「ふしぎ」を見に行こう
探検メンバー紹介
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- ふしぎ探検隊が行くよ!
- 隊員りりか
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- この人に聞いたよ。
- 未踏の洞窟を追い求める
洞窟探検家
吉田 勝次さん
ふしぎな洞窟は
どうやってできた?
- 吉田さんは世界のいろいろな洞窟を探検しているんだね。
- そう。なかでも、ぼくが追い求めているのは未踏の洞窟なんだ。
- 未踏?
- 人類がまだだれも足をふみ入れてないということ。地球上で未踏の地というと、深海か地下の世界くらいにしか残されていないんだけど、洞窟なら自分の力で行けるからね。
- 究極の秘境なんだね。でも、こわい思いをすることもたくさんあるでしょ?
- もちろんあるよ。でもぼくは、若いころから武道、登山、ロッククライミング、スキューバダイビング、会社経営……いろいろとやってきたけど、いつも何か足りない思いがあったんだ。
- そんなときに洞窟に出会ったの?
- そう。28歳のときだった。洞窟のおもしろさは、先がどうなっているかわからない未知の世界であること。せまいところをくぐり抜けて広い空間に出たときの感動。はじめてそれを体験したとき、パーン! と明るくなったんだ。
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洞窟はワクワクする未知の世界
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- 洞窟の中はまっくらだよね?
- そうだね。まあ、心の中の話ね。「これだ!」と思ったんだ。さらに先輩に「自分で見つけた洞窟ほどおもしろいものはない」と聞いて、もう止まらなくなっちゃって。その気持ちが今もずっと続いているんだ。
- 聞いているだけでワクワクする! こわい場所じゃなければ行ってみたいな。
- もちろん未踏の洞窟じゃなくても洞窟は楽しいし、観光洞窟なら安心して行けるよ。その洞窟がどうやってできたかを知ったうえで見に行くと、さらに楽しいよ。
- 洞窟ってどうやってできるの?
- いろいろなでき方があるよ。ひとつは、岩石が雨水などにとかされてできた洞窟。石灰岩でできた「石灰洞」が代表的だよ。
- 雨水でとかされるんだ?
- 雨は空気中の二酸化炭素を吸収するから、もともと少し酸性なんだけど、地面にふった雨が地中にしみこんでくるときに、土の中にいる微生物がはき出した二酸化炭素を吸収したりして、さらに酸性になるんだ。その水が岩石のひび割れに入って岩をとかして空洞ができるんだ。
- そっか。酸はいろいろなものをとかすもんね!
- そう。石灰岩は炭酸カルシウムを50%以上ふくむ岩石のことで、炭酸カルシウムは酸にとけやすいんだ。これ、もとは何かというと、生きものの死がいでできているんだ。
- 死がい!?
- そう。貝やプランクトン、サンゴのように、体の一部が炭酸カルシウムでできた生きものの死がいが海につもって石灰岩の層ができて、それが大昔に隆起したりして地上に引き上げられたものなんだ。
- 自分たちの体の一部が岩石になって残るなんて……ロマンを感じるね。
- その岩石の層が、気が遠くなるほど長い年月をかけてゆっくりとかされて、中にできた空間が大きくなったのが石灰洞なんだ。水の流れがあってできるから高低差があり、長さは何km、何十km、何百kmにわたるものもあるよ。
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岩石が雨水などに
とかされてできる「石灰洞」
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石灰岩をとかして石灰をふくんだ水はアルカリ性になる。洞窟内でしずくとなってたれる瞬間に二酸化炭素が抜けて結晶化して「つらら石」に、しずくが下に落ちて結晶化して「石筍」になる。これらは「鍾乳石」とよばれ、鍾乳石がある洞窟は「鍾乳洞」とよばれる。
- 地面の下にこんな世界が広がっているなんて!
- 洞窟の中は太陽の光がとどかないから、1年中、その地域の年間平均気温くらいに保たれるよ。東京の奥多摩のあたりにある洞窟なら12℃くらいかな。
- わぁ。夏でもすずしいね!
- さむいくらいだから上着も持っていったほうがいいよ。さて、洞窟のでき方の話にもどると、ほかには、岩石のひび割れに波や風などがあたって削られてできた洞窟もあるよ。
- 波? 海にできるの?
- 海や川、湖にできるよ。よく見られるのは「海食洞」。波が勢いよくとどく範囲だから奥行きは200〜300mくらいにとどまるけど、広くて大きいのが特徴だよ。
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岩石が波などに削られてできる
「海食洞」
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- 波の力でこんな穴があくんだ!
- 日本は海にかこまれているから、いろいろな場所で、いろいろな形の海食洞を見ることができるよ。あと、おもしろい洞窟といえば火山洞窟もはずせないよ。
- 火山の洞窟?
- 火山が噴火して流れ出た溶岩が固まった中にできた「溶岩洞」や、流れ出た溶岩が木々をまきこんで冷え固まって、木が燃えたあとが空洞になってできる「溶岩樹型」などがあるよ。
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火山の溶岩の流れでできる
「溶岩洞」
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噴火で流れ出した溶岩の外側は、空気にふれて先に冷え固まってトンネル状に。その中を熱々の溶岩が流れ、溶岩の中に閉じこめられたガスの圧力が高まってトンネルの天井を持ち上げて空洞ができたり、流れ出たあとに空洞ができたりして、最終的に冷え固まって洞窟になる。やわらかい溶岩が流れる火山にできやすい。
- 溶岩が流れたあとが見えるんだね。噴火した当時のことを想像しながら見るとおもしろそう!
- 火山洞窟はそんな楽しみ方ができるのもいいところだね。日本では富士山の噴火でできた「鳴沢氷穴」や「富岳風穴」が有名だよ。
- 富士山が噴火?
- 富士山はここ何百年かは噴火していないけど、これまで何度か噴火しているんだ。「鳴沢氷穴」や「富岳風穴」はおよそ1200年前、平安時代の噴火でできたもので、夏でも氷が見られるのがおもしろいよ。
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溶岩洞の中には夏でも氷が!?
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鳴沢氷穴
画像提供:富士観光興業
- どうして夏に氷があるの?!
- 洞窟のつくり的に夏でも中がすずしいことはさっき話した通りだけど、溶岩の性質も関係しているんだ。溶岩ステーキって食べたことある?
- 富士山の溶岩で焼いたステーキ、食べたことある!
- 熱せられた溶岩の上にステーキがのっていて、ずっと熱々のまま食べられるよね。溶岩は熱を保つ効果が高いんだ。その反対に一度冷えると、冷え冷えに保つ効果も高いんだ。
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溶岩は熱々&冷え冷えに保つ
効果が高い
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- じゃあ、溶岩の洞窟の中はすごくさむいの?
- 鳴沢氷穴や富岳風穴は、1年を通して-1℃から3℃くらいだよ。冬の間に冷たい空気が洞窟に流れこんで溶岩が冷やされて、冬から春にかけて岩石の割れ目から雨水や雪どけ水が入ってくると、洞窟の中でこおってつららができるんだ。
- それが夏もとけずに残るんだ?
- 春から夏にかけては、すこしとけて下にたれて、氷筍というタケノコの形をした氷ができるよ。そして、とけきる前にまた冬がやってくるんだ。
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溶岩洞の中にできた
「つらら」と「氷筍」
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鳴沢氷穴
画像提供:富士観光興業
- 聞いているだけですずしくなってきたよ。氷がある洞窟だから「氷穴」っていうんだね。「風穴」は風がふくから?
- そう。石灰洞でも火山の洞窟でも、高低差があって、上のほうと下のほうに穴があいている洞窟は、洞窟の内外に1℃でも温度差があると、空気が動いて洞窟の中に風がふくんだ。
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洞窟に風がふくしくみ
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夏は上の穴から吸いこまれたあたたかい空気が、洞窟内で空調をかけられたように冷たくなって重くなり、下の穴から出ていく。出た分だけ、上の穴からまた空気が吸いこまれる。冬は反対に、下の穴から吸いこまれた冷たい空気が洞窟内であたたかくなって軽くなり、上の穴から出ていく。昼夜の寒暖差でも風の流れが逆転することがある。
- 冷たい空気は重たくて、あたたかい空気は軽いんだね。
- 気球が飛ばされるように、あたためられた空気はふくらんで軽くなるから上へいくんだ。反対に、冷やされた空気はちぢまって重くなるから下へいくよ。
- すずしいうえに、びゅんびゅん風を感じられるなんて、最高だね。
- 洞窟の内外の温度差が大きいほど風は強くなるよ。あと、せまいところほど風が強まるから、入口や洞窟内のせまいところを通るときは特に楽しいよ。こうした洞窟のことを日本では昔から「風穴(ふうけつ、かざあな)」とよんできたんだ。
- あつい夏にぴったりの場所だね。
探検家に聞く、
洞窟探検の心得と楽しみ方
- 探検家ってどんなおしごとなの? 冒険家とはちがうの?
- 探検と冒険はちがうよ。冒険は目的地が決まっていて、そこに到達する手段がむずかしくて命がけであるほど評価されるんだ。チャレンジする精神がたたえられるから、生死を問わない面もあるよ。
- そうなんだ! でもテレビで見たことがあるけど、洞窟探検もかなり命がけだよね?
- もちろん危険な目にもあうことも多いけれど、そこで見聞きしたことを発表するまでが探検なんだ。つまり、生きて帰ってくることが大前提。あぶないと思ったら引き返す勇気が探検家にはもとめられるよ。
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探検家のしごとは
世界を開拓すること
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あのコロンブスも探検家のひとり。探検家は世界を開拓する人でもある。
- 後々の人類の発展や研究に役立つものを持ち帰ることが、探検の大事な目的なんだね。
- とくに洞窟は、学問の世界と深いかかわりがあるんだ。洞窟って外界から切りはなされた特殊な空間だから、洞窟学をてっぺんに、生物学や古生物学、人類学や考古学、地質学や水文学など、いろいろな学問の研究の場になっているよ。
- 外界から切りはなされた世界か……。ファンタジー小説みたいでワクワクするね。
- 携帯電話もGPSも通じないから、自分の感覚にたよるしかない。文明社会で生きていると衰えがちな直感がとぎすまされるような、ふしぎな感覚をおぼえることもあるよ。
- 地球にまだそんな場所があるって思うだけでときめくよ。
- そこで独自に進化した生きものを見るのもおもしろいよ。洞窟はまっくらで、しめっていて、太陽の光や乾燥から体を守る必要がないから、すけすけでぐにゃぐにゃな生きものが多いんだ。
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洞窟は観察ポイントがいっぱい
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何億年も前からすがたを変えていない生きものや、大昔の生きものの化石にも会えるかも?!
- 時が止まったような世界なんだね。
- ライトアップされた観光洞窟では、ライトがあたっているところと、あたっていないところの対比もおもしろいよ。「あの先はどうなっているんだろう?」「ちがう世界があるのかな?」と想像がどんどんふくらんでいくんだ。
- 見えないからこそ想像を楽しめるんだね。
- そう。探検とは新しい世界へ入っていくことだから、想像からはじまるんだ。それと、しっかり調べてから行くと学んだことが腑に落ちたり、「想像とちがった!」というおどろきもあったりして、おもしろさが倍になるよ。
- わぁ。わたしも探検家になれるかな!? さっそく行きたい洞窟を調べてみるよ!
鍾乳洞については
こちらもチェック!
吉田さんからのメッセージ
- 自分の好きなことや得意なことをやろう。なぜなら、好きなことを軸に人とのつながりがふえて、世界が広がっていくから。そのために苦手なこともやったほうがいいと思ったらやろう。大事なのは「自分で考える」こと。好きなことを追求していけば、道は自然とひらけていくよ。
まとめ
- 洞窟は外界から切りはなされた異質な空間。想像を楽しめる場所。
- 洞窟をつくる岩石の種類や、洞窟のでき方によって、いろいろな洞窟がある。
- その洞窟のなりたちを学んだうえで観察すると、おもしろさが倍になる。
吉田 勝次
洞窟探検家