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「ふしぎ」な生き物

雑草ざっそうはがまんしない?
争わない?
まれても気にしない
雑草ざっそうのふしぎ

雑草ざっそうって、ひたむきでド根性こんじょうなイメージがあるけれど、本当はちがうみたい。
本当の雑草ざっそうってどんな生き方をしているんだろう?
雑草はがまんしない? 争わない? 踏まれても気にしない雑草のふしぎ 雑草はがまんしない? 争わない? 踏まれても気にしない雑草のふしぎ

探検たんけんメンバー

  • 隊員はると
    ふしぎ探検隊たんけんたいが行くよ!
    隊員はると
  • 稲垣 真衣さん
    この人に聞いたよ
    雑草ざっそうの生き方を研究している
    稲垣いながき 真衣まいさん

雑草ざっそうはがまんしない!?

  • 稲垣いながきさんは雑草ざっそうの生き方を研究しているの?
  • そうだよ。大学を卒業して、社会に出ていろいろとかべにぶつかっていたころに、大学時代の恩師おんし雑草ざっそうの生き方の話をしてくれて。人生に置きかえるとおもしろいなと思ったんだよね。
  • 雑草ざっそうの生き方って……がむしゃらに生きてやるぜ! みたいな感じ?
  • まれてもまれても立ち上がってやるぜ! みたいなイメージがあるよね。でも本当はそうじゃないんだよ。
  • そうなの?
  • 雑草ざっそうまれても無理に立ち上がろうとせず、やわらかい葉やくきでまれた衝撃しょうげきを受け流して、そのまま横へ成長していくよ。一度や二度なら立ち上がるけど、何度もまれることがわかったら同じ失敗はくり返さないよ。
雑草ざっそうはむやみに立ち上がらない
  • むむ。さっそく学びがあるな……。
  • 雑草ざっそうの目的は種をつくって子孫を残すこと。そのために力を温存おんぞんしておかないといけないから、ストレスに真正面から立ち向かうのはムダだと考えるんだろうね。
  • クールだね〜。雑草魂ざっそうだましいって言葉のイメージとは全然ちがうね。
  • 意外でしょ? でも、ただカッコつけているわけじゃなくて、ちゃんと自分の中にしんを持っていることがポイントだよ。
  • しん
  • よくまれる場所に生える雑草ざっそうの葉やくきは、やわらかいけれど、中に固いすじが通っていて、引っぱられてもかんたんにちぎれない構造こうぞうになっているの。だからまれても平気なんだよ。
  • なるほどね。自分の中に折れないしんがあるから強くいられるんだね。かっこいいな!
  • 中には、まれることを利用する雑草ざっそうもいるよ。
  • えぇ? どういうこと?
  • オオバコがそうなんだけど、中国では「車前草しゃぜんそう」とよばれていて、馬車の時代からよくまれる場所に生えていたことがわかる名前だよね。
車前草しゃぜんそう」の名をもつオオバコ
  • たしかに、道ばたや公園によく生えているよね。
  • オオバコの種は雨にぬれると、ふくらんでネバネバして、それがまれたときに人のくつうらにくっついて、種が遠くへ運ばれて繁殖はんしょくするという戦略せんりゃくなの。だからまれるとむしろラッキーというわけ。
  • むしろんでほしいんだね! 強すぎるな……。
  • ストレスを真に受けない雑草ざっそうもいれば、それをチャンスに変える雑草ざっそうもいる。雑草ざっそうの生き方っておもしろいでしょ?
  • うん。いろいろ考えすぎちゃうぼくらよりもかしこい気がする。
  • そうだよね。あと、雑草ざっそうはすごくわがままでもあるよ。
  • わがまま?
  • どんな環境かんきょうでも自分なりに工夫してがんばりなさいという意味で「置かれた場所できなさい」といわれたりするんだけど、雑草ざっそうは置かれた環境かんきょうが悪ければそもそも芽を出さないよ。
雑草ざっそうは悪い環境かんきょうでは
芽を出さない

どこにでも生えると思われがちな雑草ざっそうだけど、意外と人間が種を植えて育てようとしても、なかなか芽を出さない。

  • わがままだな〜。
  • 実はこれも大事な戦略せんりゃくの一つなの。雑草ざっそうは一度芽を出すとそこで一生を終えるしかないから、寒かったり乾燥かんそうしていたりするときに花がかないよう、芽を出す時期をうかがっているんだよ。悪い環境かんきょうでがんばるのはしんどいからね。
  • そっか。植物はぼくたちみたいに動けないもんね。
  • 雑草ざっそうやる気スイッチもそれぞれで、まぶしさを感じて芽を出す子もいれば、のんびりて待つ子もいるよ。バラバラに芽を出せばリスクを分散することもできるからね。
  • みんなわがままに生きていて、それが生き残る秘訣ひけつにもなっているんだね。
  • そうそう。個性こせいのちがいを大事にしてきたから、雑草ざっそう繁栄はんえいできたといえるよ。

雑草ざっそうは争わない!?

  • よくアスファルトに生えている雑草ざっそうを見て、苦しくてもひたむきにがんばる人の姿すがたを重ねることがあるけれど、雑草ざっそうは決して苦痛くつうにたえて生きているわけではないよ。
  • そうなの? アスファルトってすごくパサパサしていて、さすがにつらい環境かんきょうなんじゃないの?
  • 実はあのれ目の中は雨水がたまっていて、ほどよく水分をとれるようになっているの。日当たりもいいし、れ目の中にいれば人にまれることもないし、意外といい場所なんだよ。
アスファルトのれ目は
パラダイス!?
  • めちゃ穴場あなばじゃん! こんないい場所よく見つけたね?
  • 森のように広くて人があまり入ってこないところには他の植物もいて、競争がはげしいから、雑草ざっそうはそこでは生きられないの。自然界には、その場所でナンバーワンの者しか生き残れない鉄則てっそくがあるからね。
  • 自然界ってきびしいんだな……。
  • そこで雑草ざっそう戦わずに勝てる場所、たとえばアスファルトのすきまや乾燥かんそうしている場所、人通りの多い場所のように、他の植物では生きられないような場所へ出ていったの。弱みを無理にのばそうとせず、強みを生かせる場所を選んだわけだね。
  • それが雑草ざっそうの強さなんだね。でも他の植物では生きられないきびしい場所で、どうして雑草ざっそうは生きていけるの?
  • それは、雑草ざっそうは変化に強いからだといえるよ。
  • 変化?
  • 自然界はとつぜん環境かんきょうが変わるの。気候が変わったり、人間があらわれていねをつくったり、草むしりしたり、除草剤じょそうざいをまいたり、アスファルトをいたり……。
  • たしかに雑草ざっそうにとっては、めまぐるしい変化だね。しかも逆境ぎゃっきょうばかり……。
  • 雑草ざっそう個性こせいのちがいを大切にしてきた」というさっきの話につながるけど、いろんな個性こせいをもつ者がいれば、もし環境かんきょうが変わっても、たまたまその環境かんきょうに強い者がいれば生き残ることができるよね。
  • そっか。何に役立つかわからないものでも、とっておくと意外と後で使えることがあるもんね。これはぼくのガラクタの話だけど……。
  • そうそう。雑草ざっそうもいろんな可能性かのうせいてずにとっておいたから今があるの。あと、できるだけ小さく早くというのも雑草ざっそうの大事な戦略せんりゃくだよ。
  • 小さく早く?
  • 大木の戦略せんりゃくとくらべるとわかりやすいよ。かれらは光をもとめて競うように上へのびていくよね。でも、となりの木に少しでも負けるとれることもあるし、一度折れるとまた大きくなるまで何十年、何百年とかかってしまうの。
  • トップの世界も大変なんだね。
  • でも雑草ざっそうのように体が小さければ、まれても衝撃しょうげきは少ないし、人を利用して種を運び出すこともできるよね。
  • そっか。さっきのオオバコのようにね。
  • そう。大きな花をかせるにはエネルギーがいるけど、小さくてたくさんの花をかせれば、少ないエネルギーで受粉じゅふんのチャンスをふやせて、種をたくさんつくれる。命のサイクルも短いほうが、生まれた時代に適応てきおうしやすいよね。
  • なるほどね。なるべくコンパクトにスピーディーに……か。最新の家電みたいだね。
  • 変化の多い今の時代に合った生き方ともいえるよね。大きなチャレンジは大きなリスクをともなうし、はげしい争いに消耗しょうもうしてしまうことも。でも小さなチャレンジをくり返せばコツコツと成長していけるし、失敗してもまたチャレンジしやすいよね。
大木の生き方と雑草ざっそうの生き方
  • うん。ぼく、競争が苦手だから、雑草ざっそうの生き方に共感しちゃうな。
  • もちろん、大木のようにだれかと競うことで強くなれる人もいるよ。雑草ざっそう個性こせいのちがいを大切にして繁栄はんえいしてきたように、人間の世の中もいろんな人がいるおかげで、いいバランスで成り立っているからね。
  • たしかに、世の中がぼくみたいな人だらけだとこまっちゃう。でも大木のように生きられない人でも、自分の強みが生かせる場所が世界のどこかにきっとある!ってことだね。
  • そのとおり! あと、雑草ざっそうは自分の場所はわがままに選ぶけど、選んだ場所ではすごくがんばっているよ。他の植物とは争わないけれど、種を残すという自分との戦いはあるからね。
  • 自分との戦いか。アスリートみたいでかっこいい! 今日は雑草ざっそうにいろんなことを教わったな〜。
  • つらいことがあったときは上を向くのもいいけれど、たまには下を見て、雑草ざっそうの生き方を思い出してみてね。
  • うん。ぼくも雑草ざっそうみたいに強いしんをもって、軽やかに世の中をわたっていきたいな。
  • それが本当の雑草魂ざっそうだましいだね!

生き方いろいろ
雑草ざっそうキャラずかん

人間と同じように、いろんな個性こせいをもち、いろんな生き方をしている雑草ざっそうがいるよ。
きみはどの雑草ざっそうが気になる?

  • つらい経験けいけんかてに幸せになる
    「シロツメクサ」

    葉を4まいもつシロツメクサは「四つ葉のクローバー」とよばれ、幸運のシンボル。人にまれることで葉っぱがふえるため、人通りの多い場所で見つかりやすい。つらいことを経験けいけんしたから今があると考えるポジティブな子のような雑草ざっそう

  • 自在じざい姿すがたを変えて
    まわりにとけこむ
    「スズメノカタビラ」

    ゴルフ場によくいる雑草ざっそうで、見た目が悪いためゴルフ場にとっては天敵てんてきられた芝生しばふと同じ高さにを出して背丈せたけを調整することで、られないようにしている。生き残るためにまずまわりにとけこみ、だんだん自分色にめていく戦略せんりゃく

  • 天敵てんてきをも利用する
    「コセンダングサ」

    いわゆる「くっつき虫」「ひっつき虫」とよばれる雑草ざっそうの代表。草むしりされると種が人の服にくっつき、遠くへ運んでもらうことで繁殖はんしょくする。自分の目的を達成するためには天敵てんてきをも利用する、大胆不敵だいたんふてき雑草ざっそう

  • 相手をまどわす可憐かれん小悪魔こあくま
    「オオイヌノフグリ」

    別名「星のひとみ」。花がゆれやすい構造こうぞうになっていて、みつをもとめて来た虫は花にしがみつくしかない。もがいているうちに花粉かふんが体につき、受粉じゅふんを助けることに。利用されるとわかっていても引きよせられてしまう小悪魔こあくまのような雑草ざっそう

  • かわいい顔して実はうらボス
    「スギナ」

    胞子ほうしは「つくし」とよばれる。浅い地下に地下茎ちかけいをのばすため、草むしりしてもすぐ生えてくる。農家の天敵てんてき。ほのぼのとした雰囲気ふんいきで相手を油断ゆだんさせつつ、うらでは自分に有利に事が運ぶようばっちり根回ししているタイプの雑草ざっそう

  • 人とちがっても気にしない
    「ナズナ」

    「ペンペン草」とよばれている。春にいっせいに芽を出すと人間に気づかれてられてしまうので、それぞれにタイミングを見計らって芽を出す。「みんなといっしょでなくても大丈夫」「十人十色じゅうにんといろ」ということを教えてくれる雑草ざっそう

  • 逆境ぎゃっきょうを利用して力を発揮はっきする
    「カタバミ」

    シロツメクサとまちがわれやすいが、葉の形がシロツメクサは卵型たまごがた、カタバミはハートがた。草むしりされるとその衝撃しょうげきで実が破裂はれつして、種が飛び散り繁殖はんしょくする。かわいらしい見た目とはうらはらに逆境ぎゃっきょうに強く、土壇場どたんばで力を発揮はっきする雑草ざっそう

  • にくまれて強くなった
    「ハルジオン」

    もともとは園芸植物として愛されてきたが、人間のもとをげ出して野生化。除草剤じょそうざいかない個体こたい出現しゅつげんしてふえた今は、すっかりきらわれ者に。めぐまれた環境かんきょうて自由に生きる道を選び、図太くたくましくなった元お嬢様じょうさまのような雑草ざっそう

稲垣さんからのメッセージ
  • 雑草ざっそうは生き残るために自分のやりたいことや生きやすい場所をわがままに選んでいるよ。もし今いる場所がしんどいなら、げてもいいんだよ。人間には足があるからね。きみがかがやける場所を見つけて、そこで思い切り生きよう!
まとめ
  • 雑草ざっそうはがまんしない。つらいことがあっても真に受けないし、それを利用したりもする。
  • 雑草ざっそうは争わない。自分の強みを生かせる場所を選び、そこで自分との戦いに集中している。
  • 雑草ざっそう逆境ぎゃっきょうに強い。個性こせいのちがいを大切にし、小さな成功と失敗をくり返すことで繁栄はんえいしてきた。

Profile

稲垣 真衣

稲垣いながき 真衣まい

雑草の生き方研究家

和歌山県生まれ。静岡大学大学院雑草学研究室に所属。適応障害を患い、生きづらさを感じたことをきっかけに、戦略的な雑草の生き方の魅力に気づく。雑草の生き方を伝えるため、「雑草のんびりライフ」YouTubeチャンネルを運営。ラジオや講演活動で幅広く活躍。
雑草のんびりライフ
https://www.youtube.com/channel/UCp26N0zfBIfTPEknvgDtSfg