Honda Magazine

Hondaオーナーのみなさまに、
Hondaの裏話や真実を楽しくお伝えする雑誌です。

2019 Autumn Vol.7
Hondaの発電機がK2世界第2位の高峰へ。
Hondaの発電機とK2
K2:標高8,611m。世界第2位の高峰。登頂は、1位のエベレスト以上に困難といわれる。

Hondaの船外機がユーコン川カナダ・アラスカを流れる大河へ。
Hondaの船外機とユーコン川
ユーコン川:総距離約3,185km。カナダのユーコン準州、アメリカのアラスカ州を通り、ベーリング海に注ぐ大河。

この旅をした写真家 石川直樹さんに、お話をうかがいました。

このページでは、Honda Magazine誌面には収まりきれなかったお話も含め、ロングバージョンでお届けします。(写真は、すべて石川直樹さん撮影)


僕は、高校2年生の夏休みにインドとネパールを1人で旅して以来、山に登ったり川を下ったり海を渡ったり、ずっと北極から南極まで世界中を旅しながら、写真を撮って文章を書いてきました。
そんな僕が今回、Hondaのパワープロダクツがある風景を撮ってほしい、というお話をいただいて、まっさきに思い浮かべたのが、K2とユーコン川でした。
K2は、かつて挑戦したけれど登頂を果たせなかった山。ユーコンは、途中までカヌーで下ったことがあって、その続きを下りたいと思っていた川。そして、それぞれ本当にHondaのパワープロダクツが活躍している場所でもあるからです。

K2などの高峰に挑む時には、標高5,000mあたりにベースキャンプを張ります。村からは遠く離れ、もちろん電気は通っていません。
そこで、どの国の遠征隊も電源を持っていきます。灯りも必要だし、衛星電話やパソコンを使うためにも欠かせません。
そんな場所ではHondaの発電機がよく使われています。似た製品は、すぐにエンジンがかかりにくくなったり、使えなくなったりするのに、Hondaはマイナス20℃でも悪天候でも電気を供給してくれます。
上の写真に写っているHondaの発電機は、実は、僕が持っていったものではなく、別のチームが使っているのを見かけて撮影したものです。石の上に置いてあるように見えますが、この石をどけると、10cm下は氷河です。そんな場所に、こんなふうに無造作に置いてあっても問題なく動いていましたよ。

K2
今回は雪の状態が最悪で、頂上には立てず。「約8,100mまで行ったので、とても残念でした」

ユーコン川は、カナダからアメリカ・アラスカ州へと流れている大河です。
僕は前回、ホワイトホースからドーソンまで下ったので、今回はドーソンから下り始めました。ドーソンから先、ユーコンの川幅はものすごく広くなります。北極圏に近いところなので、夏にライフジャケットを着けてカヌーを漕いでいても、寒くて仕方がないほどでした。もしカヌーで沈をしたら(カヌーに乗って転覆することを“沈する”といいます)、泳いで岸に着くまでに低体温症になって命が危なかったでしょう。
そんな場所ですから、沿岸の小さな村に住んでいる人たちは、船外機を付けたボートをよく使っています。Hondaの船外機もよく目にしました。もし川で停まってしまったら命の危険にさらされますから、やはり信頼できるかどうかが大事なのでしょうね。
K2でも、ユーコンでも、発電機や船外機は、あったら便利というレベルではなく、人が生きていくために欠かせないレベルの製品。“ガチ”なんです。

僕は、あまり人が行かないところや、ガイドブックには載っていない場所に行くことを好むので、冒険家と呼ばれることも多いのですが、僕自身は自分のことを冒険家だと言ったことは一度もないんです。チャレンジとか挑戦という感覚ではなく、旅の延長で行ける場所に行っているつもりです。
僕が心をひかれるのは、自然と人の関わりです。ヒマラヤの山そのものや、北極圏の氷山などよりも、そこで生きる人たちの文化や営みを知りたいと思う気持ちが強い。“人が生きる力”っていうのかな、それを学びたいんです。
たとえば、ヒマラヤやカラコルムでは、ガイドを務めてくれるシェルパ族の暮らしにひかれます。彼らと付き合い、こんなふうに山で暮らし、山と付き合っているのか、と知ることがうれしいんですね。
ユーコン川では、川岸に荒野が続いて、上陸したら熊の足跡がいっぱいあるような場所を怖い思いをして下っていくと、思い出したように人口100人ほどの小さな村が現れる。陸から行くと地の果てのような場所が、川から行くとオアシスみたいで、そこに暮らす人の息吹が感じられたりします。
そんなことを身体で感じたくて旅をしているところがあります。

ユーコン川
ユーコン川では、石川さんはカヌーを漕いで下り、Hondaの船外機を付けたボートにスタッフが乗ってサポートした。「川を下りながら国境を越えたのは、めったにできない体験でした」

旅をしていると、いろいろなことを考えます。自分はいったいなぜこんなことをしているんだろう?と感じることもありますよ。僕の好きなブルース・チャトウィンという作家が、『What am I doing here?(どうして僕はこんなところに)』という本を書いているのですが、僕も、山を登っているときに、“なんで単なる地球の出っ張りを命がけで登っているんだ?”みたいな気持ちになったり、カヌーを漕いでも漕いでもほとんど変わらない岸辺を見て、“ここで一体今何をしているんだ?”と思ったり。
でも、そんな、一見意味のないように思えることの向こうを見てみたい、その向こう側に未知なる何かがあるという気がするんです。
一方で、怖いという思いをすることもあります。K2だって、ユーコンだって、人間にとっては危険な場所だし、何度も怖いと思いました。でも「怖い」という感情は、初めての場所や不慣れなことに触れているから起こるのであって、僕はすごくポジティブに捉えています。“今、未知のもの、新しいものに出会っているんだ”と。

今は知らないことがあったらすぐにインターネットで調べて、知っているつもりになってしまうことが多いのですが、カラダ全体で物ごとを知覚して理解すことを心がければ、生きていることをもっと楽めると思いますよ。そこから拡がっていく世界がきっとありますから。
僕の写真を見て、遠い地に少しでも関心を持ってもらえて、どこかへ旅をしてみようと思ってもらえたら、嬉しいです。旅をすることは、いろいろな物ごとを知るためのとても有効な手段の一つだと思いますから。カラダを使って旅をするって楽しいことだよ、と伝えたいですね。

石川直樹

石川直樹(いしかわ・なおき)

1977年東京生まれ。写真家。東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。人類学、民俗学などの領域に関心を持ち、辺境から都市まであらゆる場所を旅しながら、作品を発表し続けている。『NEW DIMENSION』(赤々舎)、『POLAR』(リトルモア)により、日本写真協会新人賞、講談社出版文化賞。『CORONA』(青土社)により土門拳賞を受賞。著書に、開高健ノンフィクション賞を受賞した『最後の冒険家』(集英社)ほか多数。最新刊に、エッセイ『極北へ』(毎日新聞出版)、ヒマラヤの8000m峰に焦点をあてた写真集シリーズの7冊目となる『Gasherbrum II』(SLANT)、水戸芸術館や初台オペラシティをはじめ全国6館を巡回した個展のカタログでもある大冊『この星の光の地図を写す』(リトルモア)など。都道府県別47冊の写真集を刊行する『日本列島』プロジェクト(SUPER LABO×BEAMS)も進行中。
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