未来を見据えて生まれた「Honda e」。
Hondaらしさがちりばめられたこのクルマの魅力を、開発者の一瀬智史さんと、建築家の永山祐子さんが語る。
永山 祐子Yuko Nagayama
建築家
1975年、東京都生まれ。昭和女子大学生活美学科卒業後、青木淳建築事務所勤務を経て、永山祐子建築設計を設立。主な仕事に『LOUIS VUITTON 京都大丸店』や『西麻布の家』など。ロレアル賞奨励賞をはじめ受賞多数。武蔵野美術大学で非常勤講師も勤める。
一瀬 智史Tomofumi Ichinose
Honda e開発責任者
1963年、大分県生まれ。日田林高等学校機械科卒業。Hondaへ入社後は、CIVICなどの部品設計やスーパーカーNSXを使用した社内提案プロジェクトなどに参画し、主にエクステリア設計を中心としたキャリアを積む。2016年より「Honda e」の車体開発に携わる。
「少し先の未来」をテーマに開発されたHonda e。そのコンセプトを、開発責任者の一瀬智史さんが語る。
一瀬
このクルマが目指す「少し先の未来」をイメージした時、あらゆる要素がクルマとつながるのではないかと考え、開発コンセプトを「シームレス ライフ クリエ―タ―」としました。
永山
とても興味深いですね。具体的にどのようにつながるのでしょうか?
一瀬
まだ開発中のところもあるのですが、クルマがネットとつながり、多彩なアプリケーションを活用することができます。一方で家にいながら車内温度やナビを設定できるなど、リビングと車内をつなぎます。さらに災害などで停電した場合はクルマから電力を供給することも可能です。人と家をはじめ、あらゆるモノとつながるのです。
永山
イメージ映像では、クルマと運転手が会話をしていましたね?
一瀬
あれは「Honda パーソナル アシスタント」というAIで、声で呼びかけることで起動します。「近くのレストラン教えて」と語りかければ、近隣のレストランを検索し、店へと案内します。これら機能も含め、カーでもビークルでもなく〝クリエイター〟と名付けたゆえんなのです。
永山
クルマと会話できるなんて、ユーザーはより愛着が湧きますね。
一瀬
人とクルマとのインターフェイスは、かつてのボタンやハンドルからタッチディスプレーへと変化し、いまでは音声へと変わりました。しかも、より詳細なコミュニケーションができるよう進化しているんです。
ユーザーインターフェースに新たな関係性を見出した永山さん。続いて興味を向けたのは、エクステリアだ。
永山
なんというか、ツルンとしたかわいらしいデザインですよね。
一瀬
創業者の本田宗一郎は、四角は堅実で円は円満、そして、丸は調和と考えていました。これに倣い、親しみやすい丸みを帯びたデザインに仕上げました。開発チームもとても愛着をもっているんですよ。
永山
サイドミラーがないのもポイントですよね。
一瀬
デザイナーが「ノイズを消した」と言うとおり、サイドミラーはカメラにしてドアノブは内蔵式に。各機能をできるだけ目立たなくしました。
永山
建築家も、設計の際にノイズを消すという意識があります。窓枠をはじめ細部へのこだわりが、全体の印象に大きく影響しますから。
一瀬
細部が全体の印象を左右するのは、クルマも建物も一緒ですね。
革新的なデザインを取り入れたHonda eだが、開発までにはどんな背景があったのだろうか?
永山
従来のクルマとは違ったチャレンジをされたのがわかってきました。
一瀬
そうですね。Hondaにとっては前衛的なクルマですし、何度も検討を重ねました。当初はフロント部にモーターがあったのですが、ある若手開発者から「これだと小回りが利かない」と意見されたんです。都市部で使うことを想定していたので、色々な開発がやり直しになるのはわかっていましたが、すぐに意見を取り入れました。
永山
それはすごいですね。一度積み重ねたものを変更するのは勇気がいることですから。開発にはどのくらいの期間がかかったのですか?
一瀬
だいたい4年くらいです。ふわっとしたコンセプトから始まって、ここまで仕上げるのには苦労しましたが、トライアンドエラーを繰り返してよいものになったと思います。
ふたりの話は「Honda eのある未来」の姿への想像に展開していく。
永山
建物は何十年も存在するため、必然的に未来を想像して設計します。このクルマは、どんな街を走ることを想像されたのでしょうか。
一瀬
東京のような都市部での走行を想定して、小回りの利くシティコミューターとして開発しました。
永山
かつてクルマが都市計画に影響を与えたように、EVの普及によって道路やガソリンスタンドの存在も変化するでしょうね。環境に優しいエネルギーであるという点や、電力供給源にもなる汎用性に可能性を感じました。
一瀬
エネルギーを消費するだけでなく、供給できることも社会との大切なつながりになるのです。少し先の未来って、20世紀に描いたようなハイテクな都市ではなく、自然や伝統的な街並みと先端技術がバランスよく共存する温かい世界ではないかと思うんです。
永山
私は大きな計画でつくられるよりも、みんながアイデアを持ち寄ってできる都市でありたいと考えています。建築をはじめ小さなモノが調和する心地よい街を、Honda eには走ってほしいですね。