ゴルフがちょっとわかってくると、アイアンのシャフトが気になってくるものです。重さは? スペックは? スチールシャフト? それともカーボン?…などなど、悩みは尽きません。最近ではカーボンとスチールのいいとこ取りのシャフトもあったりして、どれが自分に合うのかを見極めるのはなかなか困難です。そこで、シャフトのスペックを知り尽くしているといっても過言ではないクラブデザイナーの宮城裕治さんにご登場いただき、アイアンのシャフト選びについて教えてもらおうと思います。

実はとても危険なのがアイアンのシャフト選び。間違えるとスイングが壊れます。
前傾姿勢が辛ければ
カーボンで長めに組むのも手
― アイアンのシャフト選びについてですが、まずはスチールにするかカーボンにするかというのが、アマチュアの悩みどころなんです。選ぶ際の基準みたいなものはありますか?
宮城 ある程度重たいものを打てるのであれば、スチールシャフトでいいと思いますよ。具体的には70グラムのスチールが打てるなら、スチールにしておくべきです。
みなさんはカーボンシャフトに、よくしなって打ちやすいという印象があるかもしれませんが、実際は軽いのに硬くできる、というのがカーボンシャフトのメリットなんです。スチールと同じ重さのカーボンならもっと打ちやすいということはなく、むしろ逆で、ツアーモデルのカーボンなんかを選んだらガチガチで打てません。
― ということは、ほとんどの場合スチールで良さそうですね。
宮城 歳とともに前傾姿勢が辛くなってきたなという場合、80グラムや90グラムのカーボンはありですね。なぜかというとシャフトを長くできるからです。長さで距離も出せるので、シニアは選択肢に入れてもいいかもしれませんね。
― シャフト選びに前傾姿勢が関わってくるとは…考えたこともなかったです。
宮城 アイアンを全部6番アイアンの長さに揃える海外のトップ選手もいますし、8番からサンドウェッジまでを同じ長さにしていた日本の有名女子選手もいました。
前者はすべて同じ前傾姿勢で打ちたいからですし、後者はショートアイアンで屈みたくないから、というのが理由でしたね。すべて同じ長さにするのは技術的に簡単ではありませんが、「ショートアイアンを短くしない」は面白い考え方だと思います。

特別な事情がない限り、アイアンのシャフトはスチールがいい。
リシャフトでカーボンにするのは要注意!
― 以前ツアープロがよくカーボンを入れていた時期があったと思いますが、あれはどういう理由だったのでしょう?
宮城 単純に流行だったからです。トップ選手が120グラムとか重たいカーボンを使っていましたが、ハードですし若くて元気だから振れていたのでしょう。あのようなツアーモデルのカーボンシャフトは、90グラムでも普通のゴルファーは打てません。どうしても使いたいなら、フレックスをRなどにしたほうがいいです。そうすることで、スチールのSRやSぐらいの感じになりますが、正直メリットはあまりないです。
フレックスとは?シャフトのスペックの基本はこちら
→ 自分に合ったシャフトの選び方
先端にステンレスが入っているコンポジットシャフトに関していうと、スイングがしっかりしているシニアにはありですね。ただ90グラムだとしっかりし過ぎているので、80グラムまでがいいでしょう。女性なら50グラム、60グラムで組むことはあります。

カーボンとスチールのコンポジットシャフトは80グラムまでが目安。
― お話を伺っていると、一般のアマチュアがカーボンにする必要は必ずしもなさそうですね。
宮城 基本的にはそうです。ただ、「1本取り(ロングアイアンに合わせたシャフトを使い、番手に合わせ先端をそれぞれカットしたもの)」した吊るしのカーボンアイアンセットは打ちやすいですよ。
なぜかというと、ショートアイアンが硬くなり過ぎないからです。みなさんショートアイアンを硬くしたがりますが、ドライバーに比べてヘッドスピードが出ないので、硬いと打てなくなってしまいます。7番アイアンは比較的グリーンに乗るのにショートアイアンはひっかかって乗らない、なんていうのはそのせいなんです。硬くてしならないと戻りが早いので、ラインを出して打つと、ヘッドがひっくり返ってまともに当たらないんです。
シャフト選びの決め手は
「ターフ」が取れるかどうか
― なるほど。ビギナークラスにコスパの良い吊るしのカーボンアイアンはありなんですね。
宮城 間違ってもツアーモデルが刺さっているような中古を買わないでください。カーボンに限りませんが、シャフト選びの基準として「ターフが取れる」ということが重要な要素だということは知っておいてください。
― え? アマチュアにはターフを取るなんて無縁だと思っていましたが?
宮城 ターフというのは、“スイング”で取るのではなく“シャフト”で取るものです。スペックが合っていれば、シャフトが遅れてきてそこからブン! とヘッドが走ります。このとき、ロフトが立ったままボールを押してくれるので、自然にターフは取れるんです。
硬すぎたりしならせ方が足りないと戻りが早いため、上っ面に当たってしまいます。だからといって、自分で手元を落として取るものでもないんです。たとえば、ターフに縁のない男性が女性用のアイアンで打つとターフが取れたりするんですが、あれはシャフトがほどよくたわむからです。手元も浮かないのでスイングも良くなりますよ。

ロフトが立った状態で当たり、シャフトがしなり戻って抜けていく際にターフが取れる。

しなり戻りが早いためにすくうような動きになり、クラブフェースは上を向いてしまう。
― ターフが取れるか取れないかがシャフト選びの基準ですか。これはわかりやすいですね。
宮城 日本の芝は欧米のように草鞋(わらじ)のようなターフは取れませんが、ボールの先の芝をソールが滑るような感覚はわかると思います。試打するときに、インパクトゾーンのヘッドの挙動に注目してください。
― シャフトのオーバースペックが、上達を阻んでしまうのか。女性用クラブで練習するのも良さそうですね。
宮城 スイングはなかなか変わりませんが、それを可能にする盲点的な練習かもしれません。最近では85グラムの良いスチールシャフトもありますから、パワーのある男性も試してみるといいと思います。手元が浮くとシャフトはしなりませんから、まずは手元が浮かないスイングを獲得することが大事です。

「シャフトのスペックでスイングは良くも悪くもなります」と宮城さん。