日本は海に囲まれています。各地の磯や堤防は釣り場として人気ですが、そこでよく見かける釣りには、たとえばメジナやクロダイをねらうウキフカセ釣り、あるいはアジやイワシをねらうサビキ釣りなどがあります。
それらの釣りでは、ハリに刺す付けエサと、匂いや味で魚を集めるためのエサがあり、後者は寄せエサ、撒きエサ、コマセなどの呼び方がありますが、なかでもよく使われているものに、「オキアミ」や「アミ」があります。
オキアミは1匹の大きさが3~5cmあるのでハリにも刺しやすく、付けエサの定番であるほか、細かく砕いて寄せエサにも使います。一方、アミの体長は1~3cmと小さいためハリに刺しにくく、もっぱら寄せエサとして使われます。
オキアミは多くの魚たちの大好物で、釣り場で寄せエサを撒けばたちまち多彩な魚たちがたくさん寄ってきますし、ハリに刺した付けエサもあっという間に食べられてしまいます。
日本には「エビでタイを釣る」ということわざがあり、船や磯からのマダイ釣りではオキアミが定番のエサです。ただ、実はことわざにあるエビとは、オキアミのことではありません。そもそもオキアミはエビの仲間ですらありません。
オキアミの標準和名はナンキョクオキアミといいます。その名のとおり、遠く南氷洋に生息する動物性プランクトンなのです。
今ではあまりに魚たちが好んで食べていることから、さぞかし古くからある定番のエサなのかと思いきや、もともと日本在来の生き物ではないのです。釣りエサとしての歴史も意外なほど浅く、1970年代に日本の大手水産会社が南氷洋で試験捕獲をし日本に持ち帰ってみると、非常に釣れるエサになることがわかり、そこから一気に人気を博して、広く日本中に流通するようになりました。現在も海の釣りの代表的なエサであり続けています。
そしてもう1つのアミの標準和名はツノナシオキアミといいます。アミはアミエビとも呼ばれていますが、こちらもエビではなくプランクトンの仲間です。日本の三陸沖を含む北太平洋の寒冷域に広く生息しています。
オキアミは南極の生態系を支える非常に大きな役割を果たしている生物です。南極には十数億トンほどの群れが生息するといわれ、巨大な体を持つクジラをはじめ、アザラシ、鳥、魚などの貴重な蛋白源になっています。そしてアミもヒゲクジラ類の主要なエサであり、もともとは白身のサケが海で生活して川に戻ってくると赤い身になっているのは、アミ(ツノナシオキアミ)などに含まれるアスタキサンチンの天然色素のためといわれています。
ちなみに、オキアミは見ためこそエビに似ていますが、食用にされることはほぼありません。一方、アミのほうは小エビに似た風味で、岩手ではアミ漁(イサダ漁)の解禁が春の訪れを告げる風物詩のひとつでもあり、乾燥させたアミは、煎餅の材料や輸出されてキムチの漬け込み材料となって、私たちの食卓にも届いています。