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「ふしぎ」な現象

春一番はいつふく?
なぜふく?
知っておきたい
「風」のふしぎ

春一番がふいても、すぐに春の陽気になるわけじゃないみたい。
空の上では、どんなことがおきているのかな?
春一番はいつふく? なぜふく? 知っておきたい「風」のふしぎ 春一番はいつふく? なぜふく? 知っておきたい「風」のふしぎ

探検たんけんメンバー

  • 隊員はると
    ふしぎ探検隊たんけんたいが行くよ!
    隊員はると
  • 荒木 健太郎さん
    この人に聞いたよ
    風にくわしい
    荒木あらき 健太郎けんたろうさん

「春一番」ってどんな風?

  • 春一番って、どんな風なの?
  • 春一番は、冬から春へ季節がかわるときにはじめてふく、あたたかくて強い南風のこと。春のおとずれをつげてくれる風物詩だね。
  • 「南風」って……南からふく風? それとも南へふく風??
  • 南からふく風のことだよ。風向きは風がふいてくる方向で表すんだ。
  • 「これが春一番だ」っていうのは、だれが決めているの?
  • 全国の気象台きしょうだい観測かんそくされ、気象庁きしょうちょうが発表しているよ。具体的には、立春(2/4ごろ)から春分(3/21ごろ)の間、日本海に低気圧ていきあつが発達したときに、はじめて毎秒8m以上の南よりの風がふいて気温が上がる現象げんしょうを「春一番」と言うんだ。
  • けっこう細かく決まっているんだね。
  • 期間も決まっているから、春一番が観測かんそくされない年もあるよ。
「春一番」ってどんな風?

「南よりの風」とは、風向きが南を中心に南東から南西の間でばらついているということ。

  • 「春一番」ってワクワクする名前だよね。
  • もともとは漁師の人たちが、「春一」や「春一番」とよんで警戒けいかいしていたことが名前のはじまりとも言われているよ。積乱雲せきらんうんが発達して竜巻たつまきなどの突風とっぷうを引きおこすこともあり、ちょっと注意も必要な風なんだ。
  • 船が遭難そうなんしたら大変だもんね。どうしてこの時期にそんな風がふくの?
  • 気圧配置きあつはいちに関係しているよ。冬の終わりごろになると、冷たい北西風がふく冬型の気圧配置きあつはいちが弱まってきて、西から低気圧ていきあつがやってくることが多くなるんだ。
  • 「日本海に低気圧ていきあつが春一番の条件じょうけんの一つだったね。
  • 風は気圧きあつの高いところから低いところへ向かってふくから、ちょうど低気圧ていきあつが日本海にあるとき、そこへめがけて南から風がふきこんで「春一番」になるんだ。
  • 春一番がふいたら、その後は春の陽気になるの?
  • あたたかい風がふいて気温が上がるけど、次の日には寒冷前線が通りすぎて冷たい空気が入ってくることが多いよ。また冬型の気圧配置きあつはいちにもどることもある時期だから、冬のコートはまだしまわないほうがいいよ。
  • そっかぁ。春まであと少しがまんだね。
「春一番」がふいた後は
寒くなりやすい

「前線」とは、冷たい空気の集まりとあたたかい空気の集まりのさかいめ。温帯でできる低気圧ていきあつ(温帯低気圧ていきあつ)は前線をともなうことが多い。

「前線」とは、冷たい空気の集まりとあたたかい空気の集まりのさかいめ。温帯でできる低気圧ていきあつ(温帯低気圧ていきあつ)は前線をともなうことが多い。

そもそも風は、なぜふく?

  • 風がふくのには「気圧きあつ」が関係しているっぽいね。気圧きあつって、いったい何なの?
  • 気圧きあつとは、大気の圧力あつりょくのこと。ある面積あたりの「空気の重さ」で決まり、「ヘクトパスカル」という単位で表すよ。
空気にも重さがある

1ヘクトパスカルは、10cm四方に約100gの空気の重さがかかっている状態じょうたい。手のひらにキュウリ1本が乗っているくらいの重さ。

  • 空気の重さって感じたことがないよ。
  • ふだんは感じにくいけど、空の上のほうまで空気が積み重なっていて、地面の近くには大きな圧力あつりょくがかかっているんだ。標準的ひょうじゅんてき気圧きあつはおよそ1013ヘクトパスカルもあるよ。
  • 手のひらにキュウリ1013本分?! 空気にしつぶされちゃうよ!
  • 人間の体内にも空気があってし返しているから、しつぶされないんだ。
  • そうなんだ? よかった。何ヘクトパスカル以上だと「高気圧こうきあつ」になるの?
  • 高気圧こうきあつ低気圧ていきあつかは数値すうちではなく、まわりとのちがいで決まるんだ。まわりより気圧きあつが高いところを「高気圧こうきあつ」、まわりより気圧きあつが低いところを「低気圧ていきあつ」とよぶよ。
  • さっき「風は気圧きあつの高いところから低いところへ向かってふく」って話があったけど、あれはどういうこと?
  • 高気圧こうきあつ低気圧ていきあつがとなり合うと、こんなことがおこるんだ。
高気圧こうきあつ低気圧ていきあつ
となり合うと……
  • し合いをしているね!
  • 空気が重たい高気圧こうきあつのほうがす力が強いから、低気圧ていきあつし勝って、その方向に空気が動く。この空気の動きが「風」の正体だよ。気圧きあつの差が大きいほど風は強くふくんだ。
  • 高気圧こうきあつ強いね! 気圧きあつの差はどうして生まれるの?
  • いろいろあるけど、ひとつは「温度」が関係しているよ。空気はあたためられるとふくらんで軽くなるから、上へのぼっていくんだ。そうすると、その場所は空気がスカスカになり、気圧きあつが下がるよ。
  • あたたかい空気がある場所は、気圧きあつが低くなるんだね。
  • 反対に、空気は冷やされるとちぢんで重くなるから、下へしずむ。そうすると、その場所は空気がぎゅうぎゅうになって気圧きあつが上がる。このしくみでふいているのが、海の近くでふく海陸風かいりくふうだよ。
海ぞいにふく風「海陸風かいりくふう

(陸のほうがあたたかい)

(海のほうがあたたかい)

  • 昼と夜で風向きが反対になるんだ?
  • 陸は海にくらべて、太陽の熱をためこみにくいから、表面はあたたまりやすいんだけど冷めるのも早いんだ。反対に海は、太陽の熱をためこみやすいから、あたたまるのには時間がかかるけど、夜になっても冷めにくいよ。
  • それで陸上と海上の空気に温度差が生まれるんだね!
  • 晴れたおだやかな日の昼間なら、陸のほうがあたたかいから、あたたまった空気が軽くなって上へのぼり、陸上の気圧きあつは低くなるよ。そこへ向かって海から空気が流れこむ。これが海風うみかぜだよ。
  • 暑い日に海からひんやりした風がふくと気持ちいいよね。あれが海風うみかぜなのか。
  • 反対に、夜は海のほうがあたたかいから、海上の気圧きあつが低くなる。そこへ向かって陸から陸風りくかぜがふくよ。「海風うみかぜ」と「陸風りくかぜ」が交代する朝夕には、風がやむなぎという現象げんしょうもおこり、「朝凪あさなぎ」「夕凪ゆうなぎ」とも言うよ。
  • 静かな時間がおとずれるんだね。

おぼえておきたい、
いろいろな風

  • 海陸風かいりくふう」は昼夜で風向きがかわる風で、規模きぼも小さいけれど、これと同じしくみで季節ごとに風向きがかわり、大陸規模きぼでふくのが「季節風(モンスーン)」とよばれる風だよ。
夏と冬で風向きがかわる
「季節風」

(ひざし強い/大陸のほうがあたたかい)

(ひざし弱い/海洋のほうがあたたかい)

  • 陸と海の関係が、ユーラシア大陸と太平洋の関係になるんだね。
  • ひざしの強い夏は大陸のほうがあたたかいから、気圧きあつが低くなるよ。そこへ向かって、夏に勢力せいりょくをます「太平洋高気圧こうきあつ」から南よりの風がふき、海上のあたたかくしめった空気が流れてくるよ。
  • だから日本の夏は暑くてじめっとしているんだね。冬は反対になるの?
  • ひざしの弱い冬は、ユーラシア大陸がとても冷たくなって、ロシアのシベリアという地域ちいきで「シベリア高気圧こうきあつ」が発達するんだ。そこに日本の西から低気圧ていきあつがやってきてちょうど日本の東に移動いどうしたときに、日本付近は北西の風がふき、冷たくかわいた空気が流れてくるよ。
  • きびしい寒さにつつまれるんだね。
  • この北西の季節風は、日本海の上空で水分をふくんでしめった風になり、発達した雪雲を運んできて日本海側に雪をふらせるよ。さらに、山をこえて「からっ風」とよばれるかわいた風になって太平洋側にふいていくよ。
冬の太平洋側にふく
「からっ風」
  • 長旅をへてきた風なんだね。
  • このからっ風の中でも、晩秋ばんしゅうから初冬の間にはじめてふく、毎秒8m以上の北よりの強い風気象庁きしょうちょう木枯こがらし1号」とよび、東京と大阪でのみ発表しているよ。
冬のはじまりにふく
木枯こがらし1号」
  • 木枯こがらし」は冬の風物詩だね。その季節だけにふく風ってほかにもあるの?
  • 東北の太平洋側では、春から夏にかけて「やませ」という風がふくよ。オホーツク海に発達した高気圧こうきあつや、親潮おやしお影響えいきょうを受けて、冷たくしめった東よりの風がふくんだ。
春から夏にかけてふく
「やませ」
  • やませがふくと、どんな天気になるの?
  • 空一面が雲におおわれて、くもりの天気が続くことが多いよ。日照がへって寒くなるから、やませが続くとイネに被害ひがいも出てしまう。農家の人はすごく気にしている風だよ。
「やませ」がふくと
雲におおわれやすい

©NASA

  • ほんとだ。雲がいっぱいある! お米がとれなくなっちゃうのは大変だ。
  • 夏から秋には「台風」がやってくるよ。日本には8〜9月に上陸することが多いよ。
  • どうしてその時期に多いの?
  • 台風は、熱帯の海で積乱雲せきらんうんが集まってできた「熱帯低気圧ていきあつ」が発達して風が強くなったもので、一年中発生しているんだけど、貿易風ぼうえきふう偏西風へんせいふうという上空の風に流されて進路がかわるんだ。
「台風」を動かす上空の風

ふだんは「貿易風ぼうえきふう」にのって西へ流れる。夏は発達した「太平洋高気圧こうきあつ」のふちにそって北へ進み、「偏西風へんせいふう」にのって東に進路をかえるため、日本に上陸しやすくなる。

  • 貿易風ぼうえきふう」や「偏西風へんせいふう」ってどんな風?
  • どちらも地球のまわりをふいている風で、貿易風ぼうえきふう」は赤道の近くの上空を東から西へ、「偏西風へんせいふう」はそれより緯度いどの高いところの上空を西から東へふいているよ。「偏西風へんせいふう」はちょうど日本の上空をふいているよ。
  • 偏西風へんせいふうってはだで感じることはできる?
  • 空の高いところでふいているからはだでは感じないけど、天気には大きく影響えいきょうしているよ。
  • 台風の進路以外にはどんな影響えいきょうがあるの?
  • 偏西風へんせいふうは、特に秋から春にかけて日本の上空で強くふき、西から高気圧こうきあつ低気圧ていきあつをかわりばんこに日本へ運んでくるんだ。春一番の原因げんいんになる低気圧ていきあつも、偏西風へんせいふうが運んでくるものだよ。
  • そこにも関係しているんだね。
  • シベリア高気圧こうきあつが元気な冬は「西高東低」の気圧配置きあつはいちが続きやすいけど、春と秋はこの偏西風へんせいふうの影響で気圧配置きあつはいちがころころかわり、天気が数日ごとにかわることが多いよ。よく「天気は西からかわる」と言われるのも偏西風へんせいふうのせいなんだ。
春と秋の天気が
ころころかわるのは
偏西風へんせいふう」のしわざ
  • 空の上で天気をあやつっている風なんだね。
  • スケールの大きな風の話が続いたけど、地形の影響えいきょうを受けてふく身近な風もあるよ。代表的なのが「おろし風」とよばれる風。
  • 六甲ろっこうおろし」みたいな風のこと?
  • そうそう。「おろし風」は山をこえてふいてくる風で、ふきおろすときに山の斜面しゃめんやふもとで強くなるんだ。
山からふきおろす「おろし風」
  • 力強い風だから応援歌おうえんかの名前にもなるんだね。
  • この「おろし風」や「からっ風」のように山をこえてふく風は、乾燥かんそうしたあたたかい風になってふき下ろすから、山の風下側の気温が上がることがあるんだ。これを「フェーン現象げんしょうというよ。
  • 「フェーン現象げんしょう」って天気予報よほうでよく聞くよ。風のしわざなんだね。
  • あたたかい時期の「フェーン現象げんしょう」は猛暑もうしょになることがあるから、特に注意したいよ。
山ごえの風は
猛暑もうしょをもたらすことも!

©気象庁

太平洋側からふいてきた風が山をこえるときに乾燥かんそうして、日本海側にふきおろしてフェーン現象げんしょうが発生。そのときの気温の状況。

  • 40度近くまで上がっているところもあるね! 地形が生み出す風は、ほかにもある?
  • 「だし風」とよばれる風もあるよ。谷や川など、まわりより標高の低いところに風が集まって強くふきぬける風で、日本海側の川ぞいに多く見られるんだ。海に船を出すときの追い風になったことが名前の由来と言われるよ。
谷や川ぞいをふきぬける「だし風」
  • 船を「出す風」だから「だし風」って言うんだね。
  • 「おろし風」や「だし風」のように、その地域ちいきだけにふく風は局地風きょくちふうというよ。愛媛県の「肱川ひじかわあらし」のように、きりをともなう幻想的げんそうてきな光景を見せてくれる風もあるよ。
日本の代表的な局地風きょくちふう

参考:吉野(1986)

  • こんなにいっぱいあるんだ!
  • これ以外にもあるから、地元の風をしらべてみるのもおもしろいよ。ちなみに高層こうそうビル街にふく「ビル風」は、「だし風」としくみがにているよ。ビルの間に風が集まって、その出口で風が強くなるんだ。
「ビル風」は都会の「だし風」?!
  • 山のようにそびえ立つ高層こうそうビルが、風の行く手をせばめるんだね! 強い風はこわいなぁ。気持ちのいい風を感じるには、どんな場所がおすすめ?
  • 風がだれにもじゃまされずにふいている場所ということなら、建物や木などの障害物しょうがいぶつがないひらけた場所がいいよ。海辺や山のてっぺんもいいね。
  • うちの近くだと広い公園や河川敷かせんじきのようなところかな。たこあげするにもいいね。
  • 風はわざわいになることもあるけど、すごしやすい気候をもたらしてくれたり、風力発電に使えたり、ご当地の名物として愛されていたりもする。風の個性こせいを知って、上手につきあえるといいね。
  • いろんなご当地の風と地形との関係もしらべてみたいな。
荒木さんからのメッセージ
  • 風にくわしくなると、季節のうつりかわりをもっと楽しめるし、天気の変化にも敏感びんかんになれるよ。自分の住む地域ちいきにふく風や、くらしとの関わりもしらべてみよう。
まとめ
  • 風は気圧きあつの高いところから低いところへふく。
  • 海陸風かいりくふう」は、昼は海から陸へ、夜は陸から海へと風向きがかわる。「季節風」は、夏は海洋から大陸へ、冬は大陸から海洋へと風向きがかわる。
  • 偏西風へんせいふう」「貿易風ぼうえきふう」のように上空でふく地球規模きぼの風から、「おろし風」「だし風」のように地形の影響えいきょう局地的きょくちてきにふく風まで、いろいろな風がある。

Profile

荒木 健太郎

荒木あらき 健太郎けんたろう

雲研究者

気象庁気象研究所所属。博士(学術)。防災・減災のために、豪雨・豪雪・竜巻などによる気象災害をもたらす雲のしくみ、雲の物理学の研究に取り組んでいる。著書に『雲を愛する技術』(光文社新書)、『世界でいちばん素敵な雲の教室』(三才ブックス)、『せきらんうんのいっしょう』『ろっかのきせつ』(いずれもジャムハウス)など、監修に映画『天気の子』(新海誠監督)、『天気と気象の教科書』(Newton別冊)、『気象のきほん』(Newtonライト)などがある。
詳細プロフィール
https://www.mri-jma.go.jp/Dep/typ/araki/
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