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ゴルフの雑学・マメ知識ゴルフ偉人伝「トニー・ペナ」
〜ターニーM85の生みの親

2014.07.30

トニー・ペナという名前に心当たりがあるなら、おそらくあなたはベテランゴルファーで、クラシッククラブに興味のある数少ない貴重な方でしょう。
その昔、ゴルフクラブといえばマグレガー社という時代がありました。トミー・アーマー、バイロン・ネルソン、そして帝王ジャック・ニクラウスといったスタープレーヤーがマグレガーのクラブで次々と勝利をもぎ取り、それと共にクラブの人気も上がっていったのです。
1940年代から50年代にかけて、「トミー・アーマー693」や「MTターニー」「M85」といった名器が誕生し、世界中のゴルファーの憧れとなりましたが、それらのクラブをデザインしていたのがトニー・ペナなのです。

トニー・ペナはイタリア系アメリカ人。少年時代にニューヨークの郊外にあるゴルフ場でキャディとして働いていましたが、14歳のとき、クラブをサンドペーパーで磨く仕事を得たことがきっかけで、クラブデザインの道を歩き始めます。ユーモアがあり、はっきりモノを言うタイプのペナ少年は、メンバーの金持ちたちに面白がられ多くの注文を受けることができたのでしょう。その優れたコミュニケーション能力は、彼のその後のキャリアに影響を与えます。

1930年ごろマグレガー社に入社し、最初は富裕層向けにクラブをデザインしていましたが、やがてプロゴルファーのためにもクラブを造り始めたところ、高い評価を得ます。そこでマグレガー社は、ペナのデザインしたクラブに、人気のあったトミー・アーマーの名を冠したクラブを発売したところ、これが大当たり。ペナ自身がクルマに乗って全米中をプロモーションして回っていた努力も実って業績はうなぎ上り。同社はペナの在籍した時期にクラブメーカーとして不動の地位を得ることになるのです。

クラブデザイナーとしてどれだけ優れていたかは、いまなお輝きを失わない名器の数々を見れば明らかです。PGAツアーで4勝を挙げたプロゴルファーでもあるペナは、自らがテストすることで、最高のパフォーマンスを発揮するクラブを造り上げていきました。ギア効果を生むラウンドフェースや、異素材のフェースインサート、アイアンの肉厚設計など、最新のテクノロジーが盛り込まれたクラブはゴルファーのパフォーマンスを大幅に向上させ、パワーゴルフの時代を作る一因を担ったといっていいでしょう。

驚くべきなのは、1954年に白いヘッドのウッドを発表していることです。いまでこそ当たり前ですが、当時は誰も考えなかった白い塗装を採り入れ、美しいクラブに仕上げたところにペナのデザイナーとしての非凡さと革新性がうかがえます。もともとあったクラブ造りの素質に加え、ディーン・マーチンやビング・クロスビー、ペリー・コモといった大スターたちとの交流によってセンスが磨かれたことで、遊び心に満ちた、美しく、機能的なクラブを次々と生み出すことができたのかもしれませんね。

パーシモンの時代は終わり、ペナが生み出した名器でプレーすることはなくなりましたが、もしまだペナが生きていたら、どのようなクラブを造り出すのかと想像するのは楽しいものです。イマドキのクラブは飛距離を伸ばすことだけをテーマに開発され、すぐに新製品が発表されてしまいますが、きっとペナなら、飛ぶだけでなく、美しくて、遊び心に満ちた、長く愛用したくなるクラブを造ってくれると思うからです。


Honda GOLF編集部 小林一人

Honda GOLF編集長のほか、ゴルフジャーナリスト、ゴルフプロデューサー、劇画原作者など、幅広く活動中だが、実はただの器用貧乏という噂。都内の新しいゴルフスタジオをオープンし、片手シングルを目指して黙々と練習中。

Illustration by Takashi Nemoto

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