大きな魚が釣れた時、「この魚はいったいどれくらい生きているのだろう?」と気になったことはないでしょうか。海外のとある人気釣り番組で、「水中に生きる魚は重力の影響を受けないので、どこまでも大きくなる」といったロマンが語られているのを見たことがありますが、実際のところは、人間の成長と同じで一定の限度はあるようです。

釣り人にとって「大もの」はやはり憧れです。どんな魚も大きくなれば顔つきにも迫力が出て、時に畏敬の念すら覚えます。シーバスであれば「ランカー(80cm以上)」、クロダイであれば「年無し(としなし・ねんなし/50cm以上)」、メバルなら「尺メバル(30cm以上)」など、それぞれに特有の名前を付けて呼ぶのも、それだけ大きく育った魚には価値があることを釣り人は知っているからです。

全国で人気の高いシーバスのルアーフィッシング。ランカーサイズは多くのアングラーの憧れ

では、ランカーシーバスはいったい何歳といえるのでしょうか? 現在のところ、「80cm以上なら年齢は10歳以上」というのが1つの基準になっています。これは各地で行なわれた複数の調査結果から導かれたもので、実際の調査はサンプルが多く取れる成長期の個体を中心に行なわれており、たとえばシーバスであれば、「東京湾では生後1年で体長20cmから25cm、2年で30cmから35cm、3年で40cmから45cm、体長60cmに達するには生後5年ほどを要する」ことや「播磨灘と房総では、1歳で20cm、2歳で30cm、3歳で40cm」といったデータがまず得られ、それらから導かれる成長曲線によって、「シーバスであれば、80cmを超えるのに少なくとも10年かかることはほぼ確実といえる」ということから導かれています。

イブシ銀の魚体が美しいクロダイ。大ものは「年齢が分からない」という意味で「年無し」と呼ばれる

ちなみに、魚の年齢を調べるのには、鱗、脊椎骨、耳石(じせき)など、古くからさまざまな方法が試されてきましたが、現在のところ最も信頼性が高いとされているのは耳石による調査です。ただし実際には耳石についても多くの不規則要素があるため、「長年の経験にもとづく、正しく読み取る目が必要」といわれています。耳石とは魚の頭の骨の中にある石のようなもので、断面を読み取れるようにカットしたものを顕微鏡で拡大すると、木の年輪のような筋が確認でき、この筋が1年に1本作られていることがしっかり確認できたら、そこから年齢を推定します。

さて、耳石は魚を殺さないと調べられません。つまり、「大きな魚ほどサンプルが少ない」「希少な大きな魚の年齢を調べることを目的に、その大きな魚を殺してしまうのでは本末転倒」という問題も生じるため、大きな魚が何歳なのか、半分は推測できても半分はロマン……というのが現状になっています。

北海道に棲息する希少種で、淡水魚では最大クラスに育つイトウ。近年は生体を傷付けない鱗による年齢推定の可能性が改めて追及されている

また、別の問題もあります。富山湾で行なわれたクロダイの調査では、複数の個体を調査した結果、最高齢の魚は約30歳でした。寿命がとても長いことが確認されたのですが、年齢と大きさの関係については個体差が大きかったのです。その約30歳のクロダイも大きさは40cm台でした。広島大学の海野徹也さん(クロダイ釣りのファンとしても著名)の調査でも、50cmクラスのクロダイの平均年齢は17歳だった一方で、40cm台で20歳のものもいれば、60cmで10歳台のものもいて、大きさと年齢の関係についてはばらつきが大きいという結果でした。つまり、「クロダイは何センチなら何歳」とは、単純に言いきれないのです。

とはいえ、年無しクロダイであれば、優に10年以上生きてきた魚が多く、もしかすると30歳の可能性すらあります。「大きな魚が釣れた!」と喜ぶだけではなく、魚の成長にまで思いを馳せることができれば、釣りを楽しませてくれる生きものへの感謝も改めて湧いてくるに違いありません。

※このコンテンツは、2022年1月の情報をもとに作成しております。最新の情報とは異なる場合がございますのでご了承ください。
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