
冬場のゴルフが難しいことはみなさん薄々気付いていることだと思います。寒いと体が動きにくいものですし、厚着するとなおさらスイングはしにくくなります。当然のことながら夏場に比べて距離は出ませんし、ミスも多くなります。さらには地面が硬くなっているのでグリーンは止まりませんし、曲がったボールはどこまでも転がってしまいOB杭を超えてしまうことも珍しくありません。こうなるととてもスコアメークどころではなくなってしまいますよね。
もうひとつ忘れてはならないのは、ボール自体が寒さで飛ばなくなるということです。昔の糸巻きボールは、15ヤードも距離が落ちると言われていました。果たしてイマドキのボールはどうなのか、実験してみることにしました。
ボールを低温、常温、高温にして
データをとってみる
テストしたのは3種類のボール。世界中で使われている海外ブランドのスピン系ツアーボールA(カバー柔らかめ)と世界トップ選手が使っている国内ブランドのツアーボールB(カバー硬め)、そして国内ブランドのディスタンス系ボールCです。
これらを常温(約23度)と冬場を想定した低温(約3度)、それから真夏を想定した高温(約35度)に設定して打ち比べてみました。試打をお願いしたのはPGA(日本プロゴルフ協会)の岸副哲也プロです。
まずドライバーで打った場合ですが、冷たくしたAのボールの初速が常温より1.7m/sほど落ちて、飛距離も4.2ヤード減という結果。試打した岸副プロによると、冷たいボールの打感は明らかに硬く感じるということで、これはこのボールのカバーが柔らかいことと関係していると思われます。
カバーが硬めのBに関しては、冷たくても打感の変化はありませんでしたが(そもそも硬い)、データ的には初速が1.1m/s減りました。常温に比べると飛距離が5.6ヤード減です。やはり寒いと初速が減り、それと共に飛距離も落ちるようです。
真夏の温度ではボールAは変わらず、ボールBはスピン量と打ち出し角がやや増え、距離的にも常温から4.3ヤード減。打感は明らかに柔らかくなるとのことでした。
ボールAの平均値(ドライバー)
初速 | 打ち出し角 | スピン量 | 飛距離 | |
---|---|---|---|---|
低温(約3度) | 66.9m/s | 13.2度 | 2396 | 267.3y |
常温(約23度) | 68.6m/s | 14.4度 | 1971 | 271.5y |
高温(約35度) | 67.9m/s | 15.2度 | 2076 | 271.5y |
ボールBの平均値(ドライバー)
初速 | 打ち出し角 | スピン量 | 飛距離 | |
---|---|---|---|---|
低温(約3度) | 67.9m/s | 14.6度 | 2670 | 269.2y |
常温(約23度) | 69.0m/s | 12.8度 | 2670 | 274.8y |
高温(約35度) | 66.8m/s | 14.5度 | 2735 | 270.5y |
一方、ディスタンス系のCではどの温度でもデータ的に大きな差はなく、冷たいとやや打ち出し角が低くなり、真夏だとややスピン量が入るかなというぐらいでした。
岸副プロによれば打感の変化も感じないとのこと。どうやらディスタンス系は温度変化に強そうです。
ボールCの平均値(ドライバー)
初速 | 打ち出し角 | スピン量 | 飛距離 | |
---|---|---|---|---|
低温(約3度) | 67.8m/s | 13.0度 | 2063 | 270.8y |
常温(約23度) | 67.0m/s | 14.2度 | 2048 | 267.8y |
高温(約35度) | 66.5m/s | 14.4度 | 2442 | 269.8y |

試打をお願いした岸副哲也プロは「打感の変化ほど飛距離に差がありませんね」とイマドキのボールの性能に関心しきり。

計測に使用したのはスカイトラック。低温、常温、高温のボールを10球ずつ打って飛距離が平均に近い5球のデータを採用。
ドライバーとアイアンでは
飛距離の落ち方が違う?
7番アイアンではどうだったかというと、低温のボールAは常温に比べて打ち出し角と初速がやや減りましたが、飛距離の差は1ヤードなく、高温の際に飛距離が約4ヤード落ちました。
一方、ボールBは高温では飛距離の差が出ませんでしたが、低温時に初速が常温より0.9m/s落ち、スピンも増えて5.4ヤードの飛距離減。
カバーの柔らかいAは寒さに強く、カバー硬めのBは暑さに強いようです。
ボールAの平均値(7番アイアン)
初速 | 打ち出し角 | スピン量 | 飛距離 | |
---|---|---|---|---|
低温(約3度) | 51.0m/s | 19.0度 | 5816 | 174.9y |
常温(約23度) | 51.7m/s | 21.0度 | 5892 | 175.4y |
高温(約35度) | 50.8m/s | 18.7度 | 6362 | 171.3y |
ボールBの平均値(7番アイアン)
初速 | 打ち出し角 | スピン量 | 飛距離 | |
---|---|---|---|---|
低温(約3度) | 49.5m/s | 18.3度 | 6262 | 167.6y |
常温(約23度) | 50.6m/s | 19.0度 | 5829 | 173.0y |
高温(約35度) | 51.2m/s | 21.0度 | 6135 | 173.2y |
ディスタンス系の場合は、低温・高温ともにスピン量と打ち出し角が減り、飛距離もやや減。なお、トータル飛距離におけるキャリーの比率は、低温が92.9%、高温が93.0%、常温が93.7%でした。真冬と真夏は落ちてからのランが増えるということですね。
ボールCの平均値(7番アイアン)
初速 | 打ち出し角 | スピン量 | 飛距離 | |
---|---|---|---|---|
低温(約3度) | 50.5m/s | 18.4度 | 4430 | 178.5y |
常温(約23度) | 51.6m/s | 20.0度 | 5120 | 181.7y |
高温(約35度) | 50.7m/s | 18.9度 | 4719 | 180.9y |
まとめ
実験してみての印象は、思ったほど変化がないということでした。もちろん低温では距離が若干落ちるのは間違いありませんが、ドライバーで最大5.6ヤード、アイアンで5.4ヤードでしたから、この差を大きいとみるか小さいとみるかはゴルファーの主観とレベルによって違ってくるはずです。
多層構造のツアーボールの場合、カバーとコアの性質によって温度による飛びが変わってくるのも、この実験からわかったことです。
今回の場合、カバーが軟らかいボールAは低温だと打感に硬さを感じるものの、飛距離の低下はさほど見られず、カバー硬めで内部が柔らかめの素材でできたボールBは、打感は変わらないものの、飛距離は落ちるという結果になりました。高温では逆にボールAの飛距離が落ちましたので、スピン系ボールを使うなら、プレーする場所の気温によってボールを使い分ける必要はありそうです。
スピン系のボールに比べてディスタンス系では、顕著な変化がありませんでしたので、飛ぶボールを使っているアマチュアはさほど気にしなくていいのかもしれません。
寒いと打ち出し角が減るのはすべてのボールに共通していますので、ティーを高めにするなどして打ち出しが低くならないようにするのが冬のゴルフのコツといえるでしょう。
飛びすぎと飛ばなすぎ、
両方出るのが冬のアイアンショット
もうひとつわかったのは、スピン系は低温になると飛び方が安定しなくなるという事実です。特にアイアンでは、スピン量が減って低いドローボールになることが多く、数字が極端になった場合はデータから除外しました。飛び過ぎる球だけでなく、吹き上がって飛ばない球も出たことを付け加えておきます。
常温では極端なデータはほぼ出ませんでしたので、同じ現象が冬場に起こる可能性は高そうです。7番アイアンが200ヤードも飛んでグリーン左のOBゾーンへ、なんてことも十分起こり得ますから要注意ですよ。

冬のゴルフで気を付けるべきなのがアイアンショット。低スピンの球が出やすいが、硬い地面でバウンドするとどこに行くかわからない。
とはいえ気温が低いと空気密度が高くなり、空中を飛ぶボールには常温よりも大きな空気抵抗がかかりますから飛ばなくなります。ボールの温度変化よりこの空気抵抗の影響のほうが大きいぐらいかもしれません。
けっこう飛距離は落ちますから、そのぶんを計算して番手を選ぶのが冬のゴルフの鉄則です。ボールで5ヤード、空気抵抗で5ヤードとしても10ヤード減なので、最低1番手は上げなければなりませんし、実際には2番手上げなければいけない状況も多いでしょう。風が吹いたらなおさらで、「冬のアゲンストは全然飛ばない」のはプロの常識。3番手上げるのも珍しくないのが冬のゴルフの難しさです。