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2024/03/27

HMSモビリティジャーナル Vol. 3「観光号」
観光客を歓迎しない理由「交通手段の混雑:85.5%」
-オーバーツーリズムの課題と、モビリティサービスがもたらす価値-

HMSモビリティジャーナル

 総合モビリティサービス企業であるホンダモビリティソリューションズ(以降、HMS)が、モビリティサービスのリーディングカンパニーとして、多種多様な業界×モビリティの切り口で、さまざまな情報発信や問題提起を行っていくニュースレター「HMS モビリティジャーナル」。

 今回は、今年本格的に需要が戻ることが確実となっている観光についてフォーカスします。
 コロナ禍があけ、国内の旅行動向は増加傾向となっており、また円安とも相まってインバウンドも大きく需要が伸びています。そのような国内外の観光客の増大に伴い、観光地では交通手段が滞る等の問題が話題となったり、観光地の地元住民にとっては渋滞・遅延・事故などの生活環境の悪化が取り沙汰されたりするなど、いわゆるオーバーツーリズムが問題視されています。

 このような課題を抱える観光領域に対し、モビリティサービスによる価値提供が注目されています。観光業の発展に、進化を続けるモビリティサービスと、HMSのソリューションはどのような影響を与えるのか。独自の定量データを交えて、HMSが目指すモビリティサービスを通じた業界の未来をお伝えします。

1.	観光地の地元住民の声。観光客を歓迎しない理由TOPは「交通手段の混雑:85.5%」

1. 観光地の地元住民のロイヤリティは、観光客よりも低い傾向

 観光の現状を調査するため、HMSモビリティジャーナル編集部は、日本国内で屈指の観光地である京都府京都市の市民を対象に、独自調査を行いました。

京都への観光を友人に薦めたいか

 京都市民に対し、“観光地としての京都”に関するロイヤリティを計る手法として、NPS(ネット・プロモーター・スコア ※1)を行ったところ、結果は「-14.0ポイント」でした。
 一方で、京都市が行った「観光客の動向等に係る調査(2022年)」を参考に、京都観光客のNPSを算出すると「+32.1ポイント」であり、“観光地としての京都”に対するロイヤリティは、観光客よりも地元住民の方が低い傾向が見て取れます※2

 また、京都で暮らすことへの満足度と観光客の歓迎是非についてクロス集計をしてみると、暮らしへの満足度が高い人ほど観光客を歓迎し、不満を抱えている人ほど観光客を歓迎していないことが分かりました。地元住民にとって、観光客が生活の満足度にも影響している可能性を示唆することができます。

暮らしへの満足度×観光客の歓迎是非

2. 観光地の地元住民が感じている、交通機関への課題

 京都市民への調査で、京都への観光客が増えることを「歓迎しない」と回答した理由として、最も多かったものは「道路や公共交通機関が混雑するから」で、85.5%でした。更に、観光客の回復に伴い、各交通手段で混雑を感じるかどうかを聞いてみると、バス、電車、タクシー、自動車ではいずれも8割以上が混雑を感じていると回答しています。特にバスでは、「とても混雑している」が59.2%と半数以上を占めており、移動手段の深刻な現状が分かります。

京都への観光客を歓迎しない理由

●交通混雑に対する観光地の地元住民のネガティブな意見が顕著に

 観光地での交通混雑等の問題についてのフリーアンサーを、テキストマイニング※3で集計したところ、以下のような結果となりました。

観光地での交通混雑に関するテキストマイニング

 「住みづらい」「乗りにくい」「混む」というネガティブなキーワードが多くあり、また「住民」「地元住民」など京都市民の主語も目立ちます。京都市民が、観光客へ交通に関してネガティブなイメージを抱いていることが推察できます。一方で、「増やす」「つくる」などの改善に繋がるキーワードも見えることから、観光客と地元民の双方が、快適に移動ができる方法を模索していきたい考えも垣間見えます。

 次に、係り受け解析※4を行った結果を抜粋したところ、以下のようになりました。名詞には、交通手段や観光客が入る中、マナーという言葉もあります。テキストマイニングでも表れていましたが、交通手段の混雑に影響した、観光客のマナーに対する懸念も見えてきます。

係り受け解析
  • ※1 顧客ロイヤリティを測るための指標
  • ※2 京都市産業観光局「観光客の動向等に係る調査 令和4(2022)年」
    P32紹介意向(日本人)より、7(大変そう思う)を推奨者、1~5(まったくそう思わない~ややそう思う)を批判者として算出
  • ※3 文章を対象として、AI等を利用した関連性や傾向を見出す分析方法
  • ※4 主語/述語などの係り受け関係を解析する方法

オーバーツーリズムの背景と対策

 冒頭も触れたように、コロナ禍が明けた昨年より、国内外ともに観光需要が伸びています。そのような中で、再び課題として挙がるのが「オーバーツーリズム」です。オーバーツーリズムの要因とその対策について、移動の観点を中心に見ていきます。

1. オーバーツーリズムの背景

●移動手段の多様化

 1970年代の日本の経済発展と、それに伴う消費者の所得増加により、人々の移動手段が広がりました。特に飛行機を利用した長距離移動が浸透していったことで、観光先の選択肢が広がります。また、新規参入や各社のサービス拡充により、1990年代に登場したLCC(格安航空)や、格安での長距離バスサービスなどが始まったことで、観光の移動手段と選択肢が増えました。観光の民主化が進んだことで、気軽に観光に行く人々が増えることとなります。

●国際的な観光客の増加

 前段の移動手段の多様化・低価格化により、国内外の観光客が増加することが見込まれます。国連世界観光機関(以下:UNWTO)の資料をもとに観光庁が作成した「国際観光客数の推移」では、観光客数は毎年右肩上がりとなっており、2019年には14.7億人まで増えています。コロナ禍で客数は激減しましたが、コロナ後の2022年には9.2億人となっており、今後はコロナ前と同様に増加することが見込まれます。※1
 日本における訪日外国人数は、コロナ禍での水際措置の変更に伴い右肩上がりとなっており、2023年度は2500万人を超える数となっています。コロナ前の2019年と比較し、約8割ほどまでの回復となっており、今年も引き続き増加していくことが推測されます。※2

●観光客の声 -移動は公共交通機関を利用-

 実際に京都を観光している10代~60代の計7名に、インタビューを実施しました。
 1名を除き、他すべての方が移動手段として「バス」や「電車」といった公共交通機関を利用していました。特に京都市内にはバス路線が多数にあったり、電車で移動可能な距離感でもあることから、車よりも手軽な移動手段を選択しているようです。
 またすべての方が、観光地の交通混雑の問題を「知っている」と回答。そのうえで、全員が京都を観光地としておすすめするとしています。観光地の交通問題を改善する方法としては「観光客の料金UP」「公共交通機関の輸送量UP」「リアルタイムでの交通案内」などを挙げていました。

京都観光客へのインタビュー

2. オーバーツーリズムの課題と対策

●観光の需要集中

 年末年始、ゴールデンウィーク、お盆などの長期休暇に合わせた観光が増加することや、移動手段の気軽さや知名度によって特定の地域へ観光客が一極集中するような、観光需要の偏りが起きています。結果として、観光地での交通インフラや地域住民への負荷が増大したり、混雑によって観光客自身の体験の質が低下することも懸念されます。
 この需要集中への対策として、閑散期や平日など需要が高くない期間への分散が挙げられます。学校や企業での休暇期間の分散や、閑散期を狙った観光プロモーションや特別価格などの高付加価値を提供することで、観光客をオフシーズンに誘致し、需要集中の緩和を目指す取り組みなどがなされています。

●観光DXの推進

 観光地の混雑解消のために、テクノロジーの活用による観光体験の最適化・観光地管理の改善なども期待されます。例えば、デジタル技術を利用して観光客にリアルタイムの混雑情報や予約状況を提供することで、観光客は混雑を避けた観光が可能となります。観光客にとっては、混雑状況を見ながら最適な移動プランを検討し行動することができ、観光地の地元住民や交通インフラにとっても、局所的な混雑が起こりづらくなることで負荷の削減に繋がります。

●MaaSの躍進

 観光DXの中でも特に注目されているのは、観光MaaSです。MaaSとは「Mobility as a Service」の略称で、さまざまな交通手段をシームレスにつなぎ、ユーザーの利便性を向上させるものです。観光MaaSは、観光客が飛行機や新幹線といった主要な交通手段から、バスやタクシーといった観光地域での移動手段まで、全ての交通手段をシームレスに検索、予約、支払い等が可能なサービスを指します。
 観光MaaSの進化により、観光客は、移動ルートの検索、予約、決済をワンストップで享受できるようになり、移動の効率が大幅に向上します。特に移動手段が限られる地方の観光地では、MaaSの発展により、移動への懸念がなくなった観光客の訪問を見込むことができ、結果として観光地の一極集中からの脱却を望むことも可能です。

HMSのアプローチと、観光業界におけるモビリティの価値

 HMSは、「総合モビリティサービスカンパニー」を目指すことをミッションとし、2020年の設立以降、幅広いモビリティサービス事業を展開しています。HMSは、モビリティを日常生活の一部であると捉え、すべての人にとって利用しやすいモビリティサービスを提供することを使命としています。
 HMSのモビリティサービスは、観光業界の課題と変革にも寄与するべく、さまざまな取り組みを行っています。HMSが、観光業界に対して提供していくことができる価値についてお伝えします。

1.HMSが向き合う「オーバーツーリズム」 -沖縄での実証実験-

 HMSが提供する事業のうち、オーバーツーリズムに最も関連が深い事業が「総合モビリティサービスEveryGo」です。特に、EveryGoブランドの1つであるカーシェアサービス「EveryGo」は、首都圏を中心に展開するシェアリングサービス事業です。

●沖縄での観光カーシェアの実証実験

 カーシェアサービス「EveryGo」は、2022年に沖縄県那覇市にて、観光カーシェアの実証実験を行いました。観光カーシェアの担当者である、第二ソリューション部の石橋さんと古川さんにお話を伺いました。

左)第二ソリューション部 サブスク事業ユニット
マネージャー 石橋 毅一

右)第二ソリューション部 カーシェア事業ユニット
兼 サブスク事業ユニット シニアスタッフ 古川 将司

左)第二ソリューション部 サブスク事業ユニット マネージャー 石橋 毅一 右)第二ソリューション部 カーシェア事業ユニット兼 サブスク事業ユニット シニアスタッフ 古川 将司

石橋) 観光カーシェアの実証実験の目的は、大きく2点ありました。1つは、観光地に適用する商圏拡大に対する取り組みです。もうひとつは、車内でのUX検証です。観光地の移動手段としての社内で、乗車中のワクワク感や面白さを提供していくための取り組みを行いました。

●稼働率は30%越えと高い結果に

古川) 実証実験の地として沖縄を選定したのには、やはり交通事情の課題が大きいことが背景にあります。沖縄の移動手段の主は車で、空港に着いた観光客のほとんどがレンタカーを借りる流れになっていますが、需要が供給を追いこしてしまうこともあり、交通手段のリソース不足が懸念されていました。
 そのような中で、沖縄にカーシェアサービスEveryGoを展開したのですが、結果は非常に好評でした。利用頻度は都心よりも高頻度で、稼働率は30%を超える月もあるなど非常に高い結果でした。
 稼働時期についても、通常カーシェアは平日に空きが出る傾向なのですが、沖縄では平日もご利用いただくことが多く、土日は基本的にご予約で埋まっていました。レンタカーとは異なり、思い立ったらすぐに利用できる点もカーシェアのメリットでして、特に観光地においてそういった必要がありましたね。

●レンタカーとの大きな違いは”効率性”。宿泊施設への付加価値にも

石橋) 沖縄の観光カーシェアで、よく比較されるのはレンタカーなのですが、レンタカーとの大きな違いに効率性があります。例えばレンタカーだと、飛行機を降りたあとに空港近隣の店舗に赴いて手続きをして…となると、利用するまでに約1時間ほどかかります。
 Every Goの場合、車のレンタルスペースはホテルなどの宿泊施設に併設されているため、到着したらモノレール等でホテルまで移動したあとに、好きなタイミングで好きなだけ利用することができます。レンタカーは、基本的にスペース面の問題から宿泊施設への併設が難しいのですが、カーシェアですと駐車場の一区画からスタートできて、施設側の負担もそこまで大きくありません。利用者からしても、アプリ1つで利用できるので借りるための手間もなく、宿泊施設へのチェックインと合わせて借りることができたりと、観光プランに応じて柔軟な利用ができます。宿泊施設からも、カーシェアはホテルの付加価値の1つとして捉えていただいており、施設のサイトでもカーシェアを紹介していただいています。おかげさまで現在も沖縄でのカーシェアは継続して提供しており、多くの観光客の皆様にご利用頂いております。

2.カーシェアサービス「EveryGo」について

カーシェアサービス「EveryGo」の事業推進を担当している、ホンダモビリティソリューションズ株式会社 第二ソリューション部の隅本さんと釘屋さんに、本サービスが観光業界に提供する価値について、ポイントを語っていただきました。

左)第二ソリューション部
マネージャー 隅本 直輝

右)第二ソリューション部 カーシェア事業ユニット
ユニットリーダー 釘屋 佳介

左)第二ソリューション部 マネージャー 隅本 直輝 右)第二ソリューション部 カーシェア事業ユニット ユニットリーダー 釘屋 佳介

●カーシェアサービス「EveryGo」とは

釘屋) 本田技研工業が2017年11月より運営していたカーシェア事業を引継ぎ、2021年よりHMSとして事業を進めています。主に東京、神奈川、愛知、大阪、福岡などを中心にサービスを提供しています。現在のユーザー数は約9万人となっており、2024年度には10万人を超える見込みとなっています。料金は時間単位で、全国で一律、平日15分200円からとなっており、月会費や入会費は不要です。
 「EveryGo」は、比較的新しい車種を利用できることが特徴で、最近では、新型N-BOXを業界で初導入しました。新車種に乗ってみたいというニーズで利用される方も、一定いらっしゃいます。
 また、予約からカギの開け閉めまで、利用はスマホアプリで完結するようになっています。UIを意識した開発をしており、利用者からも好評です。

●オーバーツーリズムを受けて、カーシェアは拡大傾向

釘屋) コロナ禍が明け、観光需要の回復とともにレンタカーが不足する中で、カーシェアのニーズは高まっています。東京では稼働が2倍となるなどの需要が高まっている背景としては、レンタカーと比較して申込後すぐに利用できるため機動性が高いことや、レンタルスペース(店舗)が無くても借りることができるため、利用できる場所が多くあることなどが挙げられます。

●「思い立ってすぐ」利用ができるカーシェアは、交通手段の最適化の一助に

釘屋) 観光地の交通混雑を解消するには、オンデマンドで他の交通との最適化を考える必要があります。交通手段ごとの価格や、混む時間帯の偏りなどを最適化し、テクノロジーを活用して柔軟に需要共有を可変できるようになると、大きな混雑発生を避けることが可能となります。
 カーシェアは、レンタカーとは異なり「思い立ってすぐ」利用することが出来るので、他交通手段と同様に、観光客へのリアルタイムな移動手段の1つとして提案することが可能です。現在、自治体やさまざまな企業が、オーバーツーリズム解消のためのMaaSへの取り組みを進めていますが、HMSとしても、カーシェアはこの観光業界の課題解決の一助となると考えています。

●オーバーツーリズム対策としての「マルチモビリティ、マルチスキーム」

隅本) オーバーツーリズムへの対策としてモビリティサービスが出来ることは、“供給力をあげる”もしくは、“効率を上げる”の2点だと考えています。これに対して、HMSの考える一つの解は「マルチモビリティ、マルチスキーム」という考え方です。これは、テクノロジーを活用しシームレスな連携を行うことで、最適なモビリティサービスを最適な稼働量で提供することで、稼働効率を最大化し多くの需要に貢献することを指します。

●「占有」から「共有」により、稼働率の最大化を実現

隅本) 例えば、カーシェアを利用すると、1人(あるいは1グループ)が契約時間いっぱいを借り切る、いわゆる“占有”することになります。たとえば観光で6時間借り切っていても、実際には車を停めて観光地を回ったりするなど、乗車時間はその半分ほどだったりします。
 もし、この駐車時間の間を、他の利用者が借りることができるようになれば、1台あたりの稼働が最大化でき、結果として供給力も上がります。この実現には、車の提供方法を、借りた場所に返すラウンドトリップではなく、乗り捨てができるワンウェイ形式にするなどのさまざまな検討・取り組みが必要となります。中長期的に需要/供給のアライアンスを最適化することができれば、将来的には実現できると考えています。

●和光市との実証実験では3割の効率化を実現

隅本) 「マルチモビリティ、マルチスキーム」の実現の第一歩として、EVソリューション事業※1と埼玉県和光市との実証実験を行いました。和光市の公用車を、予約機能の最適化により効率化するというもので、実際に約3割ほどの効率化を行うことができました。
 アルゴリズムの導入によって予約システムを改善するだけで、稼働可能な車両が明らかになり、供給力がアップしました。この結果は、オーバーツーリズムの解決に資する考え方だと思っています。

  • ※1 EVモビリティに関するトータルソリューションの提供を行っています。

3.使いやすいサービスを通して、社会課題への貢献を目指す

 「EveryGo」は、総合モビリティサービスブランドとして、都市課題の解決策を提供しています。カーシェアサービス「EveryGo」は、無駄が少なくストレスなく利用いただけるサービスを目指しています。そして利用者の拡大とともに、オーバーツーリズムに始まる観光業界の社会課題への貢献もできるように、今後も進化を続けていきます。


【アンケート調査概要】

該当グラフ:①~⑤
調査名称:観光地における交通に関するアンケート
調査期間:2024年1月19日~1月25日
調査対象:京都市在住の20歳~69歳の男女
調査数 :400名
調査方法:Webアンケート

該当グラフ:⑥
調査名称:京都観光における混雑状況について
調査期間:2024年2月15日~2月26日
調査対象:京都市在住の20歳~69歳の男女
調査数 :10代〜60代の日本人男女7名(男3、女4)
調査方法:京都市内街頭インタビュー


<次号予告>
次回は夏号を予定しています。

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