近年、着用の意識が高まっている釣り用のライフジャケット。釣り場で万一落水してしまった際、浮力を確保して溺れないようにするのが主な役割ですが、釣具店に出かけても複数のタイプがあります。また船釣りでは国土交通省の認定品の着用が義務化されるなどの新しいルールが導入されています。ここではライフジャケットの種類や着用義務の現状、さらに効果を正しく得るための着用法などをわかりやすくご紹介します。

膨張式と固型式の2タイプ

現在、釣り用のライフジャケットには、大きく分けて2つのタイプがあります。1つは「膨張式」で、もう1つが「固型式」です。

右が膨張式、左が固型式のライフジャケット

膨張式は、ナイロンのカバーの中に、ガスが送り込まれると膨らむ気室が折り畳まれて入っているものです。船釣りなどでよく見かけるもので、小型のボンベが付属しており、落水時は本人がヒモを引くか、あるいは水を感知すると作動する自動膨張機能によってボンベから気室にガスが充填されます(後者は自動膨張式の場合)。「首掛け(肩掛け)タイプ」と「腰巻きタイプ」の2つがありますが、基本的な構造はどちらも同じ。気室が膨らんだら、その部分を浮き輪のように使って救助を待ちます。

腰巻きタイプは体を覆う部分が少ないため特に動きやすい
落水して気室にガスが送り込まれるとこのように膨らむ

固型式は、いわゆるベスト型(チョッキ型)のライフジャケットです。前面や背面に固体の浮力体が入っていて、水に落ちた場合はそのまま浮きます。子ども用のライフジャケットはすべてこのタイプ。また、磯釣りなどで着用するフローティングジャケットも固型式のライフジャケットの一種です。

船釣りは桜マーク付きの着用が法令で義務化。他の釣りは実情に合わせた着用の推奨が進んでいる

ライフジャケットは着用することで救命率が上がります。たとえば海上保安庁の海のレジャー活動にともなう人身事故の統計では、ライフジャケットの着用者と非着用者とでは、生存率におよそ2倍の差があるという結果が出ています。その中でも釣り中の事故は、遊泳、プレジャーボート等の乗船、サーフィンなどと比較しても多い傾向があり、「ライフジャケットを着用することで、万一の時も2倍の確率で命が助かる」という点をまずは明確に意識しておくことが大切です。

遊漁船の釣りは桜マーク付きのライフジャケットの着用が義務

そのうえで、船からの釣りに関しては、平成30年(2018年)の2月から、すべての小型船舶の乗船者について、国の安全基準への適合が確認されたライフジャケットの着用が義務化されました。一定の浮力などの基準を満たしたライフジャケットは、桜をかたどった国土交通省の検印が捺されることから、通称「桜マーク付きのライフジャケット」といわれます。仮に浮力などは同等と思われるようなライフジャケットであっても(一例としては、アメリカやEUなどの国外の基準を満たした海外製品)、ルール上は「桜マーク付きのものでなければ法令違反」となってしまうので気を付ける必要があります。最も簡単なのは、釣り船で貸し出している桜マーク付きのライフジャケットを借りて着用する方法です。

画面中央にある検印が桜マーク(写真は膨張式)

一方、釣りには船釣り以外にも、磯釣り、防波堤の釣り、筏・カセの釣り、海釣り施設の釣り、サーフ・河口域の釣り、淡水での岸釣りなど、さまざまな形態があります。その中で、たとえば磯釣りだと、尖った岩場や貝殻が付着している場所も多くあるので、気室を膨らませて機能させる膨張式のライフジャケットは向きません。すると桜マーク付きの膨張式ライフジャケを着用するよりは、一定の品質を守って作られた磯釣り用のフローティングベスト(固型式)を着用するほうが実用的で安全度も高いということになります。

突起物が多い磯釣りでは固型式のフローティングベストが基本になる

こうした実情を踏まえ、現在の釣り業界では、国土交通省や海上保安庁とも連携しつつ、「船釣りは桜マーク付きのライフジャケットを必ず着用(法令による義務)」「その他の釣りもライフジャケットの着用そのものを積極的に推奨・啓発していく」というのが大きな取り組みになっています。釣りのテレビ番組などで、出演者が「ライフジャケットを着用しましょう!」と呼びかけ、その旨のテロップが冒頭に表示されることが増えているのもそうした背景があります。

正しい効果を得るには正しい予備知識が不可欠

ライフジャケットを着て安全に釣りを楽しむには、「正しく着用する」ことも非常に大切です。膨張式、固型式を問わず、間違った着用方法で身に着けていると、いざという時に役割を果たさないためです。

たとえば膨張式の場合、「膨らんだ気室を浮き輪として使う」ことを明確に意識しておくことが大切です。その際、首掛けタイプのものは首を後ろから支える枕のように使い、腰巻きタイプのものは脇の下に挟むようにして使うという違いがあります。その違いをあらかじめ理解していないと、膨らんだ気室を正しく使って浮いていることが難しくなります。また、膨張式のライフジャケットをレインウエアの下に着るのも絶対に避けなければいけません。万一、落水した時にレインウエアの中のお腹のあたりで気室が膨らんでしまうと、頭を海面から出すことが難しくなり、かえって海水を飲み溺れる原因になるからです。

膨張式は必ずウエアの一番外に着用する。写真は腰巻きタイプで浮かぶ時の例

また、固型式のライフジャケットであれば、着用中は前のチャックやヒモをしっかり締め、さらに股ヒモを必ず留めます。これをしていないと、落水した時の衝撃で、ライフジャケットがするりと体から抜けてしまうからです。大人はもちろんですが、子どもにライフジャケットを着せる時も、親が必ず「前のチャックと股ヒモもしっかり締める」ところまで確認してあげることが必須になります。

固型式は前のチャックと股ヒモを必ずしっかり留める

ライフジャケットの機能やルールをしっかり理解して、ぜひ安全な釣りを楽しんでください。

※このコンテンツは、2022年11月の情報をもとに作成しております。最新の情報とは異なる場合がございますのでご了承ください。