マメ知識

ゴルフの雑学・マメ知識スライサーは鉛を貼ったらダメ!?
宮城裕治さんが教えてくれた
正しい貼り方

2023.07.06

昔は上級者のクラブに鉛がよく貼ってあったものです。アイアンのバックフェースやウッドのソールに鉛が貼ってあると「いかにも」という感じが漂って、思わず一目置いてしまうのが一般ゴルファーでしたが、最近では可変式ウエイトが当たり前になったせいか、以前ほど鉛付きのクラブを見かけなくなりました。

とはいえ、プロの世界では日常的に鉛による調整が行われており、選手たちは弾道のズレを修正しつつ試合に臨んでいるようなのです。いったいその現場では実際にどういうことが行われているのか、われわれアマチュアも鉛を貼ったほうがいいのか、もしそうならどこに貼ればいいのか、そんな疑問をクラブデザイナーでありクラフトマンでもある宮城裕治さんにぶつけてきました!

鉛の役割は重心角を変えること


― 宮城さんは現在でも数多くのツアープロのクラブを調整しているとのことですが、鉛を貼ることはよくあるんですか?

宮城 それはありますね。アマチュアのクラブにも貼ります。

― ヒール側に鉛を貼るとつかまりが良くなり、トウ側に鉛を貼るとひっかけを防げるとよく言われますが、これは重心位置を変えてヘッドの挙動を変えるという仕組みなんでしょうか?

宮城 重心距離や重心深度を鉛で変えることはできないんです。私は実際にクラブを設計しているからわかるのですが、重心を1ミリコントロールするためには、バックフェースに鉛を貼るぐらいではコントロールできないんです。ですから鉛を貼って重心をコントロールするというのは間違いで、実際には重心角をコントロールするんです。


― 「重心角」とはクラブを横に置いたときのクラブヘッドの傾きですね。

宮城 要はフェースをかぶせたいのか、それとも開きたいのか、ということです。重心角に対してシャフト軸から垂直に引いた線が基準となって、線よりもフェース寄りに鉛を貼ればアングル(角度)は小さくなって開き傾向になります。逆に線よりも後方に貼るとアングルは大きくなり、つかまりが良くなるということですね。

ドライバーの鉛の位置

― 鉛を貼ってつかまりを変えるということなんですね。

宮城 つかまり過ぎる場合は振りづらくしてあげるのがポイントですし、つかまらない人は振りやすくしてあげます。それが鉛の効果なんです。

宮城 たとえば、アイアンでは重心角はほとんど変わりませんが、「ちょっと出球が左に出る」という場合はトウ側に貼ります。そうすると、シャフト軸線上の一番遠いところが重くなるので、0.5グラムの鉛でも振りづらくなります。スプーンでも1グラム要らないぐらいですね。トウ側に鉛を貼るとダウンスイングでもたつくので、左に出るのを防ぐことができます。

アマチュアは手の力で下ろすのでわからないかもしれませんが、プロはこのもたつきでちょうどいい感じに振り遅れます。すると「いい意味で振りにくくなった」というフィードバックが来るんです。これが鉛の効果で、「重心を動かす」とか「バランスを変える」ということではありません。0.5グラムから1グラムの中で球筋をコントロールするのが一番効率の良い鉛の貼り方です。

― 振り心地を変えて球筋をコントロールしているんですね。そのコンセプトは初めて聞きました。となるとチーピンする場合はトウ側ですね。

宮城 注意しなければならないのは、トウに1グラム貼るとバランスを1.5ポイント重くしたぐらい影響が出るので、アマチュアの場合はかなり振りづらくなるかもしれません。チーピンが出る人は鉛というよりも、フェースをかぶせて構え、逃がしながら打ったほうが結果が良いと思います。

スライサーは鉛を貼ってはダメ!


― つかまらない場合は逆ですか?

宮城 実際問題として「つかまらない」を解消するために鉛を貼ることはほとんどありません。なぜならヘッド加重してしまうと、余計振り遅れるからです。

ドライバーでヒール寄りに0.5~1グラムほど貼ることはあっても、アイアンでは貼りません。アイアンがつかまらない場合は、ボール位置やフェースのセットアップなどで解決すべきでしょう。スライサーは振れていないのでスライスするわけで、そこに鉛を貼ると振り遅れてどんどん悪い方向に行ってしまいます。

これに対して逆のパターン、右に出てつかまり過ぎる場合や、アドレスのラインに対してクロスして左に出てしまう場合には、トウ側に貼って振りづらくすると解決します。もっとも、これはあくまでアマチュアの話で、プロの場合にはヒールに貼ることもあります。

― 鉛を貼る位置や大きさに基準はありますか?

宮城 ドライバーでもアイアンでも、小さいエリアに何枚も重ねて貼ります。たとえば、1グラムだったら0.3グラムを3枚重ねて貼ります。全体に貼るとぼやけてしまうので、ピンポイントで加重するのがコツですね。

宮城 位置に関しては、なるべく少ない重さで効果が出る場所に貼るということです。3グラムとか貼ってしまうとバランスが大きく変わり、元のクラブの性能が出なくなってしまいます。プロの試合会場で貼る場合は0.5グラム以内でなんとかしていました。カットする形はセンスとしか言いようがなく、自分の場合は鉛を貼ったことがわからないようクラブのシェイプに合わせてカットしたりしています。

― 貼り方にコツはありますか?

宮城 貼り方自体は裏に粘着がついているので簡単ですが、薄い鉛を使うことをおすすめします。自分はロールになっている業務用を使いますが、市販でも薄いものがありますので、鋏で小さくカットして貼ってください。ただ貼るのではなく、貼った後に叩いたり圧縮してクラブと馴染ませることが必要です。

― 最近はあまり見ませんが、昔はアイアンのバックフェースに大きな薄い鉛が貼ってあるのをよく見ましたが、あれは貼り過ぎですか?

宮城 あれは重さが足りないときに貼るんです。シャフトの中で加重してバランスを上げるのではなく、「外鉛で」という指定があるときにああいう貼り方をするんです。この場合は全体的に張ったほうがいいので、当たらない部分、たとえばキャビティ部分の形に合わせてカットして貼ったりしていました。

宮城 というのも、昔のクラブは短かったので、軽く感じるプロがたくさんいたんです。それに比べると今のヘッドは重いので、鉛を貼って良くなるというケースは少ないかもしれません。昔みたいにドライバーで198グラムぐらいだったら4グラムぐらい貼っても全然オッケーでしたが、今のヘッドは重くて長いので、そもそも最初から振りづらいんです。そういうクラブで右しかいかない、スライス回転になるという場合は、短く持つことが効果的でしょう。あるいは短く切った上で鉛を貼るとか。長さが振りにくさに直結してしまうので、短くするということが振りやすくするための近道です。

― 今どきのドライバーには弾道調整機能がついているものも多いですが、それらのクラブでも鉛を貼ることはありますか?

宮城 ありますね。プロはシャフトの刺し方でフェースの向きを変えるような機構を「構えづらい」と言って嫌います。また、重りをスライドさせる機構もあまり使いたがらないですし、「だからヘッドが重たくなるんだ」と言って重り自体を取ってしまう場合すらあります。もちろん重りをトウ側にずらせば振りづらくなって、鉛を貼るのと同じ効果があるんですが、自分が知る限り目いっぱいずらすプロはいないんです。

― そこはやはり0.5~1グラムの調整が必要なんですね。貴重なお話ありがとうございました。

宮城 裕治

一世を風靡したウェッジ『MT-28』『MTi』を設計したクラブデザイナーで最近の作品には『PROTO CONCEPT』がある。クラフトマンとしてもツアープロの信頼が厚く、世界トップ選手から指名されるほどの高い技術力を誇る。クールデザイン主宰。

絵と文
Honda GOLF編集部 小林一人

Honda GOLF編集長のほか、ゴルフジャーナリスト、ゴルフプロデューサー、劇画原作者など、幅広く活動中だが、実はただの器用貧乏という噂。都内の新しいゴルフスタジオをオープンし、片手シングルを目指して黙々と練習中。

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