ゴルフ理論

スコアアップにつながるゴルフ理論左足体重のまま打つ!
スタック&ティルト打法とは?

2012.06.28

ここ2,3年、アメリカツアーでよく話題にのぼるのが「Stack&Tilt(スタック&ティルト)」というスイング理論だ。アンディ・プラマーとマイク・ベネットという二人のコーチによって提唱されたこの理論、日本では「左足1軸打法」と紹介されることもあるように、簡単に言ってしまうと、「左足に体重を乗せたまま打ってしまえ! 」という打法なのだ。

バックスイングで右足に体重を乗せてパワーを蓄え、ダウンスイングで左足に体重を移動させることで大きなエネルギーをボールに伝えることができる、というのが従来の、というかノーマルな考え方だったが、二人のコーチは、むしろそれがスイングの再現性を低めると考えた。最初から左足に体重をかけておき、右に体重移動することなく打てば正確にボールをミートでき、それこそが飛距離と精度を高いレベルに保つ秘訣である、というのがスタック&ティルトの基本的なコンセプトだ。

具体的にどうするかというと、まずアドレスでは体重を55:45の割合で左足に寄りかけておく。そのまま体重移動せずにバックスイングし、左足に乗りながらダウンスイング。インパクトでは体重配分が80:20になり、フィニッシュでは90:10になる、というのが彼らの主張だ。スイングの回転軸は背骨で、アドレスの位置から頭を動かさずに打つ。そのためにバックスイングでは右脚が伸びるとともに、体がやや左に傾いた形になり、のけぞるようなフィニッシュになるのがこの打法の特徴だ。

ボールを飛ばすエネルギーは体重移動ではなく、ねじりの力を使った体の回転が担当し、クラブを体に巻きつけるようにインサイドから振り出していくことで、感性に忠実にクラブを振ることができる。これらがこの理論の概要なのだが、既存の打ち方とはだいぶ違うので、アメリカでは「radical(過激)」と評されることもある。しかしこの打法を採り入れたアーロン・バデリーが2勝を挙げ、マイク・ウィアなどほかにも取り組む選手が出て来たことで、がぜん注目を浴びた。タイガー・ウッズも左軸を重視したスイング改造に取り組んでいることから、「スタック&ティルト」は現在、もっとも良く話題に上るスイング理論になっているのである。ただし肯定的な意見だけでなく否定的な意見も多いのだが…。

この打法が是か非かは置いておくとして、左足1軸打法が現れた背景には「飛ぶようになったクラブ&ボール」と、「傾斜のきつい高速グリーン」という要素が関係していそうだ。各メーカーの開発競争の結果、ドライバーで打ったボールは果てしなく飛ぶようになったが、そのぶんアイアンショットのスピンが入りにくくなっている。そのため鋭角にヘッドを入れてスピンをかける必要性が出て来たというわけだ。また、ドライバーの飛距離アップに対応するため、グリーン周りのコースセッティングはますます難しくなり、ピンを攻めるには厳密にスピンコントロールしなければならない。となるとボールコンタクトにもさらなる精度が求められるので、体を揺さぶらずに打つスタイルが注目されているということだ。

結果が出ずに離れる選手も多い「スタック&ティルト」。評価を下すのはもう少し時間を置いてからにするとしても、この打法に取り組んだ選手が少なくないことは紛れもない事実。世界最高峰の舞台ではいま、軸を動かさないことで正確にボールとコンタクトする、ということに多くの選手が関心を寄せているのだ。

スタック&ティルト打法

アドレスでは左55右45の左足体重で構える

体重移動をせず、体の中心軸をずらさないようにバックスイングする。
その結果、右脚はまっすぐ伸び、上体はやや左に傾く

フィニッシュでは左足に90%体重が乗る。
上体が右に傾きのけぞったような形になるのが
スタック&ティルト打法の正しいフィニッシュ


Honda GOLF編集部 小林一人

Honda GOLF編集長のほか、ゴルフジャーナリスト、ゴルフプロデューサー、劇画原作者など、幅広く活動中だが、実はただの器用貧乏という噂。都内の新しいゴルフスタジオをオープンし、片手シングルを目指して黙々と練習中。

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