マダコは無脊椎動物の中でも突出して高い知能を持つといわれます。実際、船のマダコ釣りでは、釣れたマダコをチャック付きの洗濯ネットに入れて足元のバケツに入れておくのですが、気が付くと脱走していることがあります。「どうやって?」と不思議に思って見てみると、なんとネットの内側から器用にチャックを開けている……という具合です。

エギに抱きついた良型のマダコ。脳が発達していて好奇心も強いといわれる
釣ったマダコはネットにしまって海水循環バケツに浸けておく。それでも脱走することがあるので注意!

最近では、南アフリカの冬の海を舞台にマダコとダイバーの交流を描いた『オクトパスの神秘: 海の賢者は語る』(監督=ピッパ・エリッシュ、ジェームズ・リード、配信=ネットフリックス)という映画も話題になりました。2020年に製作されたこの映画は、2021年4月に英国アカデミー賞でドキュメンタリー映画賞を受賞。そして米国アカデミー賞で長編ドキュメンタリー映画賞を受賞しました。内容はやはりマダコの知能の神秘が分かるものです。

近年、そんな海の賢者の釣りが高い人気です。マダコは食べても大変美味しく、乗合船のターゲットとして古くから定番でしたが、ここ数年でさらに人気者になりました。理由は2019年の東京湾と、兵庫県の明石海峡で、それぞれマダコが大量発生したこと、さらにそのタイミングで「エギタコ/タコエギング」という新しい釣り方が流行り始めたことが関係しています。

近年のマダコ釣りは、サオとエギを使ったスポーティーなルアースタイルが人気だ

「エギタコ/タコエギング」とは、ロッドとリールでタコ用のエギをキャストして軽快に探るルアーフィッシング感覚の釣りです。従来は太い糸の先にエサのカニを縛り付けたテンヤを付け、それを手で直接動かしてマダコをねらう手釣りが一般的だったのですが、サオとエギを使う釣り方はエサが要らず、なおかつよく釣れるというので人気に火がつきました。前述のとおりエサが不要なほか、キャストすることで広範囲を探れ、なおかつサオを通じて底の感触やタコの触りを察知でき、サオの長さや仕掛けの高さで根掛かりも回避しやすいといった点が多くの釣りファンに受けています。

エギタコ/タコエギング

タコ専用のエギはカンナ(刃)が大きい。数本を同時に付けると目立つだけでなく、音が出ることでさらにマダコの興味を引く
タコ専用のエギはカンナ(刃)が大きい。数本を同時に付けると目立つだけでなく、音が出ることでさらにマダコの興味を引く
タコ専用のサオ(タコエギング用ロッド)は、8:2の先調子でバットが非常に硬く、一方でサオ先は柔軟に粘るものが多い

テンヤ

昔から使われてきたカニをエサにするテンヤ。今も根強い人気はあり、手で操作して船の真下をねらう
昔から使われてきたカニをエサにするテンヤ。今も根強い人気はあり、手で操作して船の真下をねらう

マダコの釣りは、同じエリアをねらっても、上手い人とビギナーでは何倍もの釣果の差が出ます。と同時に、びっくりするような大型は意外にも初心者や女性、お子さんに釣れる傾向がなぜか強いのもこの釣りの面白いところです。正直、他の魚釣りのような強い引きやファイトの面白さは全くありません。根掛かりかなと思った重みが、ズルっと剥がれる感触があったら、海面に上げてくるまでそれがマダコなのか、海底のゴミなのかは判別がつきません。ただ、そのゴミの中からマダコが出てくる……などというハプニングもあります。

沖堤防の周りなどをねらう際、キャストできればマダコの好む壁の際をタイトに探れる
優しい誘いが効果的なのか、女性アングラーが不思議と良型をヒットさせる場面をよく目にする

マダコ釣りは常磐、東京湾、大阪湾、広島、天草など各地で行なわれていて、最盛期はおおむね6~8月。産卵期とされる9月から禁漁を迎える所が多くなりますが、地域によっては晩秋から年末にかけて再びマダコ釣りが楽しめます。

引きが強いわけではないが、このサイズになると非常に重々しく、その重みがたまらない

マダコ釣りの楽しみは家に帰ってからも続きます。下処理は、以前は粗塩を大量に使って何度も揉み、汚れやヌルを落とす方法が一般的でしたが、現在は冷凍→解凍→水洗いだけという全く塩を使わない人が増えています。せっかくの新鮮素材を冷凍したくないという人は、船上で頭(頭部)をひっくり返して内臓を取り出しておくと鮮度が落ちません。その際は、大型になるほど激しく抵抗しますので、アオリイカなどと同様に、あらかじめ目と目の間にナイフなどを刺して締めてから作業するとやりやすいです。

家ではひとつまみの塩でよく揉むとヌルが大量に出ます。水で洗い流したら今度は塩を使わずにヌルでヌルを落としていきます。これを3~4回繰り返せばヌルは完全になくなります。あとは、さっとゆでる人もいれば、お茶の葉を使って色付けするなど、いろいろなゆで方があります。色を鮮やかにするには、たっぷりの湯でゆでたのちに火を止め、鍋に蓋をしてひと晩置くという方法もあります。この方法は身も軟らかくなり、刺し身はもちろん、煮付けや空揚げにも最適です。

※このコンテンツは、2021年7月の情報をもとに作成しております。最新の情報とは異なる場合がございますのでご了承ください。