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「ふしぎ」な現象

魔法まほうのような色の空は
なぜ見える?
薄明はくめい
マジックアワーのナゾ

日の出前と日の入り後のわずかな時間に、魔法まほうのような色の空が見えるよ。
ふしぎな色の空はなぜ見えるのかな?
魔法のような色の空はなぜ見える?薄明・マジックアワーのナゾ

探検たんけんメンバー

  • 隊員りりか
    ふしぎ探検隊たんけんたいが行くよ!
    隊員りりか
  • 荒木 健太郎さん
    この人に聞いたよ
    空にくわしい
    荒木あらき 健太郎けんたろうさん

魔法まほうのような
色の空が見られる
薄明はくめい」とは?

  • 今日は空のお話だね。「薄明はくめい」や「マジックアワー」って何のこと?
  • 薄明はくめい」は日の出前や、日の入り後の、空がうっすら明るい時間のこと。魔法まほうのように美しい空が見られることから「マジックアワー」ともよばれるよ。
魔法まほうのような
薄明はくめい」「マジックアワー」の空
  • わぁ!ほんとに魔法まほうみたい!
  • この時間は、太陽が地平線の下にかくれていてかげがなくなるから、幻想げんそう的な空の写真がとれるんだ。
  • 薄明はくめいはいつからいつまでの間のことをいうの?
  • 薄明はくめいは太陽の高さによって「天文薄明はくめい」「航海薄明はくめい」「市民薄明はくめいの3つに分類されているよ。
薄明はくめい」の分類
  • 朝は「天文薄明はくめい」→「航海薄明はくめい」→「市民薄明はくめい」の順にやってきて、日の出をむかえるんだね。
  • そう。夕方なら日の入り後に「市民薄明はくめい」→「航海薄明はくめい」→「天文薄明はくめい」の順にやってくるよ。
  • 「天文」「航海」「市民」って名前もふしぎ。
  • 「天文薄明はくめい」は肉眼で6等星とうせい*が見えないくらいの明るさ。「航海薄明はくめい」は海と空のさかい目を確認かくにんできるくらいの明るさ。「市民薄明はくめい」は、ぼくたちが照明なしに外で活動できるくらいの明るさだよ。*暗い夜空でようやく見える星
  • 「市民薄明はくめい」が一番明るいんだね。
  • うん。でも空の色が刻々こくこくと変わるよ。美しい空を見たいなら「市民薄明はくめいの時間が一番おすすめなんだ。
  • 日の出のすぐ前や、日の入りのすぐ後の時間だね。
  • そう。晴れたら1日2回見られるよ。

ふしぎな色の「焼け空」や
「ブルーモーメント」は
なぜ見える?

ふしぎな薄明はくめいの空(1)朝焼け・夕焼け

  • 薄明はくめいの時間にはきれいな「焼け空」が見られるよ。これは夕焼けをとった写真。わずか10分くらいでこんなに色が変わったよ。
焼け空の色の移り変わり

  • すごい。最後のほうは真っ赤だね!どうして日がしずむと空は赤くなるの?
  • 光の散乱さんらんのしかたが、昼間と夕方で変わるからだよ。
  • 光の散乱さんらん
  • 太陽の光っていろんな色の光がまざってできていて、それぞれ、空気の中にある小さな「つぶ*にあたって飛び散っているんだ。*光の波長より小さい大気分子や、大気中の微粒子びりゅうし(エアロゾル)のこと。
光の色と散乱のしかた

もっとも波長が短いむらさきの光はオゾンそう吸収きゅうしゅうされて地上にはあまりとどかない。

  • 特に青い光は空気の中で散乱さんらんしやすいから、空でたくさん散乱さんらんしているよ。その光がぼくたちの目にとどくから空は青く見えるんだ。
  • へー!じゃあ、雲が白く見えるのはどうして?
  • 雲の「つぶ」は空気の「つぶ」にくらべて大きいから、どの色の光も同じように散乱さんらんするんだ。いろんな色の光がまざってぼくらの目にとどくから、雲は白く見えるんだよ。
雲の「つぶ」はどの色の光も
同じように散乱さんらんする
  • いろんな色の光がまざると白くなるの?
  • うん。光は色がまざるほど白く明るくなるよ。昼間の太陽が白く見えるのもそのせい。
光はまざると白くなる
  • その太陽の色が、朝や夕方になると赤っぽい色になるのはどうして?
  • 朝や夕方の太陽は低いところにあって、大気中をとおる太陽光の距離きょりが昼間より長くなるんだ。そうすると、青い光はとちゅうで散乱さんらんしきって、散乱さんらんしにくい赤・オレンジ・黄の光が目立ってくるんだ。
朝夕は大気中をとおる
太陽光の距離きょりが長い

昼間

朝夕

  • 光の生き残り合戦なんだね。最後に残るのは赤い光?
  • そう。夕方なら日がしずむにつれ、空が青色から黄金色になって、日の入りのころにはオレンジ色に。日の入り後の薄明はくめいの西の空がもっとも赤くなるよ。
  • 朝はそのぎゃくなんだね。
  • うん。太陽の方向に光をさえぎる雲がなく、空の高いところに巻雲けんうん巻積雲けんせきうん高積雲こうせきうんなどの雲が出ているときは、空はさらに盛大せいだいに焼けるよ。
真っ赤な焼け空
  • 雲があると、どうしてよく焼けるの?
  • 雲の中で光が散乱さんらんすると、光がぼくたちの目にとどくまでの距離きょりが、直接ちょくせつとどくときよりも長くなるよね。距離きょりが長くなるほど、散乱さんらんしにくい赤い光だけが残っていくんだ。
  • そっか。いつもより長旅になるから、生き残りやすい赤い光が残るんだね。

ふしぎな薄明はくめいの空(2)ピンク色・むらさき色の焼け空

  • 太陽の方向にうすい雲がかかっていたりすると、ピンク色やむらさき色の焼け空が見られることもあるよ。
  • わぁ、すごい!どうしてこんな色に?
  • 太陽がしずむと、さっき話したとおり空は赤くなるけど、空の高いところでは、まだ生き残っている青い光が散乱さんらんしているから、青くなっているんだ。
  • 空が青い部分と赤い部分に分かれているね。
  • ここにうすい雲がかかると、雲の中で光が散乱さんらんして色がまざるんだ。
  • 赤い光と青い光がまざって、ピンク色やむらさき色に?
  • そう。ちょうど「すりガラス」を通して見たときのように、色がまざって見えるよ。
  • うすい雲は「すりガラス」の役割をはたすんだね。

ふしぎな薄明はくめいの空(3)ブルーモーメント

  • 市民薄明はくめいと航海薄明はくめいをまたぐ時間には、「ブルーモーメント」という深い青色の空が見られることもあるよ。
  • きれい!昼間の空よりも深い青色だね?どうして?
  • 昼間の空は、青以外の光も散乱さんらんしているから白っぽい青色に見えるんだ。
  • ブルーモーメントはちがうの?
  • ブルーモーメントは、地平線の下にかくれている太陽の光が空の高いところにあたっていて、そこでは散乱さんらんしやすい青い光くらいしか散乱さんらんしていないから、深い青色になるんだ。
  • すごくきれいな色。これは一瞬いっしゅんで終わっちゃうの?
  • こんな色が見えるのは5分か10分くらいかな。ブルーモーメントの色も時間とともに変化していくよ。
  • わぁ。ぼーっとしてたら見のがしちゃうね。

太陽の反対側に見える
ピンク色の空
「ビーナスベルト」とは?

ふしぎな薄明はくめいの空(4)ビーナスベルトと地球えい

  • 晴れた日の市民薄明はくめいの時間に、太陽と反対側の空を見ると、こんな空が見えることもあるよ。
  • ピンク色の空だ!
  • その上には青い空があって、ピンク色の部分が帯のように見えるから「ビーナスベルト」とよばれているよ。下に見えるい青は「地球のかげ
  • 地球のかげ?!
ビーナスベルトと地球えい
  • 太陽の光がとどいていない地平線に近い空に地球のかげができるんだ。これは遠くのほうの夜の色だよ。
  • へー!遠くの夜の空が見えるなんて、ワクワクするね。その上にピンク色の帯ができるのはどうして?
  • 朝焼け・夕焼けが赤くなるのと同じで、大気中をとおる太陽光の距離きょりが長いから、空に赤い光だけが残るんだ。
  • なんで赤い空にならないの?
  • 赤い空の後ろには地球のかげがあり、それより上の高い空では青い光が散乱さんらんして青っぽい色になっているから、まざってピンク色に見えるというわけなんだ。
  • 赤と青がまざるのは、さっきのピンク色やむらさき色の焼け空とにているね。ビーナスベルトの色には雲は関係ないの?
  • ビーナスベルトは、雲がないほうがはっきり色が分かれて見えやすいよ。太平洋側なら特に冬がねらい目。空が乾燥かんそうしていて水蒸気すいじょうきが少なく、雲が出にくいから。でも季節を問わず、晴れている日に見通しの良いところならどの地域ちいきでも見えるよ。
  • こんなふしぎな空が見られるなんて、知らなかったな。
  • 薄明はくめいはほんのひとときの魔法まほうのような時間だからね。たまにはゆっくり空を見上げて、ふしぎな色の空を楽しんでみてね。
荒木さんからのメッセージ
  • 同じ薄明はくめいの空でも、その日の雲や大気の状態じょうたいによって、びみょうに見え方が変わるよ。一期一会いちごいちえの空の色を楽しんでね。晴れていれば、日の出前と日の入り後の1日2回出会えるよ。
まとめ
  • 日の出前や日の入り後の、空がうっすら明るい時間を「薄明はくめい」という。
  • 晴れた日の薄明はくめいの時間には「焼け空」「ブルーモーメント」「ビーナスベルトと地球えい」などの美しい空が見られる。
  • 太陽の光がいろいろな散乱さんらんのしかたをすることで、ふしぎな色の空が生まれる。

Profile

荒木健太郎

荒木健太郎あらきけんたろう

雲研究者

気象庁気象研究所所属。博士(学術)。防災・減災のために、豪雨・豪雪・竜巻などによる気象災害をもたらす雲のしくみ、雲の物理学の研究に取り組んでいる。著書に『雲を愛する技術』(光文社新書)、『世界でいちばん素敵な雲の教室』(三才ブックス)、『せきらんうんのいっしょう』『ろっかのきせつ』(いずれもジャムハウス)など、監修に映画『天気の子』(新海誠監督)、『天気と気象の教科書』(Newton別冊)、『気象のきほん』(Newtonライト)などがある。
詳細プロフィール
http://www.mri-jma.go.jp/Dep/fo/fo3/araki/
Xアカウント
https://twitter.com/arakencloud