ちょうど1年前、HondaのF1ラストイヤーの闘いが始まる前に編集部は、HRD Sakuraの開発メンバーたちにインタビューを行い掲載した。全22戦の闘いを経た今、もう一度同じメンバーに取材を申し込んだ。理由は明快である。「やるからには勝ちたい」「全力でチャンピオンを目指す」……そんな1年前のメンバーの言葉が、最終戦のわずかラスト1周で、現実となったからである。
1年間の壮絶な闘いの果てに、全てが最後の1周で決まった。映画のような結末が、Hondaに30年ぶりの栄冠をもたらした。

――日本時間の夜中でしたから当然ですが、10名全員が自宅で観戦。各々、興奮しただけでなく、チーム内でSNSが飛び交い、翌日の午前中の勤務時は、みんなが興奮して話したそうです。それは当然ですよね。リアルタイムで見た読者のみなさんは共感してもらえると思いますが、正直、難しいかなと思っていた展開が、最後の10分、いや3分で、劇的な勝利の時間が訪れたのですから。世界中、見た人はみんな興奮したはず。

――さて1年前を振り返ってみると、全員、けっこう強気とも思える発言。1年を経て、それが有言実行となり、劇的な勝利を味わったメンバーたち。この栄冠を、どう感じたのだろうのか?
研究所 開発メンバーのVOICE!




















――メンバーから多く聞こえてきたのが「あきらめない」心が勝利になったという声。そして、リーダーの浅木さんが大英断した新エンジン投入という勝負に、各々がやれるだけのことを懸命にやったという姿勢だった。以前「負けるもんか。」というHondaのCMコピーがあったが、HRD Sakuraそしてチーム全体の想いは「あきらめるもんか。」だったようだ。その想いが、30年ぶりの栄冠をもたらした、そう感じた。

――さて、劇的な勝利体験を経たメンバーは今後、どんな未来に向かうのだろう?
開発メンバーの向かう先、それは


久保 ― 今回の成功体験は必ず活きると思っています。正直、無謀な挑戦だなというところから始まってますし。ここまで成し遂げられたのは、志を高く持つことと、準備や予測を大切にすることじゃないかと。今回の結果で感じたのはHondaは、想像できることで達成できないことはないと信じる人が集まっていると。その一人でいたいと思います。


大平 ― F1の開発で学んだことは、スピード感を持った対応力。と同時に、細かいところもおろそかにしないこと。今後はわかりませんが、例えばカーボンニュートラルという課題に対しても同じかと。負けないようなスピード感と細かさを忘れずに進みたい。


宮下 ― 上層部には、撤退をもう一度考え直せば、まだ間に合うかもって(笑)伝えたいです。やはり今回「あきらめない」ことが本当に大切だと思いました。今後もHondaのなかで何をするにせよ、あきらめないで自分のパフォーマンスを出し切っていきたい。


山内 ― 次の分野はまだわかりませんが、F1で得たスキルを大切にして挑戦していきたいです。ただ今回の勝利体験がすごくて、これ以上の刺激と出会えるか、今はそんな思いもありますが、また挑戦して成長したいなと。そしていつか、もしもしF1復活ということがあったら、自信を持って手を挙げたい。


須藤 ― カーボンニュートラルの領域でも、F1で培った技術が多く活かせると思っています。そして何よりも、F1で培った「挑戦する気持ち」をHondaとして大切にしていきたい。


吉池 ― F1に関わり、限られた時間のなかで正確な結果を迅速にアウトプットする事をとくに意識してきました。求められるレベルも高いですし。だからこそ、勝つという結果が、自分自身の自信にもなる。そして今回、やはり技術の底力がHondaにはあると改めて実感しました。挑戦して何かを成し遂げる、それこそがHondaであり、自分自身もその一員でありたい。


稲垣 ― 終わりなき挑戦がF1の時間でしたので、今までも、今も変わりないです。さらに今後、他の開発に関わっても、課題に対して日々進めるというのは同じこと。F1で学んだ闘いを胸に、日々進めていきたい。


池ヶ谷 ― すごい人がいっぱいいるんです、Hondaには。アクが強くて発信力があって。そういう人たちから学べることは多いと感じています。リーダーの浅木さんとかに多くの経験をさせてもらったので、次は自分が若い子たちに伝え、同じような経験をさせてあげたい。またF1にチャレンジできる機会があれば……。


八頭司 ― 今回の結果でも感じましたが、Hondaは世界的にも技術力がある会社だと思います。それをもっと誇れる会社でいて欲しいし、自分も技術力にこだわっていきたいです。


峯崎 ― ワールドチャンピオンは、すごく大きな財産。これから先に、辛いこととかあっても、この財産を思い出して励みにしていきたいです。人生が変わると言ってもいいほどの体験でした。そういう体験ができるHondaっていいなと思っています。
――新たな道に向かう今、チーム全員が今回の体験の大きさを噛みしめながら語ってくれた。F1ラストシーズンがHondaにもたらしたものは、栄冠だけではなかった。HRD Sakuraのメンバーの、今後の自信と指針も与えてくれたようだ。
最後にメンバー数名から「またいつか復活したい」という声を書いて欲しいと頼まれた。F1復活、未来のことは誰にもわからない。ただ、今、わかること。それはF1開発でのメンバーの経験と体験は、きっとHondaの未来の技術につながっていくだろうということ。
F1勝利の、縁の下の力持ちたち、本当におめでとうございました!