
バウデッキにホンジュラス・マホガニーを張り終えた。バウ先端に向かってラインが収束していくように見える。このあと、マスキングされコーキングとニスの下塗りが行われるので、無垢のホンジュラス・マホガニーが露わになったバウ風景は、これで見納め。
リグビーのバウデッキが張り終えられたのは、2018年10月末のことだ。
工程としては、四分厚のマリングレード合板(マホガニー合板)が、二寸厚のリム上に載り、さらにその上に、やはり四分厚に製材されたホンジュラス・マホガニーが張られていった。
バウデッキの形状はリムが組まれた段階でフォルムが想像できたが、実際にデッキ材が張られてみると、船首に向かって絞られ、ゆるやかにスラントするラインが露わになった。ため息が出る美しさだ。
リグビーのようなランナバウトが桟橋に舫われていると、人の眼は、バウデッキを見て、コクピットを見て、そしてモーターウエルを見る。逆かもしれない。船の命でもあるエンジンが搭載されたモーターウエルを見て、それをコントロールするステアリング回りを見て、シートアレンジを確認し、そしてバウデッキを見るのかもしれない。いずれにしろ、バウデッキは痛いほどギャラリーの視線に晒されることになる。だから古今東西、ランナバウトのバウデッキは、造船所の最高の技術を駆使して丁寧に造り込まれ、後付けの艤装品により華やかに演出されてきた。実用的であれば100点満点を貰えるフィッシングボートのバウと違って、となりに並ぶどの船よりも美しく、恰好良くなければいけないのがランバウトのバウで、それは宿命である。
今回紹介するのは、ニス塗りの前段階のバウデッキの写真だ。つまり無垢のホンジュラス・マホガニーが張り終えられたところで、これは木造艇の永い船体寿命の中で、ほんの一瞬だけ見ることのできる素肌のようなものだ。言ってみれば船体の極上の下地を見ているわけで、この下地があるからこそ、今後14~15回は塗り重ねられるニスによる化粧が映えるわけだ。
バウデッキは左舷と右舷を分けるように、わずかに先細りに製材された四分厚の正甲板(しょうこうはん)が張られ、左舷側、右舷側それぞれに22枚、計44枚のマホガニーが張られていった。興味深いのはそれぞれの幅で、正甲板はミジップ寄りが六寸六分あるのに対し、バウ先端部は五寸六分と先細りに製材され、44枚のデッキ材も正甲板横のもっとも長いもので、一寸九分から一寸五分に先細りになっている。
龍也氏の説明によると、デッキを美しく仕上げるためには、デッキ材を先細りになるように製材するのがポイントなのだそうだ。単に長方形に製材した板を張り合わせていくのでは、間の抜けた、締まりのないものになってしまうらしい。ハッと息を呑むようなサノランバウトの美しさの根源は、こういう技術の結集にあるようだ。マリーナでサノランナバウトを見る機会があったら、ぜひとも製材の妙を視認していただきたい。









コーキングに際し佐野造船所では長年の経験から、高耐候性デッキコーキング材(シーカフレックス290DCを使用)と、弾性接着シーリング材(シーカフレックス291を使用)を組み合わせて使ってきた。
ヨットなどのチークデッキでは、コーキングというとシックな黒色が主流であるのに対し、マホガニーを駆使したボートとなると、華やかな白色が使われることが多い。目的は同じシーリング&コーキングである。白と黒をいつから使い分けるようになったのか、調べてみると面白いかもしれない。
次回はコーキング風景と、サンディング、そして張り終えたバウデッキの乾燥と汚れを防ぐために行われるニスの下塗り風景をご紹介する。



ヘッド(マリントイレ)の造作風景





サノ25ランナバウト
建造から11年目に佐野造船所に里帰りしたサノ25ランナバウト。10月からフルレストアに入っている。
レストア風景は、次回以降ご紹介する予定。以下の写真はレストア開始前の状態だ。



文・写真:大野晴一郎