OCEAN MASTER STORY

世界のプロが選んだHonda

世界で活躍するHonda船外機の
知られざるストーリー

2018.09.03
名匠一族の新たなる挑戦 19

巧緻を極めたバウデッキとキャビン。
見えてきたその仕様に、ため息...。

今夏の猛暑の中、リグビーの建造は着々と進められ、リム(バウデッキフレーム)の作製、バウキャビンの造り込み、燃料タンクの設置、さらにウォーターウェーの作製などが行われた。それぞれの作業を順に見ていきたい。

リム(デッキフレーム)は、四分の厚みを持たせた部材を5枚接着したものを型でアール(曲線)を付け、バルクヘッド前に40センチ間隔で設置された。このリムの上に、マリングレード合板が張られ、さらにその上にホンジュラス・マホガニーが張られてデッキが完成する。デッキ材が張られるのはこの先の作業だが、リムによりリグビーのバウデッキの形状が見えてきた。緩やかな膨らみのあるデッキが、ミジップ付近からビークヘッド(先端部)に向かってスラント(傾斜)するという、ランナバウトらしい複雑な形状が持たされている。船好きなら誰もがスタイリッシュな外観をイメージできるはずだ。

またリムの上面はデッキ材が張られるとその下に隠れてしまうが、下面はキャビン内の天井の部材として露出する。つまり梁である。人目につくのでホンジュラス・マホガニーを伐り出している。もちろん柾目が前面にくるように製材しているところに、設計者であり建造者である龍也氏のこだわりがある。このフレームは設置を終えた後、ひとまず外されてニス塗りが行われ、再度組み込むという手間暇がかけられた。

バウにバルクヘッドを追加。ちょうと龍也氏が建っている場所が、ヘッド(個室トイレ)となる。
バウデッキを支えるリム(フレーム)が40㎝間隔で組み込まれていく。この写真では手前から4本の組み込みが終わり、その先の5本目はこれから組み込み作業が行われる。このリムは四分厚のホンジュラス・マホガニーを5枚接着し二寸の高さとした。型を使い、緩やかなアール(曲線)を描いた。リムの上面は後々上に張られるバウデッキに隠れてしまうが、下面はキャビン内の天井の部材として露出する。そのためにホンジュラス・マホガニーが使われている。組み込みが終わったあと、すべて外され、ニス塗りと研磨が繰り返される。

この作業と同時に、キャビン内の造り込みが行われた。

キャビン内のヘッドクリアランスは1380mm。31フィートのランナバウトとして充分な高さが確保された。そのキャビン内には、大人が足を伸ばして寝ることのできるVバースと、シングルシンクのギャレー、さらにヘッド(個室トイレ)が設けられる。ギャレーはマホガニー合板で造りこまれ、内部に40リッターの清水タンクが設置される。シンクは丸型になるのか角型になるのか今のところ未定。このギャレーの壁面には蓋つきの収納棚と、電気系統のスイッチパネルが設置される予定だ。ステアリング回りは極力シンプルにしたいという龍也氏の考えがあり、コンパニオンウエイ(キャビン出入口)からサッと手を伸ばせる位置に、スイッチパネルの設置を予定している。ゴチャゴチャしたスイッチの類は排除こそできないが、せめて運転席から見えなくしたいという気持ち、よくわかる。ちなみに壁面の物入れは扉を開けると、船体構造が覗き込めるようになるそうだ。1層目のチーク材とフレームが見えるのは嬉しい仕様だ。またVバース先端のバルクヘッドも上部解放型で、なんとここから1層目のチークに加え、極太のステムも見ることができる。

キャビンの壁面は、一寸五分の幅(厚みは三分)に製材したホンジュラス・マホガニーを、二分五厘間隔で全面に張り付けられた。その豪華さは特筆ものだ。

端材でバウバースを組み込む箇所の型を取る。この後、型に合わせてベース材のマリングレード合板と支柱材が切り出される。
バウバースのベースが完成。
バウバースの内部は写真のとおり深さのある物入れ(ストレージ)。ライフジャケットを仕舞いこんだり、乗船ゲストの私物を収めたりするのに重宝しそうだ。5分割のマリングレード合板でカバーされる(写真は3枚のカバーが張られたところ。さらに足元に2枚のカバーが張られる)。最終的には、マリングレード合板はクッションで隠される。
バウデッキを支えるフレームがほぼ完成。キャビン内のヘッドクリアランスは1380mm。31フィートのランナバウトとしては高さが確保されている。

リグビーが搭載を予定しているのは250馬力のHonda船外機2基だ。今年のボートショーでお披露目になった新型のBF250が搭載される。そのエンジンのための燃料タンクが完成し、デッキ内に納められた。当初、容量は730リッターを予定していたが、余裕をもってデッキ下に収めるために、630リッターのタンクに設計変更された。ひと回り小さくなったが、それでも燃費効率の良いHonda船外機を回すのには十分な容量だ。この燃料タンク設置とほぼ同時に行われたのがウォーターウェーの製作だ。ウォーターウェーは、分かりやすく言うとサイドデッキのような部位で、舷側とデッキを接合するための重要な部位だ。リグビーのウォーターウェーは六分幅に製材したホンジュラス・マホガニーを15枚接着し、九寸の幅を持たせている。リムでも説明したように、リグビーの船体はスラントしている。そのためにウォーターウェーを型で成型することはできず、実艇にあわせて成型せざるをえないそうだ。しかも取り付けが完了したウォーターウェーはすっぽり外され、グラインダーが掛けられ、ニスの塗布が行われたのちに再度取り付けられるという手間暇が掛けられる。

左右両舷に取り付けられた九寸のウォーターウェーの間に、バウデッキのベース材のマリングレード合板が張られ、さらにその上にホンジュラス・マホガニーが張られる。

これがバウから外されたリム(フレーム)。四角に装飾が加えられている。この面が天井の部材として露出する。
リムにニスを塗布。赤茶色の艶やかな色に変わっていく。
艇体のデザインにこだわる龍也氏は、取り付ける艤装品にもこだわっている。クリート類の一部は、イタリアのミラノに本社を置くオスカラティ社から輸入した。
左上:デザインに凝ったクリート。デッキ裏側からボルト止めするのでデッキ面に無骨なボルトが飛び出さない。
右上:ポップアップ式のクリート。桟橋係留の際にクッションを取るのに便利。切れ込みの箇所がポップアップする。こちらもデッキ裏側からボルト止めする。
左下:バウチョック。機能美を追求したデザインだ。
佐野造船所に135馬力のHonda船外機が到着。東京湾でシーバスのフィッシングガイドをされる方の船の換装用エンジンだ。佐野造船所で作業が行われた。
マホガニーのすき板(マリングレード合板)にもニスを塗布、これはギャレー回りに使われる。
ニス塗りを終えたすき板を、ギャレー部に張り付ける。
右舷側のヘッド(トイレ)スペースを見る。後々、ここにドアが張り付けられ、個室ヘッドとなる。
特注の燃料タンクが完成。当初、容量は730リッターを予定していたが、630リッターに縮小された。250馬力のHonda船外機2基を搭載することを前提に容量が決められた。
佐野龍太郎社長(左)のサポートを受けて、燃料タンクをリグビーにつるし上げる。
設計とおり、燃料タンクをスペースに納めていく。
給油口や供給用ホースはタンク上部に付く。
ディスク・グラインダで龍也氏が磨くのはバウの内装材。一寸五分(幅)×三分(厚)に製材したホンジュラス・マホガニーだ。
ホンジュラス・マホガニー製の内装材を、二分五厘の間隔で張り付けていく。
バウキャビンの内装材を張り終えた。時間が経つにつれ、色味がさらに艶やかに変わっていく。ちなみに先端のバルクヘッドは完全には塞がず、ステムと一層目のチークによる船体構造を見ることができるようにするそうだ。船好きにはたまらない仕様だ。
この夏、作業はデッキ上部、ウォーターウェーの製作へと移った。ウォーターウェーは舷側とデッキを接合する重要な部位だ。サイドデッキにあたる部位といえば分かりやすい。ウォーターウェーは、左舷右舷とも六分幅に製材したホンジュラス・マホガニーを15枚合わせ、九寸の幅が持たされる。つまり両舷のウォーターウェーに挟まれるようにデッキ材が張られるわけだ。写真は、ちょうど6枚の部材を接合し終えたところ。微妙な曲線で構成されるバウに合わせて形成し、外して研磨とニス塗りが行われる。
ウォーターウェーを外してグラインダーをかける。
ウォーターウェーにニスを塗布。ホンジュラス・マホガニーらしい落ち着いた発色だ。
ニス塗りの終わったウォーターウェーをバウデッキに戻し、バウデッキのベースが完成。
右舷側のヘッド(個室トイレ)が塞がれた。塞いでいるのは9mmと15mmの2枚の合板で、厚みが実に24mmある。ここにドアが造られる。
佐野造船所に26フィートのヨットがメンテナンスのために陸揚げされた。33年前に佐野社長により建造された非常に美しいチーク艇だ。31フィートのマホガニーボートと並ぶ光景は、佐野造船所ならでは。世界中から注目されるはずだ。
取材協力:(有)佐野造船所(http://www.sano-shipyard.co.jp/index2.htm)
文・写真:大野晴一郎