「ふしぎ」を見に行こう
探検メンバー
-
- ふしぎ探検隊が行くよ!
- 隊員りりか
-
- この人に聞いたよ
- キュレーターの
長谷川 祐子さん
アートって何だろう?アートの起源や役割
- 長谷川さんのしている「キュレーター」ってどんなお仕事なの?
- アートの展覧会を企画する仕事だよ。展覧会のテーマを考えて作品を選んだり、アーティストといっしょに新しい作品の内容を考えたりすることもあるよ。
- 私はピカソの展覧会に行ったことがあるよ。おもしろい絵や彫刻がいっぱいあった。ああいう作品のことを「アート」っていうの?
- うん。絵画や彫刻だけじゃなく、壁画、インスタレーション*1、ビデオアート*2、映画、音楽などもアートのひとつ。デザインや建築も広い意味でアートといわれることがあるよ。
-
いろいろなアートがあるよ
-

絵画

彫刻

インスタレーション*1
-
*1空間全体が作品であり、見る人が中に入って体験できるアート。
*2映像や音声を使って表現されるアート。
- 人が作った何かすてきなものがアートなのかな?
- アートの定義は一人ひとりちがうものだから、それも一つの定義だね。
- 長谷川さんにとってアートってどんなもの?
- 私にとってアートは、人を感動させる力のあるもの。忘れがたいもの。人間性を豊かにしてくれるもの。あるいは何かについて考え始めるきっかけをくれるものかな。それだけのものを作るには、高い技術も必要だと思う。
- 中には「嫌だな」「こわいな」と感じる作品もあったりするよね?
- うん。世界のすばらしさをえがくアートもあれば、世界のみにくさをえがくアートもある。でもその2つの面があるから、アートは人の心に深く入ってくるんだよ。
- 毎日いいことばかりじゃないからこそ、いいことがあった日の幸せが深くなるというのと同じかな?
- そうそう。現実の世界はいいことばかりじゃない。だから、つらい状況をえがいた絵に励まされたり、「あのアートがあるから頑張れる」という強い気持ちを持てたりすることがあるの。
-
アートには二面性があり、それが「深さ」を生み出している
-
- 1枚の絵を何十億円も出して買う人がいるよね。どうしてそんな値段になるの?
- アートは「これがほしい!」「これが見たい!」という人間の欲望に根ざしているから定価がないの。「どうしてもほしい!」という人が何人もいたら、いくらでも値が上がるよ。
- 人間の欲望かぁ。じゃあ、「これを作りたい!」っていうのも人間の欲望?
- 人はなぜアートを作るのか、という話だね。それをひもとくには、最初のアートがどうして生まれたか考えてみよう。
- 最初のアートって?
- スペインのアルタミラ洞窟に、旧石器時代の人がかいたと言われる壁画があるのは知ってる?あれが世界で最初のアートと言われているよ。
- 狩りでしとめた動物をかいた壁画だよね?どうして昔の人はそれをかこうと思ったのかな?
- いきなり大きな動物におそわれて、命がけで戦ってやっつけた。そんなすごい体験をしたら、それがどういうことだったのか、ふり返ったり、だれかに伝えたいと思わない?
- 思う!
- その手段が絵をかくことだったのかもしれない。目の前で起きたことを絵にかいて再現することで安心したい、恐怖をのりこえたい、パワーがほしいという気持ちもあったんじゃないかな。
- うんうん、わかる!
- 本人たちに聞いたわけではないけどね。アートはそうした人間の根源的な気持ちから生まれたんだと思う。それともう一つ、アートは信仰にも大きく関係しているよ。
- 神さまや仏さまを信じること?
- そう。人は「なぜ私は生まれたのか」「なぜ生きているのか」と考えてしまう生き物だから。アートの大きなカテゴリの一つ「宗教画」も、そんな根本的な疑問から始まっているよ。
-
アートは人間の根源的な気持ちから生まれた
-
- 「生きる」ということに対する根本的な疑問や恐怖か。
- それを乗りこえるため、その気持ちに寄りそうものとして、アートがあったんだよ。
- 現代のアートも同じなのかな?
- うん。「写真」「ビデオ」「インターネット」など、新しいメディアが登場するたびに表現の幅が広がってきたりはしたけどね。
- CGやバーチャルリアリティを使ったアート作品なんて、昔はなかったもんね。現代のアーティストは、どんなことを考えて作品を作っているのかなぁ?
- アーティストはいつも「世界の新しい見方」を考えている人たち。自分が見たことや感じたことを、想像力を使っていろんな絵や形にして再現したり、願ってやまない理想の世界をえがいたり。
- 部屋の中にこもって作品を作っているイメージがあるけど、心は大きく外に開いているんだね!
- アーティストはとにかくものを作るのが好きで、ワクワクすることが大好きな人たちが多いよ。自分の作ったものを何が何でも見てほしい!とも思ってる。
- 作品を見ることで、頭の中でその人と意見交換できそうだね。
- そう、アートはコミュニケーションの手段。特に現代のアートは、私たちと同じ時代に生きて、同じ空気を吸っている人がどんな風に世の中を見ているか、作品を通して知ることができておもしろいよ。
- アートは病院にもよくかざってあるよね。病気になった人にもアートは大切なものなの?
- 弱った人には、体だけじゃなく心のケアも必要。心を豊かにするものとして病院や公共の場にアートはよく取り入れられているし、災害復興のためにアートのワークショップが開かれることもあるよ。
- アートが心をうるおしてくれるんだね。
-
アートにはセラピーの役割もある
-
アートはどう見ればいい?アートの見方や楽しみ方
- アートを見に行くには美術館に行けばいいの?美術館って静かで緊張しちゃう。
- 最近は美術館のスタイルも変わってきていて、公園のように気軽に立ちよれるオープンな場所もあれば、野外を散策しながらアートを楽しめる場所もあるよ。
-
楽しい美術館が増えているよ
-
-
(左)レアンドロ・エルリッヒ 《スイミング・プール》2004年
撮影:渡邉修
画像提供:金沢21世紀美術館
(右)画像提供:彫刻の森美術館
- わぁ、楽しそう!
- 「アートフェスティバル」といって、お祭り感覚でいろんなアートを楽しめるイベントも各地で盛り上がっているから、家族で行ってみるのもいいと思うよ。
- アートを見るときは、どんな風に見るといいの?
- アートに決まった見方はないよ。でも、「信頼」と「尊敬」の2つを大事にすると、アートにもっと深く向き合えるよ。
- 信頼と尊敬?
- その作品や展覧会を、「いいものだから、どうにかしてみんなに見てもらおう、伝えよう」と思って頑張って作った人がいる。その思いを信頼すること。「私にはむずかしくてわからない」と最初から決めつけたりはしないでね。
- うん。
- どんな展覧会なのか、学芸員さんに最初に話を聞いてみるといいよ。その後は自由に見ればOK。ワクワクしながらも、自分は今すごいものを見ているんだという尊敬の気持ちも忘れずにね。
- うん。見せてくれてありがとうっていう気持ちで見たいな。
- とはいえ、すべての作品を見なきゃいけないわけじゃないし、好きな作品には何度帰ってもいいよ。
- そうなんだ?
- うん。自分が何を好きかを知っているということは、生きていくうえでもとても大事なことだから。
- 好きかどうかなら見てすぐわかる!
- 好きな作品がいくつかあったら、それらに共通することって何だろう?と考えてみるといいよ。自分がどんなものを好きなのかがわかると、そこから世界をどんどん広げていけるよ。
- どうしても「わからない」と思う作品があったときは、どうしたらいい?
- 大切なのは「理解しよう」「向き合おう」と思う気持ち。そのうえで「わからない」「つまらない」という感想をもつのはしょうがないよね。でもだれかと語り合うことで、考えを進めることはできるよ。
- 語り合う?
- 「どうしてこんな形なんだろうね?」「なぜこの色なんだろう」と、わからないことを言葉にしてみて、考えてみること。アートに正解はないから、正しいかどうかは気にしなくていいよ。
-
アートを見るときに大事にしたいこと
-
最初に説明を聞こう。

「信頼」と「尊敬」をもって向き合おう。

自分が何を好きなのかを知ろう。

- いっしょに見に行った人と語り合うといいんだね。
- そう、頭と感覚はいつもみがいていたいよね。行くたびにちがう風に見えるのもアートのおもしろいところだよ。野外の作品なら季節や天気によっても見え方が変わるし、そのときの気分によって印象が変わることもあるよ。
- 前は何とも思わなかった作品が、次に見たときにすごく感動することもあるんだろうね。人の心にぐいぐい入ってくる。アートっておもしろいな。
長谷川さんからのメッセージ
- アートの世界には正解がないから、みんなと答えがちがっていても怒られることがないよ。むしろ「みんなとちがうこと」がほめられる世界。もし君が、人とのちがいに悩んでいるなら、アートの世界に遊びに来てごらん。
まとめ
- アートは人間性を豊かにしてくれたり、何かについて考え始めるきっかけをくれたりするもの。
- アートを見ることで自分が何を「好き」と思うのか、発見することも大事。
- アートを見るときは「信頼」と「尊敬」の2つの気持ちを大切にしよう。

長谷川 祐子
東京都現代美術館 参事
京都大学法学部卒業。東京藝術大学大学院美術研究科修了。水戸芸術館、世田谷美術館を経て、金沢21世紀美術館の立ち上げに参画し、2006年より現職。東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科教授。犬島「家プロジェクト」アーティスティック・ディレクター。国内外のさまざまなビエンナーレや展覧会のキュレーターを務める。