Honda Magazine

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F1™優勝の裏に、初代N-BOXを創った男がいた。 F1™優勝の裏に、初代N-BOXを創った男がいた。
2019 Autumn Vol.2

F1優勝の裏に、初代N-BOXを創った男がいた。
F1パワーユニット開発責任者 浅木泰昭は何を変えた?

2019年シーズン、Honda F1は優勝、入賞の回数も増え、パワーユニットも好調。いったい何が起こったのか? HondaのF1パワーユニット開発拠点であるHRD Sakuraへ、開発責任者 浅木泰昭に会いに行った。

浅木泰昭と研究者

はじまりの“一点”
今シーズン、表彰台争いができて、少しほっとしています。Hondaは何年か休んでいたので、追いつくのに時間がかかったが、ようやく表彰台争いという目標まで来ました。私自身、初代Nシリーズを開発したあと鈴鹿にいて、あと半年で定年という時に今回の任務を。なぜ引き受けたか? それは、私のかわいい後輩たちがF1、モータースポーツに携わって勝てずに終わることだけは避けたい。HRD Sakuraの従業員の未来のために成功体験を。その一点で、定年退職を撤回しました。勝てない時期には、いろいろな意見やバッシングが。お金を使ってブランドイメージを下げているんじゃないという声まで。そのまま終わらせるわけにはいかない。Hondaの誰かがやるしかない。それが私だったという感じですね(笑)。

成功体験という“糧”
技術者は、世界初とか世界一とか誰もやったことがないことを実現するために、闇の中で、もがく。その苦しい時の糧になるのが、成功体験。一回成功したという根拠や自信があれば、闘える。それこそがHondaの未来の糧に。もともと60年前のマン島TTレースから始まった成功体験がHondaの原点ですから。

追いつくための“思考”
2015年、「マクラーレン・ホンダ」が復活すればすぐ勝てる、と思ってる人が多かった。でもすごく大きな技術の差があった。時間を飛び越えるワープなんて簡単にできることじゃない。だからまず、なんでもやろうというチームのやり方を変えることから始めました。なんでもやっていたら、追いつくどころか離されていく。だから、跳ぶのでなく、角度を上げようと。傾きをちょっとでも立てようと。メルセデスの傾きよりも少しでも立っていれば、いずれ追いつく。そのためにどこに集中するかを選択する。その決断が今まで足りなかったんです。最初、若いメンバーに睨まれた(笑)。「そんなことやってる場合じゃねえ!」「良くするためにやっているのに」そんな始まりでしたね。この思考はNシリーズのスタートと同じです。N-BOXの開発を始めた当時、Hondaの軽自動車はどん底。そこから勝ちに行った。レギュレーションで各社縛られているなかで、勝ち技を見つけていく。そこは、F1も軽の世界もまったく同じなんです。

浅木泰昭

チームを導く“コツ”
急に変えすぎると組織が崩壊するし、ゆっくりやりすぎると追いつかない。人を見ながら修正しなければならないから難しい。そこで大事になるのが、結果を出すこと。例えばN-BOXの時には、世界最小のエンジンルームを創り、軽の規格のなかで最大の荷室を創るという目標を掲げた。「できるわけないよ」っていうメンバーもいた。それを段々「できるかも」と変えていけた。結果がちょとずつ出てくると信じてくれるしチーム全体のモチベーションがあがってくる。ただ、F1は時間が限られていたから、少し無茶したかもしれません(笑)。

残す“もの”
決断しなきゃいけない時がある。そんな時には、成功した時を想像する。すると、どん底や逆境も平気になってくる。それってHondaの歴史とともに生きてきた私のなかに、成功体験が残っていたからだと思うんです。だから成功体験を後輩たちに残したい。その経験が活きてくるのは10〜20年後、その技術者が世界初とか、不可能に挑戦する時、必ず、糧になる。そう思うと、今、自分が失敗するカッコ悪さなんて、大したことじゃないんですよ(笑顔)。

<プロフィール>
浅木泰昭(あさき・やすあき)
1981年入社。1980年代、F1マシンのエンジン開発を担当し、常勝マシン創りに貢献。初代オデッセイ、4代目インスパイアなどの開発に携わった後、2010年代には開発責任者として、初代N-BOXを皮切りにNシリーズを送り出す。現在は、HRD Sakura センター長とパワーユニット開発責任者を兼務。

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