2019年 夏
木戸病院 神経内科の医師、伊藤岳さんからHonda Magazine編集部に連絡が入った。「バイクが趣味で、Hondaのバイクに乗っているのですが、その仲間から、ロボット技術から生まれた歩行アシストというものがあると。ぜひ試してみたい…」
これを受け、Honda Magazine編集部は、Hondaのライフクリエーション事業本部に連絡。まずは、木戸病院に伺いデモンストレーションを行うことに。ロボティクス事業課の尾崎氏とともに、デモ機器を抱え、新潟へ向かった。
伊藤さんの声がけで10名を超える医師や理学療法士が集まり、興味津々。
「Hondaってこういうものも創っているんですね」
「装着したら驚きました。確かに体感できます」
「移動の喜びを求めるHondaの思想から生まれたんですね」
病院では、歩行アシストの導入を本格的に検討することになった。
2019年 秋
10月末、「導入します」と伊藤医師からのメールが。そして11月、Hondaからのレクチャーを経て、木戸病院で、「歩行アシスト」の活用が始まった。目的は、歩行困難な患者さんの支援となるリハビリでの利用である。
2020年 年明け
導入から2カ月、Honda Magazine編集部は様子を伺いに、再び木戸病院を訪ねた。そこで、歩行アシストを活用する理学療法士スタッフと、導入の窓口となった伊藤先生にお話を伺った。
木島 栞さん(理学療法士)
「“脚がスッーと、自然に前に出る”と、ほとんどの患者さんが言いますね。正直、最初は機器にちょっと抵抗がある方もいらっしゃいます。でも、一度試すとまたつけたいとリクエストされることが多いのです。その様子を見ていると、何よりも、患者さんが装着したことで気持ちが前向きになっていく、その精神的な効果が大きいかなと思っています」
渋谷芳樹さん(理学療法士)
「最初は戸惑いましたが、すぐに使い方は理解できました。まだまだこれからですが、使う価値は高いように感じています」
伊藤 岳さん(医師)
「いちばん大きな効果は、タブレット表示の数値やグラフ。目で見られることです。リハビリは結果が見えづらいのでスタッフのモチベーションも変わります」
「この機器は、正しい歩行を促しながら、脳の運動回路を刺激するそうです。さらに、患者さんのマインドも変わって、前向きになれる。これが大きな効果になっている」
現在、全国で導入されている施設数は250を超えているという。その訪問のため、Hondaの尾崎氏は出張の日々。
「もともとは、ロボットの営業担当だったんですが、今は、年中、病院に。Honda勤務なのか、地方行脚なのか、わからなくなる時も…」そう言って、笑う。「一人でも多くの人に、歩く、外出する喜びを感じてもらえるなら、この機器の役割は大きいと思っています」
リハビリと聞くと、マッサージやストレッチを「してもらう」ことを想像するかもしれません。しかし、そもそもこの言葉は患者さんの権利の復権を意味します。このため、誰かに「してもらう」のではなく、自分で「行う」ことが何より重要です。その意味で、「歩行アシスト」はリハビリの真の目的に適った機器と言えます。歩行アシストはロボットが歩行を行わせるのではなく、装着している本人も気づかない程度の援助しか行いません。しかし、だからこそ自分で正しく歩けていることを実感し、それにより自信を取り戻せます。これがまさにリハビリの本質だと考えます。単に歩けるだけでなく、「移動する喜び」を実感する。そこに大きな意義があると思っています。