ゴルフには和製英語がたくさんあります。「ナイスショット」はその代表的なもので、正しい英語では「good shot」と言います。もちろん「ナイスショット!」で通じないことはありませんが、英語を母国語にするゴルファーにとっては違和感のある表現のようです。またフックライン、スライスラインというのも日本人ゴルファーだけの言葉で、ボールが左に切れていくフックラインは「break to left」、右に切れていくスライスラインは「break to right」と言います。また「ダフリ」も和製英語で正しくは「fat shot」ですね。
他にも向かい風のときに使う「アゲンスト」が正しくは「headwind」だったり、追い風の「フォロー」が「tailwind」だったり、ゴルフでよく使われる和製英語は非常に多く、挙げたらキリがないのですが、パー3を意味する「ショートホール」、パー5を意味する「ロングホール」というのも完全に和製英語なので、海外では通じないことを知っておくといいでしょう。もちろんパー4を「ミドルホール」とも言いません。
「前半のショートホールでバーディをとったよ」とか、「池越えのロングホールはセカンドをダフって2オンできなかった」などと言っても、外国人ゴルファーは「どのホールの話???」と首をひねるだけです。もちろん短い(長い)ホールという意味で「ショート(ロング)ホール」と表現することはありますが、それはパー3に限らず、パー4でもパー5でも使います。
ただ「ショートホール」だけは通じることがあって、一般的に距離が140ヤード以下で、ある一定の条件を満たしたパー3を「short hole」と呼びます。その条件とは何かというと、20世紀の初めに確立したゴルフコース設計理論に「short hole」という基本コンセプトがあるのですが、ショートアイアンで打てる代わりにグリーンがバンカーで囲まれていたり、グリーン自体の形状が難しくなっているパー3ホールを意味します。ですから、距離が短くて、グリーンに乗らない限りはハザードにつかまり、乗ってもパッティングがやさしくないようなパー3なら「ショートホール」と呼んでも間違いではないのです。
「ザ・プレイヤーズ選手権」の舞台として知られるTPCソーグラスの17番ホールは典型的な「ショートホール」かもしれません。このホールはアイランドグリーンが採用され、グリーンに乗らない限り、ボールはもれなく池に落ちてしまいます。トーナメントで使用されるフルバックティーからでも137ヤードと短いのですが、にもかかわらず、世界のトッププロたちが大事な場面で池に落としてしまうのをよく目にします。まさに「Dead or Alive(生か死か)」といった結末が待ち受けるこの17番ホールは、設計者のピート・ダイが「short hole」のコンセプトをアイランドグリーンという形に落とし込んだ傑作ホールといっていいでしょう。

奇才ピート・ダイが世界最高峰の技を堪能できるトーナメントの舞台として造ったのがTPCソーグラス・プレイヤーズ・スタジアム・コース。四方を池に囲まれている名物の17番ホールは典型的な「ショートホール」だ
「ゴルフの聖地」であるセントアンドリュース、オールドコースの8番ホールにも「Short」という名前が付けられていますが、このパー3は距離が175ヤードあり、グリーンの四方がハザードでガードされているわけではないので、設計コンセプト上の「short hole」とは言えないかもしれません。しかしニックネームは紛れもなく「short hole」であり、例外的に和製英語がそのまま使えるパー3ホールといっていいでしょう。ちなみにオールドコース14番の618ヤードと長いパー5のニックネームは「long」であり、このホールでも「ロングホール」という和製英語は間違いになりません。
日本人同士でプレーしている場合は和製英語で構いませんが、海外でゴルフをしたり、外国人とプレーしたりする機会の多い方は、なるべく普段から正しい表現を使うようにしたほうがいいかもしれませんね。くれぐれも、「このショートホールは長いなあ!」などと言わないことです。200ヤードのパー3は「ショートホール」ではなく、「長いパー3」だということをお忘れなく。