ゴルフ理論

スコアアップにつながるゴルフ理論飛距離が出る!革新的なマシュー・ウルフ選手のスイングを解説

2019.07.11

学生王者の変則スイングが全米のゴルフ界を席巻中!
いまアメリカPGAツアーで最もホットなのが、ルーキーのマシュー・ウルフ選手です。ウルフ選手は、今年5月のNCAA(全米大学体育協会)チャンピオンシップでチームを全米1位に導いたのを機に、プロ入りしました。彼が注目されているのは全米大学ランキング個人1位の実力だけでなく、その個性的なスイングも理由です。

おそらくウルフ選手のスイングを初めて見る人は、見慣れない動きに度肝を抜かれるでしょう。まず、打つ前の予備動作で体を小刻みに震わせるところから、普通のプレーヤーと違っています。その儀式が済むと、フェースを閉じながらクラブをアウトサイドにテークバック。そして、いわゆるシャフトクロスのポジションにあるトップオブスイングから切り返すと、急激にシャフトを後ろに倒すのです。そこからはジャンプ動作を入れながら一気に振り抜くのですが、一連の動作はゴルフというよりも野球に近いかもしれません。助っ人外国人バッターが甘い球をスタンドに叩き込む感じ、といえばわかるでしょうか。とにかくキビキビした動きが魅力的で、アスリート感満載のスイングなのです。

ウルフ選手のスイングイメージ

常識的に考えると「そんなにバタバタ動いたら曲がるだろう」と思いがちですが、このダイナミックなスイングで距離を出しつつ、ボールをコントロールしてくるのが彼の強さ。プロデビュー戦もしっかり予選を通過するなど、順応性も高いです。ちなみに、アプローチもスイング同様にコッキングを使わず、フェースを閉じたまままっすぐ上げて打っています。正直やや素人っぽいのですが、そのスタイルでも寄るのは、彼の学生時代のスタッツ(記録)が証明しています。



変則スイングでも
「飛んで曲がらない」理由①

始動の段階でクラブの右回りが確定する

さて、マシュー・ウルフ選手のスイングが「飛んで曲がらない」理由ですが、クラブに発生する慣性モーメントを上手く操っているからでしょう。手首を使わず飛球線に沿ってテークバックすると、クラブはシャフトプレーンの外側に上がります。この初動があることで、その後クラブを右に回して使うことができるのです。
「右に回す」とは、文字通りクラブヘッドを自分から見て時計回りさせることです。これはプロゴルファーが程度の差こそあれ、必ず行っているゴルフの基本。プレーン上をなぞるように上げて下ろすよりも、右に回してから下ろしてきたほうがクラブを加速させやすいのです。アマチュアはインサイドに引き、左回りさせてしまうことが多いのですが、これは最悪で、カット軌道になるし、フェースも開きやすくなってしまいます。上達を妨げるデスムーブといっていいでしょう。



変則スイングでも
「飛んで曲がらない」理由②

右ヒジを使ってシャフトを倒しプレーンに乗せる

ウルフ選手のトップオブスイングは、いわゆるシャフトクロスのポジションに上がります。ゴルファーの多くが改善したいと思っている、この一見「カッコ悪い」トップが、実は飛距離の源なのです。ここから切り返しでシャフトを倒す動作は、ホームランバッターに見られるもの。強打者はバットを一瞬立ててから振り下ろすことが多いのですが、右ヒジを上げて、バットをピッチャーの方に倒してから右ヒジをおへそ方向に押し込むことで、バットは後ろに倒れ、スイングプレーンに乗ります。そこからフットワークを使って一気に振り抜くから、スピードが出るのです。

テニスのフォアハンドも同じで、ラケットを水平に引く強い選手はいません。やはりヒジを上げながら振りかぶり、ラケットを立ててから寝かせてくるはずです。右腕を内旋させてヒジを高い位置に持っていき、外旋させながらヒジを体に寄せる動作は、腕を速く振るために有効なのでぜひ試してみてください。



変則スイングでも
「飛んで曲がらない」理由③

強烈なジャンプ動作で腕を速く振る

ダイナミックな足の使い方もウルフ選手の特徴ですが、もちろんこれも飛距離に大きく貢献しています。簡単に言ってしまえばジャンプしているのですが、バックスイングで左ひざを大きく曲げてタイミングをとり、切り返しからは右ひざも曲げてしゃがみ込むと、そこから両足で地面を蹴っています。おそらく彼にとってフットワークは重要な動作で、始動する前の「儀式」もジャンプの予行演習なのでしょう。両足ジャンプはジュニアゴルファーに多い動きで、地面から跳ね返る力を利用して腕を速く振ることができます。男子プロでここまでジャンプする選手はなかなかいませんが、彼はそれをやってのけ、少なくともここまでは成功しています。

というわけで、いま全米を賑わせているゴルフスイングを紹介しましたが、アマチュアに参考になる点があるかどうかというと、答えはイエスです。何よりもクラブを右に回す動作は肝となるので、もしあなたの辞書になければ真似するといいでしょう。クラブをインサイドに引いてアウトサイドから下ろすのではなく、アウトサイドに引いてインサイドから下ろす。たったこれだけのことでもボールのとらえ方は変わりますし、クラブの使い方がわかるかもしれません。他のスポーツは得意なのにゴルフだけはうまくいかない、そんな人も試す価値は十分です。道具を使うスポーツは道具に発生する力を利用することがコツですし、それができれば動きの再現性も高くなるのです。

絵と文
Honda GOLF編集部 小林一人

Honda GOLF編集長のほか、ゴルフジャーナリスト、ゴルフプロデューサー、劇画原作者など、幅広く活動中だが、実はただの器用貧乏という噂。都内の新しいゴルフスタジオをオープンし、片手シングルを目指して黙々と練習中。

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