OCEAN MASTER STORY

世界のプロが選んだHonda

世界で活躍するHonda船外機の
知られざるストーリー

2017.08.09
名匠一族の新たなる挑戦 12

ホンジュラス・マホガニーを使った
チャインは2層構造。
その1層目の取り付けが行われた。

いつも木の香りに包まれている佐野造船所が、檜(ひのき)の豊香に包まれた。船ばりに使う檜を、佐野社長が丹念に磨き上げていたからだ。
佐野造船所を訪ねると何かしらの木の香りが漂い、それだけで気が安らぐのだが、去る7月15日には造船所中が檜(ひのき)の香りに包まれていた。これは建造中の網船に使う檜を、佐野社長が丹念に磨き上げていたからだった。
前話でご紹介したとおり建造中の網船は、船底材である敷に加敷(カジキ)が付き、さらに下段の船ばりまで完成している。いずれも飯能産の木材だ。造船所を豊香に包んだ檜の部材は、取り付けが終わっている船ばりの上に、あらたに載せられる上段の船ばりだ。
上下の船ばりは、落とし釘によって接合される。
落とし釘というのは幅広の木材が必要な時、木材同志をつなぎ合わせる時に使われる和釘のことで、江戸前和船では銅釘が使われる。すでにご紹介した通り、銅釘は製造元が無くなってしまったので佐野造船所製である。銅の帯板から叩き出された。
船ばりを調整する佐野社長。
檜の船ばりに鉋(かんな)をかける。
下段の船ばりに、あらたに檜による船ばりが付けられた。
佐野社長に落とし釘の作業を説明していただいた。
まず上下に重ね合わせた双方の船ばりに、片鍔ノミで穴を穿つ。
そこに、ノミに合わせて軽く湾曲させた銅釘を打ち込んでいくのだが、鍔ノミで穿った穴というのは、ドリルで削って穴を開けるのとは違って隙間を作っているだけなので、いずれその穴は縮まって銅釘がきっちりと締まる。
これは佐野社長による説明だが、これだけでも江戸時代から続く和船建造が、木の特性の上に成り立っているということが理解できる。逆を言えば、木を知らねば和船建造はできないということでもある。
和釘には、落とし釘のほか、階折釘(かいおれくぎ)というのもある。
仕上がりで2寸半(約75mm)とぶ厚い船底材の敷と、船側の一部で1寸2寸(約36mm)の厚みがある加敷とは、階折釘(かいおれくぎ)で固定されている。
<落とし釘>
片鍔ノミに合わせて銅釘を軽く曲げる。
事前に片鍔ノミで穿った穴に、銅製の和釘を打ち込んでいく。これが落とし釘だ。
和釘のために穴を穿つには、2種類の鍔ノミを使う。
その鍔ノミを見せていただいた。
写真上がまっすぐな和釘のための両鍔ノミ。両鍔ノミの下にあるのが、まっすぐな和釘。
下の写真は湾曲した片鍔ノミ。ノミの形状に合わせて曲げた和釘を使う。
これらのノミは、佐野造船所で代々使われてきたものだそうだ。
落とし釘によって接合された船ばり。下段の船ばりの周りには、すでに加敷(カジキ)が付けられているが、上段の船ばりの外側にも船側の一部である上棚がこの後付けられることになる。
取材協力:(有)佐野造船所(http://www.sano-shipyard.co.jp/index2.htm)
文・写真:大野晴一郎
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