釣りで人気の対象魚の中には、同じ魚であるのに、成長度合いや生活環境に応じて、大きく姿を変えるものがいます。

黒のストライプが特徴のイシダイ
老成すると同じ魚とは全く思えないほど姿が変わる

たとえば磯釣りで人気のイシダイは、若魚の頃はひとめでそれと分かる、黒い縞模様が体にありますが、大人になり老成したものはクチグロと呼ばれ、口先が黒くなって縞模様がすっかり消えてしまいます。その変わりようはとても同じ魚とは思えないほどです。

一方、単なる成長段階の違いだけではなく、他にも不思議な要因が働いて「これが本当に同じ魚なの?」と違いが出る魚がいます。それがサクラマスサツキマスです。

サクラマスとサツキマスはシロザケの仲間

サクラマスとサツキマスは親戚のような魚で、北海道などで見られるシロザケ(いわゆるサケ、シャケ)の仲間です。どちらもシロザケと同じように、オスとメスが川で出会って産卵。卵からかえった仔魚・稚魚は成長のために再び海に降り、親魚と同じ大きさに成熟したところで川に戻って子孫を残す……という生活史を送ります。そして、どちらもシロザケと同じように、川を泳ぐ魚の中でも立派で大きな魚体をしています。

なお、サクラマスとサツキマスは分布域が異なっていて、サツキマスは伊勢湾や瀬戸内に注ぐ河川に、サクラマスはそれ以外の日本海、太平洋、北海道周辺などの海に注ぐ川に遡上します。

北海道の沿岸部で遡上前に釣られたサクラマス。サクラマスは60cm、70cmクラスもいて、大きさもサケとそん色ありません
北海道では川でのサクラマス釣りが禁止されているため、沿岸部や船からの釣りが盛んです。主に使うのはルアーの一種であるジグです
北海道では川でのサクラマス釣りが禁止されているため、沿岸部や船からの釣りが盛んです。主に使うのはルアーの一種であるジグです

サクラマスやサツキマスとシロザケの間には違いもあります。シロザケは秋に川を遡ってきますが(これを遡上といいます)、サクラマスとサツキマスは春に遡上します。そして名前のとおり、サクラマスはサクラの花が咲く4月頃、サツキマスはサツキの花が咲く5月頃が川を遡るピークです。そのまま川の中にとどまりながら、秋までになるべく上流部まで移動して(夏の下流部は水温が高すぎて棲息できないため)ペアになって産卵します。サクラマスとサツキマスは、川魚の中では大ものであり、さらに姿形も抜群に美しいので釣りでも人気です。

岐阜県の長良川で釣れたサツキマス。サツキマスは川釣りの対象魚で、サクラマスと比べると体の大きさは一回り小さいですが、姿の美しさでは全く引けを取りません

サクラマスの「陸封型」がヤマメ、サツキマスの「陸封型」がアマゴ

そんなサクラマスとサツキマスですが、実は魚としては、渓流釣りで人気のあるヤマメアマゴとそれぞれ同じ生き物です。サクラマスの「陸封型」とされるのがヤマメで、サツキマスの「陸封型」とされるのがアマゴになります。

ヤマメはサクラマスの陸封型。動きが俊敏で渓流釣りの人気ナンバーワンターゲットです
サツキマスの陸封型がアマゴで、姿はヤマメによく似ていますが、ヤマメにはない小さな朱点が体の側面に並びます

なぜこうした区別が生まれたかというと、マスの仲間は大昔から海と川を往来するのが本来の生活でした。しかし、地上に何度か出現した氷河期に一部が内陸に取り残されました(陸封)。その間に、サクラマスとサツキマスのそれぞれから、一生を川の中だけで過ごせるようなタイプ(ヤマメやアマゴ)が生まれたと考えられています。ヤマメとアマゴの特徴となっている青い斑紋はパーマークといいますが、これは「幼魚の模様」という意味です。海に比べてエサが少なく、成長のためのスペースも狭い川では、サクラマスもサツキマスも「幼魚のまま成熟して繁殖する」ようになったのです。大きさも姿も全く違うのに、それぞれが人気の対象魚で、生物学的には同じ魚というユニークな存在がこうして生まれました。

そんなユニークな魚ですが、特にサクラマスとサツキマスは将来の棲息が心配されています。なぜなら、人が堰やダムなどの構造物を次々と作ってしまい、海と川の繋がりを分断してしまっていることから、すでに数が大幅に減ってきているのです。美しく立派な彼らの存在は、人間が環境をどれだけ大切にできるのかを問いかけてもいるのです。

※このコンテンツは、2021年3月の情報をもとに作成しております。最新の情報とは異なる場合がございますのでご了承ください。