リトルカブと私について
はじめまして。岐阜県下呂市在住、カブ好きイラストレーター今井ヨージです。
1999年、学生生活を過ごしていた名古屋で中古のリトルカブと出会い、通学や通勤、遊びでビルの谷間を走り回っていましたが、2013年に地元である岐阜県下呂市へUターン。リトルカブで野山を走り回る田舎暮らしを満喫しています。
この度、カブと過ごすワイルドな田舎暮らしを"原付クラブ"で紹介させていただくことになりました。さて、名古屋暮らしでは小さな前かごを付けただけのキュートなノーマルリトルカブでしたが…
田舎暮らしに最適化され、ずいぶんワイルドな佇まいになりました。そんな野性化したリトルカブとともに今回紹介する田舎ミッションが、薪ストーブの薪収集。薪ストーブユーザーの間では「薪活」と言われます。
田舎暮らしに最適化され、ずいぶんワイルドな佇まいになりました。そんな野性化したリトルカブとともに今回紹介する田舎ミッションが、薪ストーブの薪収集。薪ストーブユーザーの間では「薪活」と言われます。
4ストエンジンの
ロープウインチで丸太を搬出
薪ストーブといえばスローライフの定番設備ですが、その薪集めはスローライフとはかけ離れた軍事訓練のようなものだったりします。(←私にとっては)
そんな過酷な作業の中、楽するための努力は怠らない私が目をつけたのがエンジン式ロープウインチ。1トン近い力でロープを巻きとることで、林内や不整地から丸太を引っ張り出してくれる機械です。
こちらが米国ウインチメーカーのポータブルロープウインチ。我らがホンダの汎用4ストロークエンジン(35cc)を搭載しているのが見逃せません。林業で使われる本格的なウインチに比べればかわいいものですが、カブの荷台に積めるコンパクトさと軽さで、軽トラすら入れない場所でも歩いて持っていけるのが強み。
ニッチな輸入品なので新品は仰天プライスなのですが、数年前にネットオークションで中古を購入することができました。
数年前の台風で倒れたヒノキ
今回のターゲットは、数年前の大型台風で根こそぎ倒れたヒノキ。根本の直径は約40cm、長さは推定15m。このままでは腐ってしまうだけなので、地主さんに許可をいただいて薪にすることにしました。
チェーンソーで枝を切り落とし、長さ3m~4m程に切り分けます。完全に枯れて軽くなった倒木とはいえ、ある程度短くしても一人では転がすことすらできません。そこで満を持してロープウインチの出番となります。
チェーンソーや草刈り機の甲高い2ストサウンドとは異なる、優しげな4ストサウンドがたまりません。ゆっくり力強く回転するドラムがロープを巻き取ることで、3〜4mの重い丸太を引き寄せていきます。
バイク等のフロート式キャブレターは傾けるとエンストしてしまいますが、上の写真ではウインチが宙ぶらりんで横向きになっても問題なく動いています。これは、草刈り機やチェーンソーのエンジンでも使われるダイヤフラム式キャブレターの強み。
玉切りして薪割り
林の外まで引っぱり出した丸太を長さ40cm程度に切り分け、ようやく薪割り作業が始まります。
本来は薪割りしてから1~2年は乾燥させないとよく燃えないのですが、この木は倒れてから2年以上経過しているため、ほとんど水分が抜けており今年の冬には使えそうです。
カブが彩る田舎暮らし
以上、今回はロープウインチを使った「薪活」をご紹介しました。これらの活動のほとんどが自宅のすぐ近くでやってますが、荷台に道具が載る限りカブで行き来しています。カブの機動力と私の怠け癖もさることながら、人生の半分以上のつきあいとなるこのリトルカブは、もはや体の一部。これからも田舎暮らしを支え、彩ってほしいと思います。
※記事内容および車両の撮影は私有地内で行なわれたものであり、一般的な使用方法等を推奨するものではありません。
一昔前の農業に挑戦する
山の中で野良仕事をしていると、ふと一昔前の生活に思いを馳せることがあります。近年まで実家の納屋には原始的な農機具や山の道具が残っており、曽祖父の親の代あたりまでの暮らしの面影を感じることができました。先祖がそれらの道具を使ってどんな野良仕事をしていたのか想像するうちに、当時やっていたであろう素朴な農業にも興味が湧いてきたのです。
昔の素朴農業といえば米や麦が思い浮かびます。稲作は現在どこでもやってますが、麦は多くの食品の原料である割に、メジャーな産地でなければほとんど目にすることがありません。そんな麦の物珍しさと古き野良仕事への好奇心から、冬の間使っていない畑で麦でも育ててみようかというプロジェクトがスタートしました。
麦を育てて自家製麦茶を作る
麦を栽培して何に使うのかと考えたとき、小麦粉にするのであればおそらく買ってきたものと変わらないかそれ以下の品質になるだけなので、我が家で年中消費している麦茶にするのが合理的かつ楽しそうです。ネットで勉強したところ、麦茶向けの麦は「六条大麦の皮麦」とのこと。いまだに私も完全に理解できないのですが、麦には膨大な種類と品種、用途があります。
大麦には二条、六条があり、それぞれ裸麦、皮麦があってさらに品種があります。小麦には硬質小麦、中間質小麦、軟質小麦などがあって各々に品種があり、パン向けだったり菓子向けだったりパスタ向けだったりと大変マニアック。しかも、大麦は小麦より大きいのかと思いきや大麦の方が粒が小さく、名前の「大小」というのは用途の大小だそうです。しかし実際は小麦の方が圧倒的に多く消費されており、どうなってんだ、というと、製粉が発達していなかった時代は味噌や醤油の材料として大麦の方が多く使われていたためだということで一層混乱します。
麦の種まき (2019年11月)
9月頃にネット通販で注文しておいた六条大麦の種籾100gが到着。品種は「ファイバースノウ」といって、名前がかっこいいので選びました。
山の畑を耕運機で耕し10m足らずの畝が3列という大変ささやかな畑が完成。
種は適当に撒けば良いのですが、子供の頃に麦栽培の手伝いをした事があるという父親が得意げに指導に来ました。
種は適当に撒けば良いのですが、子供の頃に麦栽培の手伝いをした事があるという父親が得意げに指導に来ました。
麦の発芽と、麦踏み
種まきから約2週間で麦の芽が出ていました。本格的な冬に向けて日々寒くなる中、ニョキニョキ伸びる麦の苗ですが…
グシャー、と踏み潰します。これが麦栽培名物の「麦踏み」という作業。寒くなると霜柱で土が浮いて麦が弱ってしまうため、麦ごと土を踏み固める必要があるそうです。もちろん初めてやる事なので、躊躇しつつ恐る恐るの麦踏み。
冬の間、何度も踏まれて雑草にしか見えない麦ですが…
3月上旬に麦踏みを終えると力強く起き上がってきます。
気温が上がるにつれグングン背が高くなり、
4月下旬には穂が出てきました。
リトルカブで薪割りに行く道すがら麦の成長をチェック。麦畑らしくなってきました。
麦の収穫(2020年6月7日)
青々とした麦が黄色くなっていくことを登熟と言います。登熟しきった頃に梅雨に入るため、6月に入ってから天気予報と麦の様子を見ながらソワソワしていましたが、収穫後に数日間天日乾燥させることも踏まえ、梅雨入り数日前に収穫を決行。
子供たちは稲刈りの手伝いで訓練されているため、割と慣れた手つきでザクザクと麦を刈り取っていきます。半年かけた麦栽培のハイライトなので私も刈りたいのですが、子供たちが刈った麦を紐で束ねる作業にかかりっきりです。
束ねた麦は使われていないビニールハウスの骨組みにかけて2日間、自然乾燥させました。
束ねた麦は使われていないビニールハウスの骨組みにかけて2日間、自然乾燥させました。
脱穀して芒(のぎ)を取る
天日で十分に乾燥したところで穂から麦を落とします。機械を使うほどの量ではないので、叩いて落とす原始的な作戦。使っているのは「横づち」とか「藁づち」と呼ばれるもので、昔から実家の納屋にあったものです。ザクザクと麦が落とせて気持ちいいのですが、子どもたちが夢中でやっているので私は麦ワラの片付け係に。
麦には芒(のぎ)というトゲのようなものが生えています。麦をゴム手袋で握り潰すように揉んで芒を落とし、手箕(てみ)でバサバサふるって取り除きます。この作業も原始的かつ面白いように芒が吹き飛んで爽快。
麦には芒(のぎ)というトゲのようなものが生えています。麦をゴム手袋で握り潰すように揉んで芒を落とし、手箕(てみ)でバサバサふるって取り除きます。この作業も原始的かつ面白いように芒が吹き飛んで爽快。
麦を焙煎して麦茶を作る
こうしてようやく食材らしい姿の麦となり、いよいよ麦茶作りとなります。麦を水洗いして一晩乾かした後、フライパンで焙煎。趣味でコーヒーの焙煎を嗜んだことがあるのでイメトレは万全です。
中火で煎りはじめてしばらくするとパチパチとポップコーンのように弾けて粒が膨らんできます。
家の中はもちろん、家の外まで麦の香りが漂う中、ムラなくそれっぽい色になるまで焙煎すること約15分。ここぞというタイミングで火から下ろし、いつもの麦茶の手順で煮出して冷やせば約半年かけた自家製麦茶の完成となります。
さっそく試飲したところ、買ってきた麦茶よりも明らかに麦の香りが強くゴージャスな麦茶になりました。しかし市販の麦茶よりも微かな酸味があり、思ったよりも焙煎が浅かったかもしれません。これはこれで珍しい浅煎り麦茶ということで楽しめるのですが、焙煎にうるさい私としては、より深くてビターな方向でリトライしたいところ。今後、理想の焙煎具合を見つけたら、大きな鍋と焚き火で一気に焙煎したいと思います。
ふとした思いつきから始まった麦栽培でしたが、思いのほかうまくいって古き農業の一端を追体験することができました。100年以上のアドバンテージを持ってしても先祖の仕事には及ばない気がしていますが、耕運機やチェーンソー、ロープウインチ、そしてカブなど、現代の道具に頼りながら、これからも自由気ままな野良仕事を楽しんでいきたいと思います。
※記事内容および車両の撮影は私有地内で行なわれたものであり、一般的な使用方法等を推奨するものではありません。