OCEAN MASTER STORY

世界のプロが選んだHonda

世界で活躍するHonda船外機の
知られざるストーリー

2019.11.21
名匠一族の新たなる挑戦 24

搭載エンジン BF250Dも到着!
仕上げの工程に進む
2艇のマホガニー艇サノ24ランナバウトと
リグビー(31ランナバウト)

手前、間もなく仕上げ作業に入るリグビー(サノ31ランナバウト)。艇上で作業するのは佐野龍也氏。向こう側はフルレストア中のサノ24ランナバウト。バウデッキで作業するのは佐野稔氏。塗装をすべて剥がしている最中だ。

2019年のボートショーのあと、佐野造船所にはフルレストアに入るサノ24ランナバウトと建造中のリグビー(サノ31ランナバウト)の2艇が並び、建造作業が進められてきた。サノブランドのホンジュラス・マホガニー艇が2艇同時に見られるという、木造艇ファンには夢のような光景が繰り広げられてきた。しかしそれも間もなく終わろうとしている。2艇とも仕上げの工程に入り、年内から年明けにかけて進水する予定が見えてきたからだ。
今回はトランサムにグレーチングを取り付け、ハルの仕上げ塗装を終えた24ランナバウトと、コックピット周りの仕上げ塗装を終えたリグビーの最新情報をご紹介する。

サノ24ランナバウト ハルの仕上げ塗装が終了

佐野造船所のマホガニー艇の塗装は、通常ニスによる下塗りが13回、仕上げ塗装が3回と、何層にも重ね塗りされ、深みのある美しさを醸し出すと同時に躯体の保護を行っている。逆に考えると塗り直しのために古い塗装を剥がすのは実に根気のいる作業となるそうで、24ランナバウトもデッキ、コックピットのすべての艤装が外された後、剥がし作業と補修作業が着々と行われてきた。

そして11月、ニスによる下塗りを終え、まずは船底を除くハルに対して仕上げのトップコートの塗布が行われた。実はこの記事を書いている最中にも、バウからアフトにいたるデッキ面への仕上げ塗装が行われている。

11月19日前後にはHonda船外機の新型BF250Dを載せ、その後早々に走りの調整が行われる予定だ。

サノ24ランナバウトのコックピットを注視する佐野龍太郎社長。

今年11月、サノ24ランナバウトはハル細部の補修作業が終わり、仕上げ塗装が行われた。下塗りのニスは13回塗り重ねられ、その上にトップコートによる仕上げが3回塗布された。計16回にも及ぶ塗装作業だが、これは佐野造船所の船としてあたり前の工程だ。ウォーターラインから下は別塗装となるため、マスキングされている。

同じくハルの仕上げ塗装が終わった24ランナバウトをトランサム方向からハルを見る。

佐野造船所の船は、いずれもトランサム美人だ。新たなグレーチング(スイミングプラットフォーム)も取り付けられ、間もなくエンジンが載せられる予定。エンジンはHonda船外機の新型BF250Dで、すでに佐野造船所に搬入されている。次回搭載作業をご紹介する。

搭載されるHonda船外機のBF250D。実際に搭載されるのは白モデル。

古い塗装を剥がす稔氏。厚く塗装されているために、その作業は根気がいる。

仕上げ塗装前の24ランナバウトのコックピット。メーターやステアリング,スイッチ類などの艤装はすべて外された。インパネにはガーミンの新型GPSシステムが取り付けられる予定。

GRATING グレーチング

グレーチングは格子とかスノコと訳されるが、船の場合のグレーチングは明確な目的を持っている。例えば佐野造船所の建造艇を見ると、セーリングクルーザーの場合、ラット手前のヘルムスマンの立ち位置や、コンパニオンウエイ(デッキとキャビンを繋げる通路)の降り口にグレーチングを見ることができる。いずれも雨や海水にずぶ濡れになったカッパから流れ落ちる水滴を、デッキ下のビルジ溜まりに落とすのが目的だ。

佐野造船所が製作するグレーチングは精巧な組み立てが有名で、芸術的な美しさは常に人目を引いてきた。サノブランドの船の見どころの一つだと言っても過言ではない。

今回、その製作過程を見せていただいた。もちろん使われるのは艇体と同じホンジュラス・マホガニーで、ぶ厚い外枠に縦13本、横5本の部材が組み込まれていく。ミリ単位以下のもの凄い精巧さで組まれるグレ―チングは、大人が載ってもびくともしないのだが、いやいや、その美しさを見てしまうと足場にするなんてとんでもない。そう思うのはわたしだけだろうか。

グレーチングが取り付けられ、下塗りが終わったばかりのトランサム。

グレーチングが取り付けられる前のトランサム。

グレーチングは型が造られ、それに合わせて組み立てられていく。写真は型で取り付け位置を確認する龍太郎社長。

削り出したグレーチングの枠を見せていただいた。ホンジュラス・マホガニーによる超高級スイミングプラットフォームとなる。

グレーチングは枠を決め、格子となるように部材を組んでいく。

部材の受けがグレーチングの外枠に開けられた。

縦方向の部材は長短13本。
13本の縦部材を一本ずつ枠に組み込んでいく。

これは仮組したグレーチングを裏側から見たところ。なかなか裏側を見ることはできない。

組み終わった縦部材に対して、5本の横部材を直角に交わるように組んでいく。

そして出来上がったのが、この芸術的なグレーチングだ。これは右舷側用。8分角で直角に交わる精巧な造りに注目。サノブランドを愛するオーナーさんたちから、こういうこだわりのある仕様が魅力のひとつだとよく聞く。ちなみにこのグレーチングは、ランナバウトではスイミングプラットフォーム、セーリングクルーザーではラット手前のヘルムスマンの立ち位置、あるいはキャビンの降り口に見られる。カッパの水滴をグレーチング下に落とすのが目的だ。美しさと実用性を兼ねている。
仮組のグレーチングを拡大して見る。各部材に組み込み順の番号が記されている。

ハルのトランサム寄りには、防舷とスプレー除け(スプレーノッカーとも)を目的としたウイング状のプレートが突き出している。グレーチングのエッジはこのプレートと一体となる。

プレートにグレーチングを合わせ、さらに水準器で角度を確認する龍太郎社長。

グレーチングが仮組された。

サノ31ランナバウト リグビー

前回の記事でイタリアから帰国した龍也氏が、インパネ周りのデザインを変更したことはお伝えしたとおりだが、11月に入ってインパネ周辺からウインドフレームなどに仕上げ塗装が行われ、いよいよ完成時期がみえてきた。

このシリーズの第一回目の記事は2015年の3月に掲載しているが、その記事では龍也氏が描いたデザイン図をご紹介している(当時は30フィートランナバウトとして紹介)。そこに気になる一枚のデザイン図があった。それはハードトップタイプのリグビーだ。そのことが気になっていたのだが、つい最近、龍也氏から新たなプランを聞くことができた。

リグビーは年内から年明けにかけて進水する予定で、しばらくの間はオープンボートとして乗り続け、いずれルーフを付けることを考えているそうだ。それも24ランナバウトや25ランナバウトのような可倒式のキャンバストップのルーフではなく、固定式のルーフトップと聞き合点がいった。2015年の3月に見せられたハードトップのリグビーとイメージが一致したのだ。ルーフの素材は未定とのことだが、前部はウインドフレームに固着させ、ルーフ後端をデッキ中央部付近から立ち上げたウッドのピラー(固定フレーム)まで伸ばす。つまりハードトップ仕様になる。

今年の夏過ぎにウインドフレームを立ち上げた龍也氏は、フレーム取り付け前も完成後も終始悩み続けていた。この5年の間でもっとも悩む姿を見たと言ってもいいほどだ。そこにはルーフ取り付けという将来の設計変更に、現状のウインドフレームが合うのかどうかという思考だったようだ。

リグビーはインパネのデザインが当初の基礎デザインから進化する形で完成した後、一気に仕上げ塗装まで進んだ。

仕上げ塗装中の龍也氏。
ウインドフレーム周辺も丁寧に仕上げ塗装が行われた。
龍也氏が最後まで悩んだのがウインドフレームの形状だ。特注のステンレス製フレームを仮止めして全体の印象を確認。
龍也氏がサノ24ランナバウトのデッキに乗り、24とリグビー双方のウインドフレームの形状を比較。

リグビーはランナバウトとしてオープンボートの形状を取っているが、24ランナバウトや25ランナバウトのように、キャンバストップによる可倒式ルーフを持たせないそうだ。ただし将来、しばらくオープンボートとして楽しんだ後は、固定式のルーフを装着する予定。その将来の設計変更のことが頭にあるのだろう、この5年でもっとも悩む姿を見せられた気がする。

仕上げ塗装を前に、アメリカから取り寄せたドライバーズシートを仮置きしてもらった。オフホワイトの本革仕様だ。シートの後ろにはストレージがあるが、右舷側はトップが開閉する。指のあたりに開閉のためのステーを取り付ける予定。一方左舷側のナビシート後方にもストレージがあるが、そちらは引き出し仕様となる。

アフトデッキもホンジュラス・マホガニーで組まれた。

コーキングを終え、下塗りを終えたアフトデッキ。コーキングは高耐候性デッキコーキング材(シーカフレックス290DC)と、弾性接着シーリング材(シーカフレックス291)を組み合わせて使っている。参考までにマホガニーのコーキングは白。チークの場合は黒となる。

デッキの仕上げ塗装を前に、コックピット後方のコの字型のベンチシートの細部の造りこみが行われた。背もたれ位置にノミを振るう龍也氏。

ベンチシートのエッジ部分を下塗りする。シートは型取りが行われ、特注の革シートが載る予定。エッジ部分のアール(曲線)部分に注目。デザイン上のアクセントになるように、曲線部だけ濃い色のホンジュラス・マホガニーが使われている。これは由来の異なる原木から削り出すことで実現した。また曲線部分は木目の間隔が狭いと強度が落ちてしまうそうで、木目が斜めに長く入るように原木から切り出すのがポイント。

これはキャビン入口のコンパニオンウエイ(デッキとキャビンを繋ぐ通路)で開閉するハッチだ。下塗りしたニスを剥がし、仕上げ塗装して完成したものが右の写真。もちろん下塗り13回に仕上げ塗布は3回の鏡面仕上げ。超絶綺麗!

取材協力:(有)佐野造船所(http://www.sano-shipyard.co.jp/index2.htm)
文・写真:大野晴一郎