注で製作された。またGPSプロッタの外枠にはステンレス製ガイドフレームが取り付けられている。これは前述したマリンホーンのケースを依頼した金属加工の専門家に特注でオーダーしたものだが、今後、このガイドフレームのオーダーを希望するオーナーさんが増えそうな気がする。
写真は右手で昇降スイッチを操作しているところ。

サノ24ランナバウト。2代目のオーナーさんの手に渡ることになり、およそ1年かけてフルレストアが行われた。操船するのは設計者であり建造者である佐野龍太郎社長。エンジンは人気ボディカラーのグランプリホワイトの新型BF250D。

10年目のマホガニーの艇体には、新艇時には味わえない艶やかさが備わる。この写真は2月中旬のもので、試走ということで回転数を押さえながらの走行となったが、後日佐野社長から、楽に40ノットに届いたとお話しをうかがった。以前この24ランナバウトに搭載されていたエンジンは、2009年の6月に発売された初代BF225で、新型BF250Dに換装直前まで充分なポテンシャルを発揮していた。しかし新型エンジンをマウントしたことにより、明らかにパフォーマンスが向上した。Honda船外機の進化にはいつも驚かされるが、同時に、それに難なく対応してしまう佐野造船所の建造技術にも毎度のように驚かされる。

サノ24ランナバウトに搭載された新型BF250Dは、メカニカルリモコン仕様ということもあり、メーターはアナログメーターが選択された。お洒落だ。

佐野造船所が建造する船はトランサム美人だと、これまで様々な媒体で書き、多くの方に話してきたが、曲線を活かしたこのモーターウエルのデザインも魅力的だ。バウデッキやコックピット周り同様、美しい船体を造り上げるための重要な部位である。

取材協力:(有)佐野造船所(http://www.sano-shipyard.co.jp/index2.htm)
文・写真:大野晴一郎