「ふしぎ」を見に行こう

「ふしぎ」な生き物

海辺の青い光の
正体とは!?
「ヤコウチュウ」と
「ウミホタル」のふしぎ

夜の海にふしぎな青い光が見えることがあるよ。
これは一体なんだろう?
海辺の青い光の正体とは!?「ヤコウチュウ」と「ウミホタル」のふしぎ 海辺の青い光の正体とは!?「ヤコウチュウ」と「ウミホタル」のふしぎ

撮影:勢戸研二(山口県豊北町にて撮影)

探検たんけんメンバー

  • 隊員りりか
    ふしぎ探検隊たんけんたいが行くよ!
    隊員りりか
  • 大場 裕一先生
    この人に聞いたよ
    光る生きものにくわしい
    大場おおば 裕一ゆういち先生

夜の海にあらわれる、
天の川のような
青い光の正体は!?

  • 海ぞいに住んでいる友達が、夜に波打ちぎわでチカチカ光る、ふしぎな青い光を見たんだって。ニュースにもなったみたい。
  • それはきっとヤコウチュウのことだね。
  • ヤコウチュウっていう虫がいるの?
  • ヤコウチュウは「夜光虫」と書くけど虫ではないよ。プランクトンの一種で、大きさ1mmくらいの単細胞たんさいぼうの生きものなんだ。風船がふくらんだような形をしているよ。
「ヤコウチュウ」は海にただよう
小さな生きもの
  • 小さな生きものなんだね。
  • 小さいけれど、たまに大発生することがあって、それが波や船が通った刺激しげきでいっせいに光ると、こんなきれいな光景が見られるんだ。
波打ちぎわで青く光る
「ヤコウチュウ」

撮影:勢戸研二(山口県豊北町にて撮影)

  • 天の川みたいできれい! どうしてこんな明るい光を出せるの?
  • 体の中に、「ルシフェリン」とよばれる発光するもとの物質ぶっしつと、「ルシフェラーゼ」とよばれる発光を助ける酵素こうそをもっているんだ。このルシフェラーゼによって、ルシフェリンが酸化さんかして光が出るよ。
発光のしくみ

「ルシフェリン」「ルシフェラーゼ」は総称そうしょう。ヤコウチュウやウミホタルはルシフェラーゼによるルシフェリンの酸化反応さんかはんのうで光るが、使われる物質ぶっしつは生物群ごとにことなる。

  • 光っているところを見てみたいな。
  • 大発生は予測よそくしづらいから出会えたらラッキーだけど、小さな光ならいつでも見られるよ。りのしかけを投げ入れた刺激しげきでも光るから、夜釣よづりをする人ならよく見ているはず。
  • そうなんだ? どこの海にもいるの?
  • ヤコウチュウは日本全国の海にいるよ。一年中いるけど特に夏に多くて、波のおだやかな海によくいるんだ。関東だとの島や鎌倉かまくらでの大発生がよく話題になるけど、あちこちで発生しているよ。
  • いつか見られるといいな

にているけどちがう!?
「ヤコウチュウ」と
「ウミホタル」

  • 波打ちぎわで青くチカチカ光るものが見えたら「ヤコウチュウ」でほぼ間違いないけれど、それを「ウミホタル」だとかんちがいしている人も多いんだ。
  • ウミホタル? 海にもホタルがいるの?
  • ウミホタルは浅い海にすむ、体長3mmくらいの小さな甲殻こうかくの生きものなんだ。ふだんはすなの中にかくれていて、夜にエサのにおいをかぎつけてすなからおよぎ出てくるよ。
「ウミホタル」は浅い海にすむ
小さな甲殻こうかく

撮影:小野寺健一

  • 目が大きくてかわいいね。どんなものを食べているの?
  • 海ではよく死んだ魚を食べているよ。ウミホタルは肉食で、ぼくたちも採集さいしゅうするときはいろいろな肉をエサにしておびきよせているけれど、生のぶたレバーを使うと一番よく集まるんだ。
  • ホルモンが好きなんだ!? ツウだね。
  • ウミホタルは光る生きものの中でも、特に光が強いんだ。口からルシフェリンルシフェラーゼをはき出して、その2つが海水中の酸素さんそ反応はんのうしてボワンと青く光るよ。
口から青い光をはき出す
「ウミホタル」

撮影:小野寺健一

  • きれいな色! でも、光ると目立っちゃうよね? なんのために光るの?
  • いろいろな説があるけど主には、ハゼのようなてきの魚におそわれたときに、光っておどかすためと考えられているよ。
  • てきおどろいているあいだにげるんだね。
  • ほかにも、オスとメスのコミュニケーションオス同士どうしのなわばりの主張しゅちょうという説もあるよ。あと、みんなでエサに群がっているときに、まちがえて仲間をかじってしまい、かじられたウミホタルが光ることもあるんだ。
  • それはいたそうだね。ウミホタルも一年中見ることができる?
  • うん。ヤコウチュウと同じで波のおだやかな海に一年中いて、特に夏に多いけど、海を見ていても1〜2ひきがボワンと光るくらいだから、採集さいしゅうして観察すると明るい光を見ることができるよ。
  • おもしろそう!
  • もうひとつ、砂浜すなはまにはイソミミズという光るミミズがいて、これも採集さいしゅうして光らせてみるとおもしろいよ。
  • 砂浜すなはまにミミズが?
  • ミミズは塩が苦手だから、ふつうは海の近くにはいないよね。だから砂浜すなはまでミミズを見つけたら、それはほぼ100%イソミミズといえるよ。強い刺激しげきが加わると、体から黄緑色に光る粘液ねんえきを出すんだ。
砂浜すなはまにいる
光るミミズ「イソミミズ」
  • てきをおどかすために光るのかな?
  • イソミミズを天敵てんてきのハサミムシと同じケースに入れたら、ハサミムシにかじられたところから光る粘液ねんえきが出て、ハサミムシはその粘液ねんえきをすごくいやがったんだ。「光るもの=いやなもの」という記憶きおくを相手にすりこむためなのかもしれないね。
  • 警告けいこくしているんだね。
  • まだわからないことも多いけどね。ヤコウチュウだって、光の役割やくわりはよくわかっていないんだ。もしかして特に理由はないのかもしれないし。
  • えっ? 特に理由もなく光るなんてことあるの!?
  • 生きものはみんな代謝たいしゃといって、生命を維持いじするためのいろいろな活動が体内で行われているけど、その反応はんのうたまたま光が出ているだけなのかもしれないんだ。その光が有利でも不利でもなければ、光に特に意味はないこともありうるよ。
  • でも、光るからには何か意味があるはずって考えちゃうよね。
  • そうだね。光るってすごい能力のうりょくのように思えるからね。でも光る生きものにとって光ることは、たいしてエネルギーも使わないし、それほどむずかしいことではないんだ。
  • たしかに、自分が光れないから「すごい!」「どうして?」って思っちゃうのかも。
  • 神話やアニメでも、えらい人や強い人が光っていることがあるよね。光る生きものもふしぎだけど、光ることに異常いじょうなほどあこがれをいだいてしまう人間の心理もふしぎなものだよね。
  • ふしぎだね。宇宙人うちゅうじんも光っているイメージがあるな。自分も光りたいっていう願望があるのかな。
人はなぜ光ることを
すごいことだと思うのか……
  • 太古から人は暗やみをおそれ、光を求めて生きてきたことにも関係しているのかもしれないね。でも人間もうっすら光っているんだよ。
  • えっ! そうなの!?
  • バイオフォトンといって生きものはみんな、代謝たいしゃ反応はんのう弱い光を出しているんだ。目には見えないレベルの光だけどね。
  • 見えないのか〜。でも、たしかに光にあこがれるのは人間の本能ほんのうなのかも。光る生きものがいるって聞けばさがしに行きたくなるし、「なんで光るの?」って考えちゃう。
  • その気持ちは大事。科学はきっとそんなふうに始まったものだからね。ウミホタルやイソミミズなら採集さいしゅうしやすいし、持ち帰って観察できるから、ぜひやってみてね。

海辺の光る生きものを
採集さいしゅうしてみよう

ウミホタルを採集さいしゅうしてみよう

※夜の海辺に行くときは懐中かいちゅう電灯を持って行き、気をつけて歩こう。かならず大人といっしょに行こう。

●ねらい目の場所

ウミホタルは本州から沖縄までの浅い海にいる。港など外海に面していない波のおだやかな場所がよい。河口かこうに近くないほうがよい。砂浜すなはま隣接りんせつした防波堤ぼうはてい桟橋さんばしがねらい目。夜行性やこうせいなので採集さいしゅうは暗くなってから。夜20〜21時くらいがよい。一年中いるが冬は少ない。

●用意するもの

  • プラスチックのフタが付いたガラスびん(インスタントコーヒーの空きびんなど)
  • 長さ10mくらいのビニールひも
  • エサ(レバー、魚肉ソーセージ、ちくわなど)
  • 目の細かいあみ(金魚あみなど)
  • 懐中かいちゅう電灯
  • バケツ

採集さいしゅうの仕方

  1. ① ガラスびんのフタに直径5mm〜1cmくらいのあなをたくさん開け、ビニールひもをフタにつける。
  2. ② 日がくれて暗くなったころに、エサを入れたびんを海に投げ入れる。遠くに投げる必要はないけど、必ず底までしずめること。
  3. ③ 10〜30分たったら、びんを引き上げて、ウミホタルがとれているか確認かくにんする。とれていればエサに食いついていたり、およぎ回っている様子が見られる。何回かやってとれなかったら、別の場所に移動いどうしよう。
  4. ④ ウミホタルがとれたら、フタをめたままびんをさかさにして、バケツにウミホタルを出す。あかりを消して暗くすると、青く光るのを見ることができる。持ち帰るなら目の細かいあみですくうとよい。

うのはすこしむずかしいけれど、とったウミホタルを天日干てんぴぼしで乾燥かんそうさせて保存ほぞんすると、何年かたった後でも、水をかけると明るく光るよ。

発光する乾燥かんそうウミホタル

撮影:大場裕一

イソミミズを採集さいしゅうしてみよう

※イソミミズにはどくはないので、さわっても平気だけど、観察が終わったら手をあらおう。
砂浜すなはまったあなは、だれかがつまずかないようにめておこう。

●ねらい目の場所

体長10cmくらいで基本的きほんてきに赤色。本州から沖縄までの砂浜すなはまにいる。すなの細かい砂浜すなはまに多く、河口かこうに近くないほうがよい。一年中いるが冬の本州は少ない。
波打ちぎわに打ち上げられた乾燥かんそうした海藻かいそうの下がねらい目。海藻かいそうのすぐ下か、少しったところに見つかる。場所によって見つかる数はちがう。採集さいしゅうは昼間に行う。

●用意するもの

  • スコップ
  • 飼育しいくケース

採集さいしゅうの仕方

すなごとケースに入れて持ち帰る。強い刺激しげきをあたえると黄緑色に光るえきを出し、数秒間ほど光が続く。

ねりからしを水にとかしたものや、飽和ほうわ食塩水(水にこれ以上とけないくらいまで食塩をとかしたもの)につけてみる。
水であらえばまた元気になる。

う場合はすなといっしょにケースに入れ、エサ(乾燥かんそうワカメや生ワカメ)をあたえよう。

大場先生からのメッセージ
  • 光る生きものは意外と身近にいるよ。どんなところにすんでいて、どういうときに光るのか、自分でさがして、見つけて、たしかめてみることこそが科学。さあ、さがしに出かけよう。
まとめ
  • 「ヤコウチュウ」は小さなプランクトン。波打ちぎわで青くチカチカ光る。
  • 「ウミホタル」は浅い海にすむ小さな甲殻こうかく類。口からはき出したえきが青く光る。
  • 「イソミミズ」は砂浜すなはまにすむミミズ。黄緑色に光るえきを出す。

Profile

大場 裕一

大場おおば 裕一ゆういち

中部大学 応用生物学部 教授

総合研究大学院大学大学院生命科学研究科修了。博士(理学)。発光生物学を専門とし、発光生物の分類から、分布、発光メカニズム、生態、進化まであらゆる側面から研究している。著書に『ホタルの光は、なぞだらけ』(くもん出版)や『光るいきもの きのこ』『光るいきもの 海のいきもの』『光るいきもの 陸のいきもの』(くもん出版)など。