「ふしぎ」を見に行こう

「ふしぎ」な景色

棚田たなだは日本のピラミッド?
命をつないできた
田んぼのひみつ

山の斜面にだんだんにつくられた「棚田たなだ」は、日本に残る美しい風景のひとつ。
実はすごい機能きのうや歴史秘話ひわがかくされているらしいよ。
棚田は日本のピラミッド? 命をつないできた田んぼのひみつ
  • 棚田たなだを見に行くときは、地域ちいきの方に迷惑めいわくをかけないよう、マナーを守りましょう。
    あぶない場所へは近づかないようにしましょう。

探検たんけんメンバー

  • 隊員はると
    ふしぎ探検隊たんけんたいが行くよ!
    隊員はると
  • 石井 里津子さん
    この人に聞いたよ
    棚田たなだにくわしい
    石井いしい 里津子りつこさん

棚田たなだのナゾ
〜なぜ急斜面しゃめんに田んぼが?〜

  • 棚田たなだってどんな田んぼなの?
  • 山の斜面しゃめんなどにつくられた田んぼのこと。「段々畑だんだんばたけ」とにているけど、田んぼは水をためないといけないから、階段かいだんのように一段一段いちだんいちだん が水平になっているのが特徴とくちょう千枚田せんまいだともよばれるよ。
棚田たなだ千枚田せんまいだ)は斜面しゃめん
だんだんにつくられた田んぼ

丸山千枚田せんまいだ(三重県熊野市)

  • わぁ! ほんとに千まいぐらいありそう!
  • 棚田たなだは上の田んぼから下の田んぼへ水を落としていくから、水のいきおいをゆるめるために、階段かいだんおどり場のような役目をする田んぼもつくってある。だから、イネが3かぶ しかうえられていないような小さな田んぼもあるのよ。
  • へー! 棚田たなだって昔の人がつくったの? いつから日本にあるの?
  • 規模きぼの小さい棚田たなだは古代からあったんじゃないかな。棚田たなだという言葉が古文書に登場するのは14世紀だけど、奈良なら時代にまとめられた『万葉集まんようしゅう 』には、棚田たなだ の昔のよび名である「山田」という言葉が出てくるよ。
  • 山の田んぼだから「山田」なんだね。
  • 「山奥田」「梯子田はしごだとよばれていたことも。海沿いの斜面しゃめんにつくられた棚田たなだも美しいよ。棚田たなだ開拓 かいたく は、中世の豪族ごうぞく財力ざいりょくをつけたい戦国時代の武将ぶしょうたちによって進められ、さらに人口がふえて技術ぎじゅつも進んだ江戸えど時代には多くの棚田たなだ がひらかれたよ。
日本の棚田たなだは海のすぐそばの
斜面しゃめんにもつくられている!

浜野浦はまのうら棚田たなだ(佐賀県玄海町)

  • でも、どうして急な斜面しゃめんに田んぼをつくったの? 大変そうだし、1まいの田んぼからとれるお米も少なそう。
  • 昔の人も最初は、水を取りやすい平野部を中心に、田んぼをつくっていたんだけど、人口がふえるにつれ土地をもとめて、山の上へ上へと開田かいでんを進めていったんだよね。
  • そっか。日本は山が多いもんね。毎日の農作業は大変そうだけど……。
  • 食べものがないと生きていけなかったからね。それに、かつてお米は貴重きちょう財源ざいげんだったから、食べものと財源ざいげんを生み出す田んぼは、つくれるものならどんどんつくりたかったのよ。
  • 年貢米ねんぐまいをおさめるのも大変だったんだろうなぁ。
  • 少しでも家族や地域ちいきの人が食べられるお米をふやそうと、隠し田かくしだ隠田おんでん)」といって、役人に見つからないよう、山のずっとおくにつくられた棚田たなだ もあるよ。
  • うわぁ、スリリングだね!
  • それぐらい昔は生きていくのに必死だった。子や孫を食べさせて、次の世代へ命をつないでいくために、大変な重労働を代々積み重ねてきた。自分だけのためじゃなくてね。わたしはそこが棚田たなだ魅力みりょくだと思うんだ。
  • 棚田たなだ農民のあせなみだ結晶けっしょうでもあるんだね。とうといなぁ……!
  • 棚田たなだを見て、万里ばんり長城ちょうじょうにならぶ「大遺産いさんだと言ったり、棚田たなだ は日本のピラミッドだ」と言ったり、たがやして天にいたる」という言葉を残した人たちもいるよ。
  • ぼくもこの目でたしかめてみたいな。
いろいろな棚田たなだ

石積みの棚田たなだ

法面のりめんを石で積んだ棚田たなだ石垣いしがきが日本一高いのは佐賀県唐津市「蕨野わらびの棚田たなだ」で8.5mもある!

土坡どは棚田たなだ

法面のりめんを土で固めた棚田たなだ。写真は「八畝ようね棚田たなだ」(高知県大豊町)。

水の取り方もいろいろ

川の上流から

ため池から

雨水などから

遠くの川の上流から「長い水路」をつくって水を取っている棚田たなだ、上のほうに「ため池」をつくって水源すいげんにした棚田たなだ、「天水てんすい」といって雨水(雪どけ水)などをたよりにしている棚田 たなだ などがある。

棚田たなだのチカラ
棚田たなだは日本の守り神?!〜

  • 棚田たなだは美しいだけじゃなく、いろんな役割やくわりもはたしているの。たとえば最近、大雨の被害ひがい報道ほうどうをよく見ると思うけど、棚田たなだ には洪水こうずい を調整する機能きのうもあるよ。
  • そうなの? 棚田たなだがどうして?
  • 水田は「小さなダム」といわれるように、雨水をためる力が大きく、大雨がふったときに川のはんらんをふせいだり、地すべりや土壌どじょうの流出をふせ いだりする役目をになっているのよ。
棚田たなだは国土を守っている

棚田たなだがある場合

棚田たなだが荒れた場合

棚田たなだは小さなダムのつらなり

棚田たなだがあると雨水はゆっくり地下に浸透しんとうする。棚田たなだが荒れると雨水や土砂どしゃが川や平野部に急激きゅうげきに流れこんでしまう。

  • 棚田たなだすごい!
  • 棚田たなだはいろんな生きものの命も守りはぐくんでいるのよ。
  • どんな生きものがいるの?
  • 地域ちいきによってさまざまだけど、たとえば、タガメ、ゲンゴロウ、コオイムシ、ミズカマキリ、トンボ(ヤゴ)、ホタルの幼虫ようちゅうなど水生昆虫こんちゅう がいろいろ。カエルやアカハライモリ、サンショウウオなどの両生類や、カメなどのは虫類もいるよ。
  • へー! さがしてみたいな。
  • ノウサギ、キツネ、モズ、サシバ、オオタカなど棚田たなだのまわりの動植物をエサにする動物もいるよ。森や林も近いから、いろいろな植物も楽しめるね。
  • 生きもののオアシスだね。
  • 野生のトキが最後に選んだ場所は棚田たなだだったといわれるよ。新潟県の佐渡島の標高250mにある棚田たなだ周辺に、日本最後の野生のトキがねぐらをつくって生息していたからね。
日本最後の野生のトキが
すごしたという片野尾かたのお棚田たなだ

画像提供:一般社団法人佐渡観光交流機構

  • うぅ。せつないな。楽しくくらせたかな。
  • 生きものはおたがいが関わり合うことで生きていけるから、棚田たなだのようにいろいろな生きものがくらせる場所はとても貴重きちょう。まわりに山や森、川、池、あぜ、石垣いしがき 、民家もあって、田んぼだけじゃない世界が広がっているのがポイントよ。
  • いいなぁ。景色が目にうかぶね。
  • 山の谷川やため池では魚が「パシャン」とはねる音、「ゲロゲロ」「チチチチチ…」と鳴くカエルや鳥の声、風で草やイネが「ザワザワ」「シャーシャー」とゆれる音……いろいろな音に耳をすませてみるのもおもしろいよ。
  • わぁ、今にも聞こえてきそう。
  • 棚田たなだは“日本”を体験できる場所でもあるのよ。田植えや収穫しゅうかく、農村の手仕事を体験できたり、伝統料理をつくったり。
  • へー! 楽しそう!
  • コンサートが開かれたり、あぜにキャンドルなどをならべたあかりのイベントが開かれることも。さらに、棚田たなだ結婚けっこん式をあげたり、キャンプをしたり、世界的なアート作品が展示てんじされることもあるのよ。
ライトアップされた棚田たなだ

大山千枚田せんまいだ(千葉県鴨川市)

  • 棚田たなだ舞台ぶたいにいろんなことができるんだね。
  • 古くからの文化を伝える場であり、新しい文化が発信される場でもある。そのためには、棚田たなだが今もお米など生産の場であることも大切。山は夏の昼夜の寒暖かんだん差が大きく、栄養をふくんだ水が流れているから、棚田たなだ でつくられたお米はおいしい評判 ひょうばんよ。
  • へー! 食べてみたいなぁ。ところで、日本以外の国にも棚田たなだはあるの?
  • アジアの国などでも見られるよ。中国の雲南省の紅河こうがハニ棚田たなだは、およそ1300年かけてつくられた世界最大の棚田群たなだぐんフィリピン・コルディリェーラの棚田群たなだぐん は「天へのぼる階段かいだん」といわれるよ。インドネシアのバリ島のジャティルイ・ライステラスも有名。いずれも世界遺産いさんに登録されているのよ。
世界最大の棚田たなだ紅河こうがハニ棚田たなだ
  • すごーい! 世界の棚田も見てみたいけど、日本のすごい棚田たなだのことも知りたいな。石井さんのおすすめの棚田たなだを教えて!
  • わたしは日本のすばらしい棚田たなだをたくさん見てきたから、選ぶのは本当にむずかしい……! でも、その中でも特に有名な棚田たなだを中心に、次の章で紹介しょうかいするね。農林水産省が選んだ「日本の棚田たなだ 百選」というのもあるよ。実際じっさいは134か所だけどね。
  • たくさんあるんだね!
  • 労力がかかる棚田たなだたがやす人はどんどんってきているけれど、なんとか存続そんぞくさせようといろんな人ががんばっているの。みんなもぜひ棚田たなだの新しい魅力 みりょく を発見してほしいな。

日本の美しい棚田たなだ

日本には美しい棚田たなだがいっぱい!
いろいろな棚田たなだを調べてみよう。

  • 四ヶ村しかむら棚田たなだ(山形県大蔵村)

    四ヶ村の棚田(山形県大蔵村) 画像提供:山形県大蔵村

    四ヶ村しかむら棚田たなだ(山形県大蔵村)

    秋は対岸の紅葉こうようも美しく、夏は「ほたる火コンサート」が開催かいさいされる。対岸のがけが天然のすばらしい音響効果おんきょうこうかをもたらし、ゆらぐあかりとともに楽しめる。

    関連サイト:
    「山形県大蔵村」公式サイト
  • 白米しろよね千枚田せんまいだ(石川県輪島市)

    白米千枚田(石川県輪島市) 画像提供:輪島市

    白米しろよね千枚田せんまいだ(石川県輪島市)

    波打ちぎわまでせまり来る1004まいの田んぼの光景は壮観そうかん。秋から春先にはイルミネーションイベントも。世界農業遺産いさんにも認定にんていされた「能登のと の里山里海」を代表する棚田たなだ

    関連サイト:
    「白米千枚田」公式サイト
  • 姨捨おばすて棚田たなだ(長野県千曲市)

    姨捨の棚田(長野県千曲市) 画像提供:信州千曲観光局

    姨捨おばすて棚田たなだ(長野県千曲市)

    春先の水がられた田んぼ一まいまいうつった月が美しく、「田毎たごとの月」として江戸えど時代から知られる。日本ではじめて田んぼが名勝 めいしょう 指定された場所。

    関連サイト:
    「信州千曲観光局」公式サイト
  • あらぎ島(和歌山県有田川町)

    あらぎ島(和歌山県有田川町) 画像提供:有田川町

    あらぎ島(和歌山県有田川町)

    有田川が蛇行だこうしてできた扇形おうぎがた河岸段丘かがんだんきゅうにつくられた棚田たなだ。その歴史は17世紀にさかのぼる。毎年9月6日には約1700本の竹灯籠とうろうを使ったキャンドルライトのもよお しも。

    関連サイト:
    「有田川町」公式サイト
  • 奥出雲おくいずも町の棚田たなだ(島根県奥出雲町)

    奥出雲町の棚田(島根県奥出雲町) 画像提供:奥出雲町教育委員会

    奥出雲おくいずも町の棚田たなだ(島根県奥出雲町)

    砂鉄さてつをとるため、数百年以上の時間をかけ、人力で山をけずり、採取跡地さいしゅあとち棚田たなだ再生さいせいしてできあがった景観。伝統でんとう的な「たたら製鉄せいてつ 」が現在 げんざい も世界で唯一ゆいいつ残る。

    関連サイト:
    「奥出雲町観光協会」公式サイト
  • 宇津うつ棚田たなだ(山口県萩市見島みしま

    宇津の棚田(山口県萩市見島) 画像提供:山口県農林水産部農村整備課

    宇津うつ棚田たなだ(山口県萩市見島みしま

    日本海にかぶ国境離島こっきょうりとう見島みしま。古代から中世にかけての条里区画じょうりくかくが今も残る八町八反の田んぼと、「段飾だんかざりの田んぼ」とよばれる棚田たなだ の景色が海にりそう。

    関連サイト:
    「山口県」公式サイト
  • 樫原かしはら棚田たなだ(徳島県上勝町)

    樫原の棚田(徳島県上勝町) 画像提供:上勝町

    樫原かしはら棚田たなだ(徳島県上勝町)

    けわしい山道を進んだ先の、ぽっかり開けた空間にあらわれる景色。標高500〜700mと高い山の急斜面しゃめんにひらかれており、山のおく棚田たなだにも注目したい。

    関連サイト:
    「上勝町」公式サイト
  • 広内ひろうち上原うえばる棚田たなだ(福岡県八女市 *旧星野村)

    広内・上原の棚田(福岡県八女市 *旧星野村) 画像提供:八女市星野村(2009年に撮影)

    広内ひろうち上原うえばる棚田たなだ(福岡県八女市 *旧星野村)

    みごとな石積み棚田たなだ点在てんざいする美しい村。広内地区では、豪雨災害ごううさいがいにあい、耕作こうさく面積もったが、石積みが天に向かって階段状かいだんじょう にのぼっていく光景が展開てんかい

    関連サイト:
    「八女市」公式サイト
  • 春日かすが棚田たなだ(長崎県平戸市)

    春日の棚田(長崎県平戸市) 画像提供:平戸市

    春日かすが棚田たなだ(長崎県平戸市)

    平戸島の小さな棚田たなだ集落。世界遺産いさん長崎ながさきと天草地方の潜伏せんぷくキリシタン関連遺産いさん」の構成資産こうせいしさん潜伏せんぷく キリシタンをささえた棚田たなだとして世界からも評価ひょうかされた。

    関連サイト:
    「平戸観光協会」公式サイト
石井さんからのメッセージ
  • 今では人々のいこいの場にもなった棚田たなだ。苦労してきずき上げてきた先人の「みんながこの地で生きていけますように」といういのりが聞こえてくるような、ふしぎな場所。ぜひいつか、見て、聞いて、歩いて、食べたりして、棚田 たなだ を体感してみてね。
まとめ
  • 棚田たなだとは、山の斜面しゃめんなどにだんだんにつくられた田んぼのこと。
  • 棚田たなだの貯水力が川のはんらんや地すべりなどをふせ役割やくわりをもつ。
  • 棚田たなだは生きもののオアシスであり、人々が集う場としても生かされている。

Profile

石井 里津子

石井 里津子いしい りつこ

ノンフィクションライター 棚田学会所属

全国の農村を訪ね歩き、地域文化・農業についての取材執筆を行う。棚田保全への関心・知見も深く、全国棚田(千枚田)連絡協議会機関誌『棚田ライステラス』の編集長も20年務めた。著書に『棚田はエライ』(農文協)、『千年の田んぼ』(旬報社)などがある。
棚田学会
http://tanadagakkai.com/