鈴鹿で見つけた「UNI-ONE」の裏側
3歳も90歳も乗れる、乗りもの??
鈴鹿で実証実験を行っていた「UNI-ONE」という乗りもの。2022年のグッドデザイン金賞も受賞したという。いったい、この乗りものはなんだ? 発売されるのか? 聞きたいことを山積みに、Hondaの研究所を訪れた。待っていてくれたのは6人の開発メンバー。その中央にいた開発責任者は、おっ! 以前ASIMOチームにいた方ではないですか……。
ーー開発責任者が小橋さん、ということはASIMOの技術から生まれたもの?
開発責任者 小橋
はい、ASIMOと同じ人との親和性を大切にするロボティクス技術です。そこからU3-Xという一輪車を開発し、その後、UNI-CUBに発展、その進化版がこのUNI-ONE(ユニワン)なんです。
ーー小橋さんはずーっとこういった研究を?
そうですね、ASIMOチームからHondaの中でロボティクスにかかわってきました。クルマもバイクも開発したことないですね(笑)。
ーー今回インタビューにお応えいただく皆さんに伺います。これは車いすなんですか?
実証実験の体験ブース(鈴鹿サーキットパーク)
車いすのような用途もできますが、我々は新たなパーソナルモビリティとして開発しました。鈴鹿の実証実験では、保護者付き添いで3歳のお子さんも乗れましたし、90歳近い方にも楽しんで乗っていただけています。
ーー3歳から90歳!? それはすごい! そんな乗りもの、ないですね!
完成機体テスト担当 長谷川
Hondaはバイクやクルマを創っていますが、そのHondaもこんな年齢の幅広い乗りものを創ったことはないですね。3歳の子が真剣な顔をして乗っている姿をみて我々が感動しました。
ーー簡単に説明いただくと、どんなとくちょうの乗りものですか?
機構設計担当 矢田
座って安全ベルトをセット、スイッチを入れると座面が上がります。そして、乗り手が重心をかけた方向に自在に進む乗りものです。目線が立位に近く、手が自由に使えるのが他にはない特徴です。車輪は左右に入っていて、その車輪が普通のタイヤではなく、360度自在に動くHonda独自の仕組みになっています。ちなみに今は、最高速度6kmにしています。
ーー以前のUNI-CUBから、どう進化したのですか?
最初のU3-Xはうまく乗れない人もいました。次のUNI-CUBでの実証実験で高齢者や障がいのある方、ちいさなお子さんも乗りたいとの声をいただきました。UNI-ONEはそうした声にお応えした誰もが乗りやすい乗りものにしようと。
ーー座面が上がるのはなぜ? 低い方が安定するのでは?
電装設計担当 坂本
車いすをはじめとするような着座型のモビリティでは、乗る方と立位の方のコミュニケーションや乗る人が歩行者と一緒にいるときに視線が低いとお互いが気を遣ってしまいます。そこで、歩く人の目線に近づけました。座面があがっても倒れないよう工夫していますし、しっかりセンサーが働いて、危険な時は座面がすぐに下がります。
ーー倒れない工夫をはじめ、さまざまなテストは行った?
例えば開発メンバーの中に、元四輪の車体テストのエキスパートと、元二輪の開発経験者がいます。テストはその経験や類似製品の規格を参考に水たまり、スラロームテストなどを実施しています。
テスト施設での斜面走行、転倒防備機能の確認テストでは担当者が恐怖を覚えるほど(テスト担当者……苦笑)
ーー二輪、四輪、ロボットと、開発メンバーの構成が領域をまたがっていますね。
ここにいるメンバーは左から
(二輪テスト・ジェット設計・二輪電装・事業化担当・デザイン・ロボティクス)
プロジェクトが進化するたびに様々な事業所をわたりあるき、その結果としてロボティクス、二輪、四輪、ジェット、事業担当といったさまざまな領域のメンバーが混ざり合ってシナジー効果を生んでいます。
ーーお! 事業担当者? といいますと、事業化(販売への道)も考えている?
事業化担当 市川
可能性を秘めた乗りものですので、しっかりと実証実験結果を踏まえて推進していきたいと思い参加しています。販売かリースかなど、全く未知数ですが、可能性はゼロではないかと。
ーー開発者の仮説としては、どんな使い方が?
アウトレットなどの広大なショッピングモールや、空港、テーマパークなどが考えられます。さらに体重移動で動けるという身体機能を拡張する特徴を活かし、テーマパークのようなアミューズメントにおけるデジタルとリアルを融合したライドとしての利用もあるかと。
ーーそれは面白い! これで移動しながらシューティングゲームとか?
検証が必要ですが(笑)。もちろん、車いすのような利用はできますし、高齢者対応は考えています。でも実証実験で、幼い子どもたちが抵抗なく楽しんで乗ってくれる様子を見ていたり、アンケートでもそうした使い方への期待の声も多く、エンターテインメントな使い方の夢も膨らんできました。
ーーそんな日が来るといいですね! ところで、なぜ名前に「ONE」がついた?
デザイン担当 金森
オンリーワン、他にはない唯一という意味。まさに他にはないモビリティなので。One & Onlyという意味で名づけました。ちなみにHondaの軽自動車「N-ONE」のONEも同じ意味ですね。
ーー今回、グッドデザイン金賞を受賞したそうですね?
2022年度グッドデザイン賞の「グッドデザイン金賞(経済産業大臣賞)」を受賞。「グッドデザイン大賞」候補のファイナリストにも選出される。
嬉しいですね。老若男女、誰もが親しみやすく、使いやすくシンプル。どこにでも馴染むデザインと社会の仕組みと風景を変える可能性があることを高く評価いただきました。
ーー最後に確認の質問! これは試作品ではなく、いつか実現するつもりのもの?
これが世に出ずにいられるものか、という強い想いでメンバー全員、開発しています。もちろん実証実験を受けて、改良は考えますが。今までのHondaにない、否、世の中にない乗りものとして実現するつもりです。
文章ではとても伝えられないが、とにかく取材中、笑声が絶えず、明るい開発メンバーの6名。きっとこのメンバーなら、いつか多くの人が「UNI-ONE」に乗れる日を実現するかも……そう思いながら、研究所を後にした編集部でした。