2022年6月1日から、クロマグロの遊漁(レジャーによる釣り)に関する、新たな規制が始まりました。これは2021年から始まった、資源保護のためのクロマグロ遊漁の規制の延長にあるものですが、この問題をきっかけに、日本の水産資源管理を今後どのように進めていくべきなのかという、より大きな課題が注目されるようになっています。

発端は2021年の6月でした。そもそもクロマグロについては、世界的な資源管理が行なわれています。具体的には日本も加盟している中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)という国際組織において、クロマグロの漁獲枠(漁獲上限)が国単位で定められています。しかし日本(管理する水産庁)では、商業漁業が占める割合が圧倒的に大きいこともあり、長年、遊漁でとれる分のクロマグロはこの漁獲量に数えていませんでした。

マグロ類の釣りは全般に人気が高い(写真は相模湾のキハダマグロ釣りの風景)

しかし、遊漁による漁獲も全体に影響する可能性があるとして調査を進めたところ、水産庁が想定していた漁獲ペースを上回っていたこともあり、2021年の6月に30kg未満のクロマグロのキープ禁止、30kg以上は要報告という規制が決定します。その後、2021年8月21日からは、遊漁に割り当てた年間20トン(2021年度)の枠を超えるとして、2022年5月31日まで日本の全海域でクロマグロの遊漁が一切禁止とされました。一連の規制は、結果として非常に駆け足で導入されることになったため、釣り船、旅館、コンビニなど、それまで何年にもわたってクロマグロの釣り客を受け入れてきた地域や関係者に大きな混乱を与えました。

クロマグロの資源量は現在回復傾向にあるとされるが、2021年に実施された遊漁への規制は全般に急なものだった

そして、「遊漁者・遊漁関係者の意見が反映されない形で、なぜこのような規制が急に決まるのか?」といった意見が多く上げられました。その背景には、遊漁に割り当てられた20トンという枠が、日本全体に割り当てられた漁獲枠の中では非常に小さいのに(約0.2%相当)なぜという、関係者の切実な思いがあります。その際、遊漁者・遊漁関係者側からも、クロマグロの資源管理が必要なこと自体について反対する意見は、ほとんどなかったことは明記しておく必要があります。

国際的な流れに従えば、水産資源を管理する枠組みの中にスポーツフィッシング(=遊漁)も含まれるのは必然です。アメリカ、オーストラリアなどの多くの先進国では、クロマグロを含む多くの魚類で、スポーツフィッシング(=遊漁)も漁獲枠の設定がされており、厳格なバッグリミット(釣ってよい魚の数や大きさ)も導入されています。その代わり、スポーツフィッシングが経済的にも重要な産業と位置付けられ重視されています。

釣ってよい魚の体長・重量が細かく記された遊漁船のメジャー(オーストラリア)

一方、日本は昔から誰もが自由に釣りを楽しめ、遊漁船も参加する資源保護のためのルールが地域によって導入されているケースもありますが、今回の資源管理で拠り所になる漁業法でも、特に海においては遊漁の位置づけがなく、クロマグロ遊漁の規制のような大きな問題に対して、遊漁者・遊漁関係者がステークホルダーとしてしっかり関われる、組織的・文化的な裏付けがない状況でした。クロマグロという魚をとおして、そうした課題が改めて浮き彫りになったのです。

日本でも遊漁者・遊漁船が自主的にバッグリミットを考えているケースは増えている(写真は房総半島のイサキ釣りと伊豆半島沖のキンメダイ釣り)
日本でも遊漁者・遊漁船が自主的にバッグリミットを考えているケースは増えている(写真は房総半島のイサキ釣りと伊豆半島沖のキンメダイ釣り)

今後は他の魚類に関しても、同様の資源管理や課題が検討される可能性が大きくなるといわれています。どんな魚であっても、必要以上の魚を釣らない・持ち帰らないという普段からのマナーが大切なのは言うまでもありません。そして、必要な資源管理については積極的に協力しながら、釣りが楽しめる環境を守ってほしいという意見をしっかり表明していくことも必要です。クロマグロについては、資源管理に向けて釣り業界の窓口としての機能を果たすことを主な目的に、クロマグロ遊漁船事業者協議会が設立されるといった動きも出ています。

現在、世界的にSDGsなど持続可能な社会への取り組みが加速しています。そうした中、「遊漁」を取り巻く環境もまた、大きな転機を迎えているのです。

2022年6月1日からの
クロマグロ釣りに関する規制

  • ※詳しくは水産庁HPをご参照ください。
  • ① 小型魚(30kg未満のクロマグロ。シビ、ヨコワ、メジ等を含む)は採捕禁止。釣れてしまったら直ちにリリース。
  • ② 大型魚(30kg以上)のキープは一人一尾まで。一尾釣れたあとに別のクロマグロが釣れてしまった場合は、あとに釣れたクロマグロを直ちにリリースする。(特定の人が一度に釣りすぎないようにするための新ルール)
  • ③遊漁者は、キープしたクロマグロについて、重量・海域等について報告の協力が求められる(スマホアプリでも報告が可能)。キャッチ&リリースしたクロマグロについての報告の義務はない。
  • ④ 採捕量が表中の期間ごとに概ね表中の数量を超えるおそれがある場合、その期間中はクロマグロの採捕が禁止になることが公示される(地域により採捕できる時期が異なるため、地域的な不公平を少なくするための新ルール)。

    時期数量
    2022年6月10トン
    2022年7~8月10トン
    2022年9~10月10トン
    2022年11~12月10トン
  • ⑤ 全体の採捕量が40トンを超えるおそれがある場合、2023年5月31日までクロマグロの採捕が禁止となることが公示される。
  • ⑥ 採捕禁止期間中はキャッチ&リリースであっても釣りをしない。
  • ⑦ 指導に従わない悪質な違反者に対しては、農林水産大臣が指示に従うよう命令(裏付け命令)をし、その命令に従わなかった場合、罰則(1年以下の懲役、50万円以下の罰金等)が適用される(漁業法第191条)
※このコンテンツは、2022年6月の情報をもとに作成しております。最新の情報とは異なる場合がございますのでご了承ください。