スマチャリ
母校に帰る

2023.11.16 野村真成(のむら・なおき) 本田技研工業株式会社
新事業開発部 ロボティクス事業ドメイン
SmaChariスマチャリ 母校に帰る
Hondaが開発したSmaChari、ご存知ですか? チャリというネーミングからわかるように、自転車です。でも自転車を創ったのではないのです。普通の自転車が、電動アシスト自転車になるシステムを開発したのですが、これが単なるシステムじゃない! なんとスマホとつながる電動アシストなんです。


どういうこと? そう思った編集部は、開発者に会いに行きました。

開発責任者の野村さん、なぜ、こういうものを思いついたんですか?

――野村:実は僕、岐阜の生まれで、高校の時に10km以上を毎日、自転車で通学していたんです。それがものすごく大変で。岐阜は平野ですが、川が多くて土手を駆け上がる場所が多い。当時、岐阜高専で「ロボコン(ロボットコンテスト)」に取り組んでいたので、夜遅くまでやったり朝5時に学校に行ったり……とにかく自転車通学が負担でした。バイクやクルマの免許もないし、電車やバスのルートもなくて。そんな学生のときにつらさを、何とか解決できないかと思ったのが、SmaChariの始まりでした。
Hondaに入る前、岐阜高専のころに発想の原点があったんですね! なら、岐阜に行きませんか? 発想の原点のふるさとで、後輩たちに見てもらいませんか?

――野村:わ! その企画は嬉しいなぁ。ぜひ母校に。


「ロボコン」に出場した開発者の野村さん。

こうして開発者と編集部は、SmaChariとともに、岐阜高専を訪ねました。創立60年を迎える岐阜高専は、5年間一貫教育で、ものづくりの基盤となる技術者を多く輩出する学校です。当日は、今もロボコンに挑戦する多くの後輩たちや先生たちが集合し、母校は約10年ぶりという野村先輩を迎えてくれました。
まずはSmaChariを説明する野村さんと、同行した開発チームの服部さん。

――野村:自分がここに通っているときに、自転車通学が大変で、もっと大変さを減らし、人を支えることのできるモノを創りたい。それが発想の原点。

最も他の電動アシスト自転車と違うのは、動力を後付け出来ることと、スマホがコントローラーになり、インターネットに繋がることです。盗難防止とか地図表示で友達と会うとかもあるんですが、スマホがそのときの状況を把握して、パワーの負荷をコントロールすることも出来ます。

そのためにAIを搭載しているんです! 強中弱といったレベルでなく、その時の道の状態や乗る人を認識して、コントロールしてくれるのです。

興味津々に聞く後輩たち。さすが岐阜高専のロボコン挑戦者たちです。

集まった12名の後輩たちのうち、電動アシスト自転車に乗ったことがある学生は、4名。多くの学生たちにとって、電動アシスト自転車は、まだまだ憧れの存在のようです。

――学生A:岐阜高専の先輩が、Hondaで開発したって聞くと、すごいなぁって。

――学生B:この技術が、国の認可を初めて取得したって聞いて、先輩すごいなって思いました。

――学生C:高専に通っている時に発想を思いついたなんて、尊敬です。

そんなリスペクトの眼差しを野村さんは受けながら、いよいよ、後輩たちに乗ってもらうことに。夕暮れ前の校庭に思わず「なつかしいなぁ」と野村さん。さぁ、後輩たちは、SmaChariを体験して、どう感じたのでしょうか。

――学生A:こぎ出しが段違い! グンと加速してくれる!めっちゃ乗りやすいです。

――学生B:感動しました。的確なアシストで、予算があれば欲しい。

――学生C:AIモードがすごく良くて、レスポンスとパワーの調整というか、加速度に合わせて調整してくれて乗りやすいです。
――学生D:スマホで自転車のレスポンスの調整もしてみましたけど、レベルを上げるとどんどん軽くなって、すごくラクでした。

――学生E:アシストなしと、レベル1と4で試しました。レベル4だと本当に軽くて、これなら橋を登るときにいいなぁ。

――学生F:グッと力を入れると追従してくる。AI搭載ってすごいですね!

――学生F:走り出しのドッコイショがなくて、本当に進みやすい。

と高評価。その学生たちの様子を見て、学校の女性職員も試乗体験。


――女性職員A:めっちゃ楽しい。すごい! 坂ですごく加速するのが楽しい(笑)

――女性職員B:すごかった! 何の負荷もない、初めての感覚でした。



そんな試乗のなか、「重いママチャリでも対応できる?」「専用工具なしで一般の方でも装着可能?」「コネクテッド、スマホの情報がアップされるのはプライバシー的に大丈夫?」など詳細な質問を次々に、先輩・野村さんに投げかける後輩たち。さすが機械に詳しい高専の生徒さんたち。試乗した全員が、走行体験が終わるとみんな笑顔だったのが、とても印象的でした。そして、AIの搭載への反応が多く聞かれました。



――野村:他にも交通事故の多い交差点などでは、お知らせもしてくれるのです。まず販売のスタートは、スポーツバイク専門店のワイズロードさんで販売されるこのタイプのみですが、いつか、みなさんの自転車にも付けられるように目指し、頑張っていきます。今日は後輩たちに会えて、やっぱり学生さんたちには、電動アシスト自転車は必要だなとあらためて思いました。


と感想を述べた野村さんに、一つの質問が。
「先輩は、ホンダという
 グローバルな会社で
 どうしてこういう
 開発ができたのですか?」

――野村:Hondaに新事業創出プログラムというのがあって、そこで僕自身が手を挙げて企画を説明したら、Hondaが、会社が、後押ししてくれたんです。Hondaには、そういう風土とか挑戦できる仕組みがあるんです。

――職員:岐阜高専でも今、スタートアップ育成プログラムを推進しています。まさに野村先輩は、その旗振りのような存在なんです。
SmaChariは今、販売がスタートしたばかり。今後どう広がるかは、未知数です。でも、一つの夢を叶えた先輩、野村さん。
岐阜に生まれ、自転車で走り回っていた少年が、Hondaの開発者として母校に帰ってきた姿は、後輩たちの尊敬の眼差しを集め、ちょっとカッコよかった。

もともと創業者が自転車に小さなエンジンを付けた「バタバタ」から始まったHonda。その原点にも似ているSmaChariに、みなさん、乞うご期待!
そして、岐阜高専のみなさん、先輩に続いて、夢を叶える挑戦の道を歩んでください!取材協力、ありがとうございましたー。

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