「ふしぎ」を見に行こう

「ふしぎ」な生き物

なぜわたる?なぜ道にまよわない?
わたり鳥」のナゾをとき明かそう

季節によって住む場所をかえる「わたり鳥」。
なぜ危険きけんも多いのに、わざわざ遠くへわたるんだろう? なぜ目的地へ正確せいかくにたどりつけるのかな?
なぜ渡る?なぜ道に迷わない?「渡り鳥」のナゾをとき明かそう
  • 山や池などに鳥を見に行くときは、かならず大人といっしょに行きましょう。
    きけんな場所には決して近づいてはいけません。

探検たんけんメンバー

  • 隊員はると
    ふしぎ探検隊たんけんたいが行くよ!
    隊員はると
  • 川上 和人さん
    この人に聞いたよ
    鳥類学者の
    川上かわかみ 和人かずとさん

わたり」はギャンブル?!
なのに、なぜわたる?

  • わたり鳥は毎年同じ季節にやってくるよね。ツバメを見ると「春が来たな〜」って思うよ。
  • そうだね。昔から日本人は、季節のわたり鳥を見て歌をよんだり、種まきをはじめたり、わたり鳥を生活や文化に取りこんできたんだ。
  • わたり鳥ってどこから来て、どこへ行くの?
  • わたり鳥は南北を移動いどうしているよ。北半球では、春夏は北で子育てし、秋冬は温かい南でごすんだ。春夏に南から日本へわたってくる鳥を「夏鳥」、秋冬に北から日本へわたってくる鳥を「冬鳥」というよ。
わたり鳥は南北を移動いどうする

  • ものすごい距離をわたるんだね。
  • 何千キロ・何万キロも飛ぶ種類もいるよ。目的地までほとんど飲まず食わずでわたる鳥もいるし、とちゅうで力つきたり、てきにおそわれて死んでしまうこともある。そういう点では、鳥にとってわたりはギャンブルのようなものでもあるんだ。
  • どうしてそうまでしてわたるの?
  • わたる一番の理由は食べ物のためと考えられているよ。
  • 日本にいれば食べ物にこまらないんじゃないの? ハトやスズメは一年中日本にいるよね。
  • ハトやスズメは冬でも見つけられる種子を食べるからね。でも、たとえばツバメは昆虫こんちゅうを食べるし、タカの仲間のサシバは昆虫こんちゅう・両生類・は虫類をよく食べる。それらの食べ物は日本の秋冬には少なくなるから、秋冬は南へわたるんだ。
  • 何を食べているかによるんだね。
  • そう。同じタカの仲間でも、一年中とれるネズミなどのほにゅう類や鳥を食べ物にしている鳥はわたらない種類もいるよ。
  • そっか。でも、日本で秋冬をごすカモやハクチョウは、どうして春夏にシベリアへもどるの? そのまま日本にいたらいいのに。
  • シベリアのような寒い地域ちいきでも、春夏になると、鳥の食べ物になる動物や植物がたくさん出てくるし、競争相手も少ないんだ。
  • 秋冬は南のほうが、春夏は北のほうが食べ物がとりやすいんだね。でも、一年中ほどよく食べ物がとれる場所に定住することはできないのかな?
  • 関東にいるメジロやウグイスはそうだよ。メジロやウグイスは昆虫こんちゅうや果実をよく食べるけど、関東では一年中食べ物がとれるからわたらないんだ。でも北海道にいるメジロやウグイスは冬になると食べ物が少なくなるから南へわたるよ。
  • 北海道にいるメジロやウグイスも関東に住んじゃえばいいのに。
  • そうすると少ない食べ物を取り合うことになって、効率こうりつが悪くなっちゃうんだ。
  • そっか。関東はもう定員いっぱいなんだね。
  • それに、春夏に北へわたって繁殖はんしょくするのは食べ物のためだけではなく、北のほうが天敵てんてきが少なくて、うまれたヒナが生き残りやすいというのも理由の1つだと考えられているよ。
  • いろいろな理由があるんだね。同じ種類の鳥でも、わたる鳥もいれば、わたらない鳥もいるって知らなかったな。
  • 種類で決まるのではなく、住んでいる地域ちいきに関係していることが多いね。他にもおもしろいのは、わたり鳥は「北にいる鳥ほど南へわたる場合がある」ということ。
北にいる鳥ほど
南へわたることがある?!
  • へー! 北にいる鳥ほど大変だね? どうしてそうなるの?
  • 南へ行くほど食べ物がふえるというのが、理由の1つと考えられるよ。赤道に近い地域ちいきほど太陽の光が強いから、植物がたくさん光合成ができて生長しやすいんだ。だから植物を食べる昆虫こんちゅうや、昆虫こんちゅうを食べる動物、果実など鳥の食べ物も多くなる。
  • じゃあ、みんな赤道の近くまでわたったらいいのに。
  • でもみんなが同じ場所にわたってしまうと、競争がはげしくなってしまって、そんをするかもしれないよね。
  • そっか。競争相手のことも考えないといけないんだったね。
  • それに、わたりの距離きょりは他にもいろいろな条件じょうけんで決まるんだ。たとえば、羽ばたいて飛ぶ鳥では、体重が重い鳥ほどわた距離きょりが短いことがわかっているんだ。重たい鳥にとっては長い距離きょり移動いどうするのはとても大変なんだろうね。
  • わたる苦労と生き残りやすさを天びんにかけた結果なんだね。
  • そう。わたりはものすごいエネルギーを使うし、リスクも高い。それでもわたるのは「そのほうがエネルギー効率こうりつがいいから」というのが今の有力な説なんだ。
わたったほうが
「エネルギー効率こうりつ」が
いいからわた
  • トータルでは得をするってこと?
  • うん。とどまっていれば少ない食べ物をライバルと取り合うことになるし、シベリアのような緯度いどの高い地域ちいきだと寒さで死んでしまうリスクも高くなる。
  • だったら大変でも、あたたかくて食べ物がたくさんある場所や安全な場所などにわたったほうが、トータルで得られるエネルギーが多いということなんだね。長距離きょりを移動できる鳥ならではの戦略せんりゃくだね。

わたり鳥」は
なぜ長距離きょりを飛べる?
なぜ道にまよわない?

わたり鳥のナゾ(1)なぜ長距離きょりを飛べる?

  • わたり鳥のなかで、もっとも長距離きょり移動いどうしている鳥は?
  • 一生でもっとも長距離きょり移動いどうしているといわれているのはキョクアジサシという鳥だといわれているよ。「キョク」は北極・南極の「極」のことだよ。
キョクアジサシ
  • え! それってまさか……
  • そう。北極けんと南極けんを行き来しているんだ。夏に北極で子育てし、冬には南極まで移動いどうするよ。
北極と南極を行き来する
  • 究極きゅうきょくすぎる〜! 移動距離いどうきょりはどれくらい?
  • 北極〜南極はストレートに行けば約2万キロだけど、風を使って効率こうりつよく飛ぼうとするから、長くて往復おうふくで約8万キロ飛ぶのもいるよ。かれらの寿命じゅみょうは30年をこえることもあるから、単純たんじゅんに毎年8万キロわたるとすれば一生に240万キロわたることに。
  • すごすぎてピンと来ないな……。
  • 一生で月まで3往復おうふくできるくらいの距離きょりだよ。
  • えぇ?! 月ってすごく遠いよね。そんなに飛んで体をこわさない?
  • 鳥の体はすごく機能きのう的にできているんだ。わたりのために内臓ないぞうの大きさまでかえることもあるんだよ。
  • 内臓ないぞうの大きさを?
  • たとえばハジロカイツブリでは、まずは長旅にそなえて栄養をたくわえないといけないから、胃や腸などの消化器官を大きくしていくことが知られているよ。
  • たくさん食べて太るのかな?
  • うん。その後、十分に太ったら、わたりの直前に消化器官を小さくしていくよ。わたる間は飲まず食わずになることが多いから、大きな消化器官はいらないんだ。
わたりのために
内臓ないぞうの大きさをかえる

ハジロカイツブリは、わたりの直前に消化器官のサイズが通常つうじょうの3分の1になるといわれている。

  • 太ったり、やせたり、自由自在なんだね。

わたり鳥のナゾ(2)なぜ長時間、
飛び続けられる?

  • わたり鳥のなかで、もっとも長く飛び続けられる鳥は?
  • ヨーロッパアマツバメという鳥は、約10カ月も地上におりず飛び続けた記録があるよ。
ヨーロッパアマツバメ
  • 10カ月もずっと?!
  • うん。ヨーロッパからアフリカへわたり、飛びながらまた北へ帰ってくるんだ。飛びながら食べ物や水をとり、子育てのときだけ断崖絶壁だんがいぜっぺきにつくった巣に入るよ。
  • どうしておりないの?
  • おりたらてきにねらわれやすいんだと思う。足がすごく短くて、歩いたり飛び立ったりするのがあまり上手じゃないんだ。
  • 飛ぶための体になっているんだね。でも10カ月もないで大丈夫だいじょうぶなの?
  • 実は鳥は、半球睡眠はんきゅうすいみんといって、半分ながら飛ぶことがあると考えられているんだ。
  • そんなことができるの?!
  • 半球睡眠はんきゅうすいみんはイルカやクジラもしていて、つばさを広げたまま飛ぶ滑空かっくう型の鳥なら、いろいろな種類が半球睡眠はんきゅうすいみんをしていてもおかしくないね。
  • 半分たまま、どうやって飛ぶんだろう?
  • グンカンドリという海鳥の実験結果からは、右脳うのうているときは左半身が脱力だつりょくしているので、左へゆっくり旋回せんかいし、左脳さのうているときは右に旋回せんかいし、それをくり返してゆっくり進むことがわかっているよ。
半球睡眠はんきゅうすいみん」で
半分ながら飛んでいる
  • ぼくも半分ている間に宿題が終わってたらいいのにな。でもゆっくりられないのも大変だな。
  • グンカンドリは、ている時間はそれほど長くはないこともわかっているけど、飛びながら両方ののうていることもあったんだ。
  • わぁ。器用だね!

わたり鳥のナゾ(3)なぜ道にまよわない?

  • わたり鳥の中には、毎年同じ木に帰ってくるくらい、目的地へかなり正確せいかくにたどりつく鳥もいるよ。
  • 鳥はどうやって方角や場所がわかるの?
  • おそらく段階だんかいによって、いろんな方法を使っているんだ。大まかに南や北へ向かいたいときは太陽や星座せいざの位置をたよりにしたり、地球の磁気じきを使っていると考えられるよ。
  • 磁気じき
  • 鳥は体内に方位磁針じしんを持っていて、方角がわかるんだ。
  • コンパス内蔵ないぞうなんだ! すごいね!
  • 風の影響えいきょうも受けているよ。効率こうりつよく飛べる風を見つけて飛ぶから、行きと帰りで経路けいろがちがう場合もあるんだ。
  • 感覚をフルに使っているんだね。
  • ある程度ていどのところまで行ったら地形の記憶きおくをたよりに飛び、最後は目で確認かくにんして目的地へたどりついていると考えられるよ。におい仲間の鳴き声をたよりしていることもあるよ。
わたり鳥は
いろいろな方法を使って
目的地へたどりつく
  • すごいね。ふしぎだなぁ。
  • でも、ぼくたちも道にまよったら、まずは遠くを見て方向をたしかめて、家に近づいてきたら記憶きおくをたよりに家にたどりつくよね。
  • そっか。人間も同じか。
  • 人間と同じことを鳥がやっているから、みんなおどろくんだ。
  • たしかに。人間のほうがすごいと勝手に思っていたかも。むしろ飛べる時点で鳥のほうがすごいのにね。
  • 鳥には人間には見えない紫外線しがいせんも見えるしね。でもわたり鳥にはまだナゾも多いんだ。たとえばキツツキの仲間のように、なぜかわたらない鳥が多いグループもいるし、かつてわたっていたのに今はわたらなくなった鳥もいる。
  • 何か理由があるのかなぁ。
  • おそらくね。わたり鳥の本格ほんかく的な調査ちょうさはまだまだ始まったばかり。そもそも人間が鳥の「わたり」を理解りかいできてきたのは、人類の長い歴史のなかでは最近のことなんだ。
  • そうなの?
  • 古代ギリシアの哲学てつがく者であるアリストテレスは、ツバメやヒバリは冬になると、木のうろやどろの中で冬眠とうみんすると考えていたらしいよ。
  • どろの中で?!
  • ほかにも中世ヨーロッパの人は、冬鳥のカオジロガンは、流木についているエボシガイから生まれているんじゃないかと考えていたらしいよ。
  • えぇ?! 夏はいなくて、冬にいっせいにあらわれるから? たしかに、わたりを知らなければびっくりしたかもね。
  • 今でも鳥のわたりにはわからないことがたくさんあるよ。最近は鳥につける調査ちょうさ機器が小型化して研究が進んでいるから、これからどんどん新しいことがわかっていくよ。きっとぼくたちが予想もしていなかったこともね。
  • 楽しみだなぁ。

この「わたり鳥」に会いたい!

  • わたり鳥といえばツバメやハクチョウが有名だけど、それ以外の鳥にも目を向けてほしいんだ。
  • ほかにはどんなわたり鳥がいるの?
  • たとえば新緑の季節に山や森林に行くと、キビタキオオルリがとてもきれいな声でないているよ。初夏のおとずれをつげてくれるんだ。

キビタキ

オオルリ

  • 心があらわれそうだね。
  • 数は少ないけど、ぼくが研究しているミゾゴイというサギも春夏に山にわたってくるよ。世界でも日本でしか繁殖はんしょくしていないめずらしい鳥なんだ。

ミゾゴイ

  • 木のえだみたいでかわいいね。
  • てきに見つかりそうになったら、ほんとに木のえだのフリをしてかくれるんだ。
  • へぇ! 見つけられるかなぁ。
  • 春夏にはタカの仲間のサシバハチクマわたってくるよ。ハチクマは昆虫こんちゅうのハチを食べるからハチクマというんだよ。

サシバ

ハチクマ

  • 鳥なのに名前はクマなんだ。おもしろいね。
  • 冬に池や湖に行けばカモの仲間に会えるよ。その近くにヨシ原があればいろんな鳥が集まってくるし、それをつかまえにやって来るタカの仲間も見られるよ。※イネ科の植物「ヨシ」が群生ぐんせいしている場所
  • わぁ、食物連鎖れんさだね。カモは一年中いるのかと思った。
  • それはきっとカルガモのことだね。それ以外のほとんどのカモは日本で繁殖はんしょくしないんだ。たとえば頭が緑色をしたマガモは日本でもよく見る種類だけど、シベリアなどで繁殖はんしょくし、冬に食べ物を求めて日本にやってくるよ。

カルガモ

マガモ

  • カモにもいろいろいるんだね。
  • 冬場はツグミジョウビタキルリビタキも見られるよ。れていないときは目立たないけど、家の近くでも、ちょっとした雑木林ぞうきばやし生け垣いけがきがあれば見られるかも。

ツグミ

ジョウビタキ

ルリビタキ

  • かわいい!見つけてみたいな。
  • 地域ちいきによって見られる鳥もちがうよ。北海道は春と秋にガンが、冬にはオオワシが見られるし、沖縄おきなわは冬にサシバがよく見られるよ。

ガンの仲間(ヒシクイ)

オオワシ

  • 大きな鳥もかっこいいな。
  • 春や秋のわたりの季節には、ふだんは見ないような場所に鳥が突然とつぜんあらわれることもあるよ。都会の公園でめずらしい鳥を見かけることもあるし、何百羽というヒヨドリのが飛んでいることも。

ヒヨドリの

  • わたり鳥って意外とどこでも見られるんだね。
  • うん。ポイントは食べ物があって、てきにねらわれにくいこと。緑のある場所なら昆虫こんちゅうや果実などの食べ物もあるし、かくれ場所にもなるからね。
  • なるほどね。
  • 少しマニアックなところでは干潟ひがたもおすすめ。春や秋のわたりの季節には、チドリやシギの仲間が何百羽・何千羽といることがあるよ。しおの満ち引きにあわせて集まってきて、それをねらうタカの仲間もやってくるよ。

チドリの仲間(ムナグロ)

シギの仲間(キョウジョシギ)

  • 鳥の王国だね! 干潟ひがた、行ってみたいな。
  • 干潟ひがたは全国にあるよ。とんでもない数の鳥が見られておもしろいよ。
たくさんの鳥に出会える
干潟ひがたに行ってみよう
川上さんからのメッセージ
  • 同じ種類の鳥を翌年よくねんも同じ場所で見かけたなら、同じ個体こたいかもしれないよ。あんな小さな体で何千キロ・何万キロも往復おうふくしてわたってきたんだと思うと、びっくりしちゃうよね。これを機にいろんな鳥に目を向けてみてね。
まとめ
  • わたり鳥は南北を移動いどうしている。春夏は北で子育てし、秋冬は南でごす。
  • わたる理由の1つは効率こうりつよく食べ物を得るため。北半球では春夏は「北」、秋冬は「南」で多くの食べ物が得られる。
  • 鳥は太陽や星の位置、磁気じきなどをたよりに方角を定め、においや記憶きおくも使いながら目的地へたどりつく。

Profile

川上和人

川上和人かわかみかずと

国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所主任研究員
農学博士

ミゾゴイや小笠原諸島の鳥類の研究をしている。著作も多く、主な著書に『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』(新潮社)、『美しい鳥 へンテコな鳥』(笠倉出版社)、『そもそも島に進化あり』(技術評論社)、『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』(新潮社)などがある。